アイコンバッグに宿る、ものづくりのものがたり。 ドラマティックな出会いが生んだ、エルメスの「バーキン」。

Fashion 2023.02.28

馬車が主な輸送や交通の手段だった19世紀初頭。それに伴って馬具製造業も非常に活気があり、ドイツ生まれの創業者のティエリ・エルメスは13歳でパリに渡って馬具職人の見習いとなった。丁寧な仕事が評判となり、ティエリは1837年に自身の工房をパリに構え、36歳で独立。これがエルメスのスタートとなる。

エルメスが馬具商としてヨーロッパ中の王侯貴族を顧客に抱える一方、20世紀に入り車の時代が到来。鞍と馬具の専門店としての今後を思案していたティエリの孫、エミールはフランスになかったファスナーにカナダで出合い、馬具に使用するレザーでバッグや財布を作ることを思いつく。縫製やコバの処理など馬具に用いる技法を応用したうえ、ファスナーを取り付けた丈夫で便利なバッグや革小物は大評判に。

その後も上質な素材と馬具の制作を礎とする職人技をいかして、時代と顧客のニーズに合わせたものづくりを展開。プレタポルテ、シューズ、ジュエリー、カレ(シルクスクリーンによるスカーフ)、香水、ビューティアイテムなど次々にカテゴリーを広げていく。190年近い歴史をもちながら、現状に甘んじず常に革新的なものづくりを目指すメゾン、それがエルメスだ。

今回は、数多くの名品をもつエルメスのなかでももっとも有名なバッグのひとつ、「バーキン」のルーツと新作を紹介する。

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ママになったばかりの人気女優との、運命的な出会い。

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20世紀初頭に撮影された初期の「オータクロア」の写真。
Le sac à selle, ou Haut à courroies. Début du XXème s. Ph D.R  Archives Hermès.

名作「バーキン」と「ケリー」の原型となるのが、20世紀初頭にエルメスが初めてつくったバッグ「オータクロア」。当初は鞍を運ぶために使われていたが、時代が進むにつれて次第に旅行バッグとして使用されるようになる。収納力のある台形のフォルムやエルメスのレザーグッズに用いられるアスティカージュ(レザーの断面のロウ止め)、カデナ(南京錠)など、形から技法、ディテールまでさまざまな要素が「バーキン」や「ケリー」に踏襲されている。

1984年、当時エルメスの社長だったジャン=ルイ・デュマが「バーキン」を考案したのは、パリとロンドンを結ぶ飛行機のなかでイギリス人女優のジェーン・バーキンと偶然に隣の席になった際のこと。母親になったばかりの彼女が「新しい生活に合うバッグが見つからない」とこぼしたところ、ジャン=ルイ・デュマは柔らかな素材で収納力があり、普段使いできるバッグをすぐさまスケッチし始めたとか。

以来、それまでのお気に入りだったかごバッグに代わって「バーキン」はジェーン・バーキンの定番バッグに。ステッカーを貼ったりストラップやチャームをつけたりと彼女らしくカスタムしながら現在も愛用している。

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90年代にパリのファッションウィークを訪れた際のジェーン・バーキン。「バーキン」にステッカーを貼ってカスタム。
photography: Foc Kan/Getty Images

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2004年にパリのファッションウィークを訪れたジェーン・バーキン。「バーキン」のハンドルに長めのストラップをプラス。
photography: Foc Kan/Getty Images

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「バーキン」に息づく、186年に及ぶものづくりの哲学。 

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「バーキン」を始めとするレザーグッズについて、部分的に機械縫いすることもあるが仕上げは必ず手作業で行う。
© Chris Payne

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ペルラージュ(鋲を打って美しい丸に整えること)をしている様子。1837年の創業当時とほぼ変わらない道具類が現在も使われているという。
© Chris Payne

「バーキン」にも息づくクラフツマンシップは、エルメスのものづくりの要。バッグなどを手がける皮革デザイン部門では、「ひとりが、ひとつのバッグ」という考えのもとにバッグ1点の制作工程をすべて1人の職人が担当する。また、レザーから金具に至るまですべて自社のパーツを使用していることから、エルメスのバッグは分解して修理することができ、いつでもお直しが可能。エルメスのものづくりには創業時からサステイナビリティへの配慮が織り込まれているのだ。

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バッグ「バーキン・ピクニック」(H21×W30×D13cm)¥3,454,000(参考価格)/エルメス(エルメスジャポン)
© Studio des Fleurs

1984年に運命的な出会いがきっかけとなって誕生して以来、「バーキン」はだまし絵を取り入れた「バーキン・シャドウ」や黒一色に統一した「バーキン・ソー・ブラック」、外側に5つのポケットを備えた「バーキン・カーゴ」などさまざまなバリエーションを展開。

クオリティと実用性に加え、遊び心のあるデザインやディテールを積極的に取り入れるバッグとして絶大な支持を得ている。今季の新作には、籐とマットでなめらかな質感をもつライトブラウンのヴォー・スイフト(エルメスのバッグに用いられることが多い上質なカーフレザー)をストライプ柄に編んだバスケット型タイプが登場。

フラップやハンドルに使用したレザーとバッグの両サイドに巻いた革紐、籐に編み込んだレザーの色をワントーンに揃えているのがポイント。籐細工と革紐の組み合わせに緻密な編み込み技術が光る。「バーキン」が誕生する前はかごバッグを好んで使っていたジェーン・バーキン。バスケットの軽やかさを取り入れた2023年春夏の新作は、きっと彼女も気に入るに違いない。いずれにしても、“持ち運べるクラフト”とでもいうべき職人技の賜物といって差し支えない逸品だ。

エルメス公式サイトへ

●問い合わせ先:
エルメスジャポン
tel : 03-3569-3300

editing: Naoko Monzen

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