ジャクリーン・ケネディのピンクスーツの秘密。

カンヌ映画祭でオリバー・ストーンがジョン・F・ケネディの暗殺に関する新作ドキュメンタリーを発表した。3発の銃声の後大統領が倒れるという衝撃的な映像、そんな悲劇の中のピンクスーツ——あの日、ジャクリーン・ケネディが着ていた衣装だ。2103年まで日の目を見ることがない、この歴史的なセットアップを振り返る。

ダラスを訪問するジョン・F・ケネディとその妻ジャッキー。ケネディ元米大統領は、この直後、乗車する車列がディーリー・プラザを横切ったところで銃撃された。(ダラス、1963年11月22日) photo: Getty Images

選挙前の時期、ジョン・F・ケネディ大統領はダラスを訪れていた。1963年11月22日、テキサス州ラブフィールド空港の駐機場でエアフォースワンから降り立ったジャクリーン・ケネディは、ピンクのツイードスーツにネイビーのキルティングカラーを身につけていた。

彼女がこの装いで登場するのは初めてではなかったことは、当時うわさになっていたかもしれない。しかし、夫はこのセットアップを気に入っていた。また、ファーストレディのジャッキーも公式の場で同じ服を2回着てはいけないという慣習を気にしなかった。

そもそも運が良ければ、有権者はそれに気づかないし、注意も払わなかっただろう。カラー化された写真を掲載することで知られる「ライフ」誌を除けば、マスコミはまだモノクロ写真を使っていたのだから。

テキサスに到着したジョン・F・ケネディ大統領とジャクリーン・ケネディ夫人。(1963年11月22日、ダラス) photo: Getty Images

---fadeinpager---

シャネルのコピー

このダラス訪問は非常に重要だった。ジョン・F・ケネディは敵地に降り立ち、人種統合政策に抵抗する反抗的なこの街を説得しなければならなかった。ジャッキーのピンクのウールスーツは、夫への協力の意味を込めて選ばれた。

ココ・シャネルの1961年秋冬コレクションからそのまま飛び出てきたようなこのスーツは、実はコピー品だった。デザインはシャネルのものだが、ニューヨークのマディソン・アベニューにあるファーストレディお気に入りのシックなブティック「シェ・ニノン」でフィッティングと縫製が行われた。

この店は、クチュールドレスをコピーすることに特化していた。客は、パリで発表されるルックを選び、ライセンス料を支払う。通常、生地やボタンはパリの大手メゾンの工房から直接送られてくる。合法な手続きのもとで作られたこの衣装はジャッキーによく似合っていた。ファーストレディはメイド・イン・アメリカの服を着ていたのだ。

---fadeinpager---

3発の銃声

晴れていて、穏やかな日だった。ジャッキーは、大統領専用のオープンカーで夫のそばにつくと、白い手袋とピルボックス帽（少し高さのある丸い箱型の帽子）を整えた。

ケネディはテキサスの人々に自分の姿を見てもらいたいと、スピードを落として車を走らせた。歓声の中、挨拶するふたり。そして車がディーリー・プラザを横切ろうとした時、車列が通過するビルの6階に陣取っていた男が大統領に向かって発砲した。

1発目は外れ、2発目は首に当たり、3発目は頭蓋骨を吹き飛ばした。ジャッキーは、最初の発砲で夫が銃撃されたことを理解した。ジャッキーは反射的にリア部分に身を乗り出してケネディの頭部の一部を拾い、遺体の上に横たわった。そしてピンクのウールスーツには血が染み込んだ。

---fadeinpager---

公式声明

病院でジャッキーは着替えを拒否した。着替えの準備がされていた帰りのエアフォースワンでも同様だった。動機に同乗していたカメラマンやジャーナリストの前で、リンドン・B・ジョンソン副大統領が飛行中に宣誓し、第36代アメリカ大統領に就任した。そして、その傍らには、血で汚れたスイートピンクのスーツを纏ったジャッキーの姿があった。

これは彼女の公式声明であった。彼女は、夫を殺した犯人に「自分が何をしたのかを見て」ほしいと言い、カメラに映る前に顔の血を拭いたことを後悔していると述べた。

彼女がスーツを脱いだのは、アンドルーズ空軍基地で待機する救急車で夫の棺を運び出し、ホワイトハウスに到着してからのことだった。

ジョン・F・ケネディ暗殺後、ジョンソン副大統領はエアフォース・ワンで宣誓した。傍には血のついたピンクのスーツを着たジャクリーン・ケネディの姿があった。(1963年11月22日、エアフォース・ワン) photo : Getty Images

このピンクスーツは洗わずに袋に仕舞われ、8カ月後にアメリカ国立公文書館に送られた後、二度と世に出ることはなかった。

母の死から9年後の2003年、キャロライン・ケネディは正式にこの衣装をアーカイブスに寄贈したが、「威厳のない、センセーショナルな使用」や「家族に不必要な悲しみや苦しみを与えること」を避けるため、あと100年は一般に公開しないようにと要請した。その間、ピンクのスーツは暗闇の中に眠る。

---fadeinpager---

写真で振り返る、ジャクリーン・ケネディのピンクスーツ

テキサス州ラブフィールドでエアフォースワンから降り立つジョン・F・ケネディ米国大統領とファーストレディのジャクリーン・ケネディ。(ダラス、1963年11月22日)

photo : Abaca

---fadeinpager---

ジョン・F・ケネディ大統領とジャクリーン・ケネディ夫人がテキサスに到着。(ダラス、1963年11月22日)

photo : Getty Images

---fadeinpager---

大統領とファーストレディはテキサス州フォートワースの劇場を出て、JFKが暗殺される車へと乗り込んだ。(ダラス、1963年11月22日)

photo : Getty Images

車に乗り込むジョン・F・ケネディと妻のジャッキー。この後、大統領は、車列がディーリー・プラザを通過する際に射殺された。(ダラス、1963年11月22日)

photo : Abaca

---fadeinpager---

ジョン・F・ケネディ暗殺後、リンドン・ジョンソンがエアフォース・ワンで宣誓し、新大統領に就任。その傍には、血のついたピンクのスーツを着たジャクリーン・ケネディの姿が。(エアフォース・ワン、1963年11月22日)

photo : Getty Images

---fadeinpager---

アンドルーズ空軍基地で、血のついたスーツのまま、遺体を乗せた救急車に乗り込もうとするジャッキー。(ワシントン、1963年11月22日)

photo : Getty Images

---fadeinpager---

ホワイトハウスに運ばれたジョン・F・ケネディの棺に続く、ジャッキー・ケネディ、ロバート・F・ケネディ、シュライバー夫妻。(ワシントン、1963年11月22日)

photo : Getty Images