ディオールとベラール、 二人のクリスチャンを語る新著。

Fashion 2023.11.24

衣装デザイナー、舞台装飾家として名を残した画家、クリスチャン・ベラール。画商からクチュリエへと転身し、モード史上にその名を刻んだクリスチャン・ディオール。世界観を共有し、影響を与え合った二人の人生を語る「Christian Dior, Christian Bérard. Joyful Melancholy」が刊行された。

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1947年、ヴォーグ・パリ誌に掲載された、クリスチャン・ベラールによる「バー」ジャケット(クリスチャン・ディオール1947年春夏 オートクチュール コレクション)のデッサン。©Musée Christian Dior, Granville

クリスチャン・ベラールの名前を聞いたことがない人でも、彼の描いたモードのイラストには出会ったことがあるだろう。1902年にパリに生まれ、ナビ派の影響を受けた彼は、シュルレアリスムが席巻するパリのアート界にあって、その幻想的な画風を貫いた画家。クリスチャン・ディオールは、ギャラリスト時代に彼に出会い、1925年からその作品を紹介し続けた。ノルマンディのブルジョワ家庭出身、花と庭を愛し、控えめな性格のディオール。社交界と名声を愛したベラール。真逆の個性を持つ二人のクリスチャンだが、共通の美意識をもち、影響を与えあった。「Christian Dior, Christian Bérard. Joyful Melancholy」は、二人の子ども時代から書き起こし、二人の出会い、その人生が絡み合ってディオールの世界に集結していくさまを語っている。

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クリニャンクールの蚤の市を訪れている、画商時代のクリスチャン・ディオールとクリスチャン・ベラール。1930年ごろ。Droits réservés

20世紀の初めから、狂乱の20年代、世界恐慌とナチズムの影が忍び寄る30年代、華やかなモードが復活する戦後。ディオールがニュールックで華々しくデビューした1947年。2年後にベラールが、そして10年後にディオールが世を去るまでーー。画家としての評価は今ひとつだったベラールは、コクトーやルイ・ジューヴェの映画や舞台のデザインを手がけて時代の寵児となり、エルザ・スキャパレリやココ・シャネルが心酔し、戦後のヴォーグ誌を数々のファッションイラストで彩った。一方、ディオールはギャラリーを廃業したあと、フィガロ紙にファッションイラストを描きはじめ、クチュリエのルシアン・ルロンのモデリストとしてモード界への一歩を踏み出す。モンテーニュ通り30番地にディオールがメゾンを構えると、ベラールは毎日のようにアトリエを訪れた。1階に設けた小物ブティック「コリフィシェ」をトワル ドゥ ジュイで覆ったのは、ベラールによるアイデアだった。

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「クリスチャン・ディオールへのオマージュ」。1947年、コレクションのルックをまとった女性をモンテーニュ通り30番地の前に描いたこの絵を、ベラールは、初めてのショーの際にディオールに贈った。以来、この絵はメゾンのサロンの暖炉の上に飾られた。©Christian Dior Couture

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ベラールによってトワル ドゥ ジュイの装飾が施された、ブティック「コリフィシェ」。ポーズを取るのは、モデルのエレーヌ・ド・コルニロフ。1949年春夏 オートクチュール コレクションのルック「リヴ・ゴーシュ」をまとって。撮影はWILLY MAYWALD ©Association Willy Maywald-Adagp, Paris 2023

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「彼のデッサンは新しい視線を与え、日常の存在を濃厚でノスタルジックな魅惑へと変貌させる」とベラールをたたえたディオール。「クリスチャン・ディオールはモードの世界に革命を起こすだろう」と語ったべラール。往時の手紙やメディア、ディオールの自伝などから700以上の言葉を引用して二人の人生を代わる代わる語る文章からは、ページをめくるごとに、時代の空気が香ってくる。

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クリスチャン・ディオールはシャンゼリゼ劇場で行われたローラン・プティ振付のバレエ「TREIZE DANSES」の舞台装飾と衣装を手がけた。レスリー・キャロンとネリー・ギエムの衣装を整えるクリスチャン・ディオール。1947年11月12日。©Roger Berson - Roger-Viollet

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同じく、「TREIZE DANSES」の舞台裏にて、エレーヌ・サドウスカの衣装を整えるクリスチャン・ベラール。1947年11月12日。©Boris Lipnitzki - Roger-Viollet

著者は、モードジャーナリスト・歴史家で、イヴ・サンローランの伝記でも知られるローランス・べナイム。「ディオールの全てがベラールに、ベラールの全てがディオールに息づいています」という著者の言葉を裏付けるように、この本には、数々の図版が収録されている。アーヴィング・ペンの撮影した二人のポートレート、アトリエでのベラール、仮装パーティでのディオールから、舞台衣装や初めてのショーの写真。二人の残したデッサンから見えてくるのは、理想の美を追求する共通の視線だ。舞台や映画につながる虚構の世界に夢を描いたのがベラールなら、ディオールは、その美意識を、女性という現実の存在のために捧げた。20世紀前半の怒涛の時代に美の世界を追い求めた二人のクリスチャンの物語が、浮かび上がってくる。

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クリスチャン・ディオールのメゾンには、いつもベラールの姿があった。1947年2月12日、初めてのショーの舞台裏で、モデルのマリー=テレーズとともに。この日からちょうど2年後の1949年2月12日、ベラールは世を去る。©Eugène Kaummerman - GAMMA-RAPHO

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クリスチャン・ベラールが描いた、ディオールのプレス用デッサン。1949年 秋冬オートクチュール コレクションのディオール・レッドのベルベットのツーピース。©Christian Dior Couture

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「Christian Dior, Christian Bérard. Joyful Melancholy」
Laurence Benaïm著、Gallimard出版刊。

●問合せ先:
クリスチャン ディオール
0120-02-1947(フリーダイヤル)
〒102-0093 東京都千代田区平河町二丁目一番一号
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