女性の創造性を応援するミュウミュウの映画プロジェクト。
Fashion 2023.10.12
ミュウミュウの服を纏った登場人物を主役に撮られた女性映画作家による短編映画の創造が始まってから、12年が経つ。美しい夢物語のような映像の根底には、女性たちを応援し、世界で力強く生きていくことへのメッセージが込められている。
ヴェネツィア国際映画祭を訪れた映画評論家・立田敦子が、監督へのインタビューと映画祭での模様をレポート。
短編映画『STANE』は、親の経営する建設会社を継ぐことになったスタネが、軋轢や葛藤の殻を破って自らを解放していく物語。イエローのロングドレスはアーカイブピースより。視聴は以下にて可能。(www.miumiu.com/jp/ja/miumiu-club/womens-tales/womens-tales-26.html)
2020年から3年連続で女性監督が最高賞の金獅子賞に輝いたヴェネツィア国際映画祭は、あまたある国際映画祭の中でも女性監督にスポットライトを当て、優れた才能を輩出している映画祭の筆頭といえる。才能ある世界の女性監督たちを起用したミュウミュウのショートフィルムプロジェクト「WOMEN’S TALES(女性たちの物語)」は、そんなヴェネツィア国際映画祭で毎年新作を発表してきた。
今年はシリーズ第26話『STANE』(原題)のワールドプレミアに加え、コミッティプロジェクトの発表が行われた。本プロジェクトは、「WOMEN’S TALES」を創設したファッション界のカリスマ、ミウッチャ・プラダとヴェルデ・ヴィスコンティのほか、第5話の監督を務めたエイヴァ・デュヴァーネイ、公私にわたるパートナーであるバズ・ラーマン監督作品で2度にわたって米国アカデミー賞衣装賞を受賞しているキャサリン・マーティン、初監督作品『ロスト・ドーター』でヴェネツィア国際映画祭にて脚本賞を受賞している俳優のマギー・ジレンホールの5名からなるコミッティで、ファンやクリエイターたちのコミュニケーションを強化し、「WOMEN’S TALES」のプロジェクトを発展させていくことを目的としている。ミウッチャ・プラダは、「私にとって、映画は長年情熱を傾けたアートであり、私の教育の大切なバックボーン。『WOMEN’S TALES』では才能あふれる監督たちのためのプラットフォームを作り上げました」と語る。
photography: Brigitte Lacombe
「ミュウミュウ WOMEN’S TALES(女性たちの物語)」をさらに発展させるために創設されたコミッティメンバー。モノクロ写真の左からミウッチャ・プラダ、マギー・ジレンホール、キャサリン・マーティン、エイヴァ・デュヴァーネイ、ヴェルデ・ヴィスコンティ。また、ヴェネツィア国際映画祭期間中にトークイベントも開催。
実際、2011年にスタートしたこのプロジェクトの参加リストには、第1弾の米国のゾエ・カサヴェテス監督からアルゼンチンのルクレシア・マルテル、日本の河瀨直美、スペインのカルラ・シモンなど国籍を問わない多様な顔ぶれが並ぶ。
このリストに新たに名を連ねたのが、クロアチア出身でニューヨークを拠点に活動するアントネータ・アラマット・クシヤノビッチ監督だ。第67回ベルリン国際映画祭で上映された短編『Into the Blue』(17年)で学生アカデミー賞にノミネートされ、21年のカンヌ国際映画祭「監督週間」で上映された初長編監督作品『ムリナ』でカメラドール(新人監督賞)を受賞した経歴の持ち主である。彼女の才能にいち早く注目した映画界の巨匠、マーティン・スコセッシがエグゼクティブプロデューサーを務めたことでも注目を集めた『ムリナ』は、インディペンデント・スピリット賞でも、新人作品賞、ブレイクスルー演技賞、撮影賞の3部門にノミネートされた。本プロジェクトへの参加の意義をクシヤノビッチ監督は嬉々としてこう語る。
「私は、何年も前からこの短編プロジェクトに参加したいと思っていたのです。その理由のひとつは、アニエス・ヴァルダ、ルクレシア・マルテル、アリーチェ・ロルヴァケルといった、私が影響を受け、敬愛している女性監督たちが多く参加しているからです。声をかけていただいた時、本当にうれしかった。この短編の制作は、始動してから急ピッチで進められ、時間との戦いとなりましたが、クリエイティブにおいてとても自由を与えられ、有意義な経験になりました」
Antoneta Alamat Kusijanovic /アントネータ・アラマット・クシヤノビッチ 1985 年、クロアチア生まれ。ザグレブのアカテデミー・オブ・ドラマティック・アーツで製作の修士号を取得。ニューヨークのコロンビア大学で監督のMFA、映画芸術科学アカデミー(オスカー)会員。
キャリアの初期において、すでに世界の三大映画祭に参加している気鋭の監督、クシヤノビッチによる第26話『STANE(スタネ)』は、9月3日に「ベニス・デイズ」部門で初披露された。
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自立する力と官能的な魅力の両立。
父の経営する建設会社で要職に就いている女性、スタネは、夫の不貞や伝統的な家父長制の価値観に対して苛立ちを覚えている。やがてその憤りとストレスが爆発し、自分自身の物語を語るために第一歩を踏み出す……。
このストーリーの起点となったのは、スタネという名のクシヤノビッチ監督自身の祖母だという。
「とても個性的な人で、家族とも軋轢がありました。私は彼女に少し似ているところがありました。間違いなくキャラクターや脚本には私の一部も反映されています」
ジェンダーロールを押し付けられたスタネの怒りは、世界中の多くの女性たちの共感を得るだろう。実際に、この主人公に表象される複雑な女性像のポートレートは、家父長制度が現在もはびこっている社会において、自分らしい生き方を模索する女性たちへのエールでもある。
「すべての女性には、自らのパワーがあります。でも、官能性も大事です。センシュアリティは女性の大きな一部でもありますから」
『STANE』のプレミア後に行われたトークイベントには、アントネータ・アラマット・クシヤノビッチ監督(左)と主演女優ダニカ・カーチック(右)が登場。セルビア出身のカーチックは監督の前作『ムリナ』にも主演。
大学卒業後、21歳でニューヨークに移住したのは18歳で母親と一緒に訪れた時に感じたエネルギーと、人々の多様性にインスパイアされたからだという。現在は、母国クロアチアで1年のうち4ヶ月を過ごし、『ムリナ』制作後に生まれた息子との生活を楽しんでいるという。もちろん、新作も構想中だ。
世界的に活躍する映画人たちが集まったガラディナーにて。クシヤノビッチ監督もミュウミュウでドレスアップ。裾と袖口をトリムしたサテンのロングジャケットとブラック&ホワイトのミニドレスをプラットフォームサンダルと合わせて。
マギー・ジレンホールもモノトーンのセットアップでシックな装い。大きなボタンがアクセントに。
眼鏡がトレードマークのキャサリン・マーティンは、同色の花があしらわれた2023年秋冬コレクションのドレスをチョイス。
シフォンのブラウスとバッグをバーミリオンで揃えたエイヴァ・デュヴァーネイ。ミモレ丈のドット柄サテンスカートとのコーデは軽やかなのに知性を感じる。
ミウッチャ・プラダがホストとなり、プラダ財団で開催されたこのプライベートディナーには、去年の金獅子賞受賞監督ローラ・ポイトラス(中央)や審査員のジェーン・カンピオン監督(左)などの多彩な女性監督たち、審査員長のデイミアン・チャゼルやウェス・アンダーソンら気鋭の映画人が出席した。
なお、以下にて過去の全作品が視聴できる。ぜひこの機会に、ファッションと女性たちの生き方が交差する物語と出会ってほしい。
https://www.youtube.com/playlist?list=PL786D16AF57EE5536
photography: Courtesy of Miu Miu text: Atsuko Tatsuta