美しい服の理由。 プラダの21年秋冬コレクションから、7人のファッショントーク。
Fashion 2021.11.14
一着の服によってもたらされる高揚感や喜びは、何ものにも代えがたい。その服に込められた力は、いったいどこから来るのだろう。クリエイションの原点やメゾンのアティチュード、ものづくりの哲学など、私たちが愛してやまないファッションの物語を紐解いてみよう。今回は、プラダの話。
PRADA
[ プラダらしさとは ]
シンプルと複雑、エレガンスと実用性など、相反する要素を掛け合わせてデザインされたコレクション。ラフ・シモンズの得意なボンバージャケットを彷彿とさせるオーバーサイズのピーコートは、ビッグボタンをすべて閉じるとネックラインにトライアングルの隙間が現れるという仕掛け。セカンドスキンのようなニットブーツには、プラダらしい幾何学模様のグラフィックがジャカードで表現されている。コート¥748,000、ラップスカート¥231,000、片耳ピアス¥77,000、ニーハイブーツ¥221,100(参考色)(すべて予定価格)/以上プラダ(プラダ クライアントサービス)
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ミウッチャによるプラダにまつわる物語
2021年2月25日、プラダの2021AWのショーが発表された。そのショーの後、ミウッチャ・プラダ、ラフ・シモンズ、デザイナーのマーク・ジェイコブス、アカデミー賞のノミネート経験を持つ映像監督のリー・ダニエルズ、ショーの音楽を手がけたリッチー・ホゥティン、ショー会場を造った建築家のレム・コールハース、プラダのキャンペーンモデルを務めるトランスジェンダーモデルのハンター・シェイファーの7名によるパネルディスカッションが行われた。
3回目となる対話形式のイベント“プラダ・インターセクションズ”。今回もリモートで対話が行われた。
司会:さぁ、プラダのショーについての話をしよう。どんなところに注目した?
マーク:スパンコールのコート、コートの袖、パターン、すべてが最高だった。
リー:これまでのショーでは会場にいる人々やその他のさまざまな情報が望む望まないに関わらず入ってきていたけれど、今回はパーソナルな体験で、まるで個人的な旅のように感じた。一言で表現すると、素晴らしかった。
司会:プラダのこのデジタルファッションウィークのアプローチは革新的だったね。そこでミス・プラダとラフに質問だ。バーチャルに感じられるものを作ったのは意図的なこと?
ラフ:長年続けてきたフィジカルなファッションショーのすべてを変えなければならなかった。ミス・プラダと僕は、何度も話し合いを重ねたよ。ショーのようでありながら、ただショーを撮ったということにならないように。なおかつ、ショーでしか得られない感覚をどうやったら伝えられるかをね。
ミウッチャ:観客が存在しなかったことで、表現することのみに集中することができた。ひとつの作品として意味があるものを作り上げる作業は難しかったけれど、興味深かった。いずれはリアルなショーができるようになるとは思うけれど、デジタルでの表現の方法はこれからも模索し続けていくつもり。
リー:ミス・プラダがどんなに大変だったかはよくわかる。人々の視線は、会場にいるセレブリティではなく、作品のみに集中することになるからね。
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司会:一緒にやっていく中で、徐々にやりやすくはなった?
ラフ:ああ、そうだね。始めはかなり難しかったよ、ショーを映像化するってことは、いままでのライブショーを撮ることとはまったく違ったから。
レム:すごく美しいショーだった。後ろ姿から始まって、最後は遠くに消えていく。正面から向かってくるファッションを見るのではない点が斬新だった。とても映画的で効果的な動きだ。
司会:このショーのための音楽をリモートで作るために、いままでと音楽の作り方を変えた? どういう風にこのショーにアプローチしたの?
リッチー:ショーの映像を見て気付いたのは、ファッション、そして洋服やディテールをとても身近に感じるということだった。ショー会場にいてライブで見るよりもね。“誰もいないけれど身近に感じる”、音楽を作る時に、そのことを念頭に置いた。ラフたちがこのコレクションに投影しようとしているある種の感覚を、みんなに与えるのが音楽の役目だった。
ラフ:ショー会場で音楽を流すのとは、異なる体験となるように気を配ったよ。どんなフィーリングの音楽がふさわしいか、僕たちはよく話し合った。実際に、リッチーの楽曲がとてもうまくショーのムードを構築してくれたよ。
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司会:じゃあ、コラボについての話に戻ろう。リー、君が監督した新作映画『ジ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ』の衣装製作を、なぜプラダに依頼しようと思ったの?
リー:プラダは強い女性だし、ビリー・ホリデイも強い女性だ。つまりどちらも強い女性。ただ、ミス・プラダに頼むことに、最初は少しびびっていた(笑)。アーティストだし、僕と同様この仕事を真剣に考えるだろうし、引き受けたらちゃんとやってくれるとわかっていたから。でも、ビリーのスタイルに生気を吹き込んでくれる人はミス・プラダ以外ありえないと思っていた。
ミウッチャ:リッチーに聞きたいのだけれど。ファッションにとって、ほかのすべての分野が重要であることは明らかだし、映画もそう。映画の中に建築、音楽、アイデアが含まれているから。音楽をする人には何が重要なのかしら?
リッチー:音楽家にとって重要なのは、彫刻と空間だ。僕はアートギャラリーにインスタレーションを見にいく。見て回るのは3次元の彫刻やオブジェで、空間や建築について考えさせてくれる。僕はそれを自分の作曲の中で展開させようとする。だから主には空間と建築だね。このスペクトラム、このランドスケープにフィットする自分の音はどこにあるだろう、と。それを僕は生み出そうとしている。
レム:僕がファッションとのコラボレーションをとても楽しんでいるのは、ファッションの途方もないスピード感。ほんの15秒くらいの間に最高のものを構築する術を持っているところ。ファッションではインスピレーションが降りてくる。それは時に実生活での体験に近い。ファッションにとって、直感的なひらめきは本当に重要だと思う。
ミウッチャ:影響を受ける分野は? 私は映画や文学だけど。
マーク:僕はライフスタイルのすべて。だから映画もあればアートもあり、音楽もあり、何もかもが含まれる。だけどそのためには、本当にその場にいて、人生をあらゆるレベルで経験する必要があると気付いた。なぜなら自分たちのやっていることは、たとえば素敵なインテリア同様、この素晴らしい人生のひとつの美的要素にすぎないから。
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司会:さて、次の質問は「プラダらしさ」とは何か? これは今日のパネリスト全員に聞こうと思う。マーク、君にとっての「プラダらしさ」とは?
マーク:「プラダらしさ」とはミス・プラダだ。(ミス・プラダが笑う)いやいや笑わないで、ミス・プラダ。僕はそれが生まれながらに備わっているものだと理解している。このコレクションはラフとのコラボだけど、僕たちがプラダとして知っているものというのは、カルチャーや知性、スタイルのセンス、ファッションへの愛なんだ。プラダらしさはアントニオーニ、フェリーニ、ヴィスコンティの映画のようなもの。それはすべてを内包するマインドのようなもので、「プラダらしさ」とはミス・プラダであり、その仕草から何から何まですべてだ。それが僕の思う「プラダらしさ」だ。
レム:プラダと仕事を始めた頃、彼女がすべての物事を即座にジャッジすることに驚いたよ。迷いがないんだ。以来、僕はプラダが何をどう嫌うのかに興味がある。それは非常に根深い嫌悪であり、単に拒絶するのではなく、対象のあらゆる側面を検討して、そこから得たエネルギーをほかの何かに生かしている。それはミス・プラダが持っている、とても特別な才能だと思う。
司会:ハンター、君にとってのプラダらしさとは?
ハンター:それは鎧のようなもの。騎士の鎧というか、それを着れば隠されているものが見えてくる。嵐とか、企みとか、悪意とか。それを着るすべての人を守ってくれる鎧ね。
司会:ミス・プラダ、あなたはここにいるパネリストたちから何をインスパイアされた? 映像制作なのか、ストーリーテリングなのか、音楽、演劇、デザイン、建築なのか……。
ミウッチャ:ファッションというのは、マークが言うように人生の側でインスピレーションを必要とする分野だと思う。もちろん建築は無視できない。なぜなら私たちはその空間に存在しているのだから。音楽も無視できないし、パフォーマンスをする人々も無視できない。基本的にはなんらかの形でストーリーを語らなくてはいけないのは映画監督と同じ。突き詰めればそれはつまり、人生を語ることであり、他者の介入が必要になる。
ラフ:ここにいる皆が手がけた作品や仕事には、いつも感心させられるよ。そしてたくさんのインスピレーションを受けてきた。君たちのやることにいまも常に魅了されているし、この強い結びつきがマインドセットになっている。マーク・ジェイコブスの服には、彼のそのスピリットが宿っている。それはミス・プラダとラフについても同じこと。僕たちが魅了されるのはそのスピリットだ。それは皆の作品の中に宿っている。
司会:マーク、君はパンデミックの間ニューヨークに居なかったし、ファッションショーがない間、君のクリエイティビティのはけ口となっていたのは何?
マーク:いまのところ、この会話がクリエイティブだよね。とてもおもしろいし、教わることが多い。ファッション産業というのは奇妙なもので、ハムスターの回転車のように休みなしで働き、休みが取れないことに文句を言うのに、いざ休みを取ると、今度は休みを取ったことを不満に思う(笑)。実際、僕はあの目まぐるしい多忙な日々を恋しく思っているよ。僕は、自分が敬愛する人々が何をしているかということに注目していたよ。だからこの会話もとても興味深い。自分の周りで何が起きているのかに注意を払うこと。そうすると、いざ自分が動き始めた時に何をすべきかがわかる。
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司会:最後の質問。ラフとプラダがコラボを発表した時、このふたりの素晴らしいデザイナーが一緒に仕事することが信じ難いように思えたけれど、じゃあ、みんながコラボしたいと憧れているのは?
レム:建築というのは、動きが遅く見えるし、時間がかかるもの。たかだか20年ではそうそう変化しない。でもね、近年は地球温暖化が迫っていて、建築は本当に思い切った変化の必要に迫られている。そしていま実際に、危機的状況にある。最近のわくわくした体験は、科学者と一緒に仕事をするようになったことかな。美的センスをまったく持たない、しかしいま人類が必要なあらゆる知見を持っている彼らと仕事をすることで、自分自身をリフレッシュできた。僕たちの誰しもがコラボレーションを必要としていると思う。これまで経験したことのないところに到達できるようなコラボレーションは、実にエキサイティングだ。
ミウッチャ:まったくその通り。このミーティングでも、多くの視点があって、その意見を共有することで深く考えさせれた。ファッション業界に携わる者が果たすべき責任がある。行動し、変化に貢献し、あらゆる事柄に関わっていく。それがダイバーシティやジェンダー、エコシステム等、必要な分野で新たに行動を起こす。もちろんそれで問題を解決することはできないけれど、現時点でこれらの課題に取り組み続けることが大切だし、未来へのステップになると信じている。まず私たちが率先して行動を起こすべき。こうした問題にフォーカスするためにも、これからはもっと、こういったコラボレーションの場が生まれていくべきだと思う。
プラダ クライアントサービス 0120-45-1913(フリーダイヤル)
*「フィガロジャポン」2021年10月号より抜粋
photography: Mitsuo Okamoto styling: Tamao Iida hair: Yusuke Morioka (Eight Peace) makeup: Nobuko Maekawa (Perle Management) translation: Minori Sadasue