クリストバルからデムナへ、バレンシアガが紡ぐ100年の歴史。
Fashion 2023.10.30
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9月半ば、クリストバル・バレンシアガ時代の衣装がパリで公開された。貴重なアーカイブは創業者の物語を語り、デムナのクチュールをインスパイアする。
HISTORY OF THE HOUSE
メゾン・バレンシアガの誕生は、1917年に遡る。出発点は、スペイン生まれのクリストバル・バレンシアガがサンセバスチャンに開いた店。37年、彼はパリに上り、ジョルジュ・サンク通り10番地にクチュールメゾンを置いた。ガブリエル・シャネル、ユベール・ドゥ・ジヴァンシー、クリスチャン・ディオールといった同時代の仲間たちから「本物のクチュリエ」「クチュールの建築家」と賞賛されたクリストバル。そのスタイルは、かすかにスペインの香りが漂う構築的でモダンなシルエット、無駄を削ぎ落としたエレガンス。テクニックの確かさと完璧主義で知られ、クチュールの黄金時代の牽引者となった。だが68年5月、突然、メゾンを閉めて引退してしまう。「本物のクチュリエ」が、プレタポルテ時代の到来に同調することはなかった。
ニコラ・ジェスキエールを迎えてメゾンが再びモード界に戻ってきたのは、それから30年後のこと。2015年、デムナがアーティスティックディレクターに就任し、バレンシアガは新時代の幕を開けた。
THE CRISTÓBAL BALENCIAGA ERA
1968年に扉を閉めたクチュールメゾンの衣装は、顧客の子孫やコレクターの手を経て、メゾンのアーカイブに再び集う。
オーガンザ、ウール、ジャージーなどの記述とともに、布見本が綴じ付けられたカードやノート。貴重な資料。
ジョルジュ・サンク通り10番地のクチュールサロンでのクリストバル・バレンシアガ。
アーカイブには、往年のクチュールサロンの家具も大切に保管。アーティスト、ジャニーヌ・ジャネがサロンのために制作した貝殻と木による装飾パネルも、当時の雰囲気を彷彿させる。
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THE DEMNA ERA
2020年夏プレタポルテのドレス。シルエットを壊すことなく保管するための大きな木製ボックス。
上左・下: デムナがアーティスティックディレクターに就任して8年。メゾンのアーカイブには、彼の歴代コレクションも代々保管されている。 上中: デムナのクチュールアトリエの一角。色とりどりの布地が並ぶ。 上右: デムナのアトリエより。指示や寸法の書き込まれたパターン。
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MEMORIES WITH CLIENTS
バレンシアガ本社で行われた展覧会では、クリストバル時代の顧客たちが纏ったドレスやアンサンブルが展示された。中央はレバノンの女性が着たウェディングドレス。
photography: Annik Wetter
去る9月16、17日の2日間、パリのバレンシアガ本社で、創業者クリストバル・バレンシアガが顧客のために製作したアーカイブピースが一般に公開された。テーマは、「Woman behind the Dress」。顧客ひとりひとりの身体に合わせて製作され、着用された衣装が、それぞれの女性の人となりを浮かび上がらせる。イングリッド・バーグマンや社交界のセレブリティから、メゾンを支えたディレクターまで、17人の女性たちが愛し、実際に着用していたドレスやアンサンブル。その隣には、衣装に負担をかけず、着用時と同じシルエットを再現するために補正が施された展示用マネキンも並んでいる。たっぷりと丸みを帯びたマネキンや、少女のようにか細いマネキン、背中の丸みを強調したものなど、衣装を纏っていた女性たちの面影を想起させる演出だ。鮮やかな色とプリントを好んだスペインの外交官夫人、自分だけのオリジナルクリエイションを注文したジャン・コクトーのメセナ、フランシーヌ・ヴェスヴェレール。レースと刺繍をちりばめた真っ白なウェディングドレスは、レバノンの花嫁のもの。ショーで発表されたままのデザインを注文する女性もいれば、布地を変え、色を選び、丈を短くアレンジさせる人もいた。展覧会は、顧客とクチュリエの関係性に光を当て、顧客それぞれのシルエットに合わせてその個性を賛美したクリストバルの、卓越したセンスと技術を物語る。
顧客の名を記した仮縫い用マネキン。
photography: Jean-Luc Perreard
服を守るための補正を施された展示用マネキンも展示された。スカートの張りを出すためのチュール、背中の肉付きをプラスするパッドなどの工夫が。
photography: Annik Wetter
最新のクチュールコレクションで再現された、グレース・ケリー着用のドレス。
photography: Annik Wetter
展示の中には、1969年、40歳の誕生日パーティでモナコのグレース妃が纏ったブラックドレスがある。66年にクリストバルが発表したドレスを、グレース妃が注文したものだ。このドレスを、デムナは今年7月のクチュールコレクションで再現した。66年のショーでこのドレスを身に着けたのは、クリストバルのお気に入りモデル、ダニエル・スラヴィックだった。展覧会会場に流れる最新コレクションの映像には、再びこのドレスを纏ってショーのトップを歩くダニエルの姿がある。ビデオに映るショーの会場は、ジョルジュ・サンク通り10番地。その昔、クリストバルが顧客を迎えたクチュールサロンだ。
クリストバルからデムナへ、100年の時を経て、メゾンの物語は引き継がれていく。
1946年夏のコレクションを纏ってサロンのソファに座るモンテスキュー=フザンサック侯爵夫人。
©️Harry Meerson
56年夏のドレスをサロンで仮縫い中の女優イングリッド・バーグマン。
©️Bettmann,Getty Images
photography: Courtesy of Balenciaga text: Masae Takata(Paris Office)