入江末男さん、フランス芸術文化勲章オフィシエを受勲。
Fashion 2023.12.17
1957年に創設されたフランスの芸術文化勲章は、「芸術や文学の分野での優れたクリエイション、あるいはこの分野の世界とフランスにおける普及に功績のある人物」を対象に、文化庁が与えるもの。シュヴァリエ、オフィシエ、コマンドゥールの3つの階級がある。サンジェルマンデプレに店を持つファッションクリエイターの入江末男さんが、今年秋、芸術文化勲章オフィシエを受章した。
フランス芸術文化勲章のオフィシエを受章した入江末男さん。40年来の友人である著名女性ジャーナリストのロール・アドレール(左)が授章者としてスピーチ。右はオフィシエ受勲の賞状。
住まいも店もサンジェルマンという左岸派の入江さんらしく、授章のセレモニーは、カフェ・フロールの2階にて。セレモニーにはたくさんの人が駆けつけ、立錐の余地もないほどの賑わい、カジュアルな雰囲気の温かなソワレとなった。
授章の役を担ったのは、ラジオやテレビでも知られるジャーナリストのロール・アドレール。
「あなたの服は、身につけた瞬間、その存在を忘れさせてくれる服です。あなたは、私たちのために服を作る。あなたの服を着る時、私たちは自分自身でいられるのです。(...)あなたはブランドではなく、クリエイターであり、すべてがあなたの手から生まれます。あなたは建築家であり、アーティストです。イリエの服を着る人は、それが自分自身のために作られている、唯一無二のものだと感じるのです」とスピーチし、「文化大臣の名により、あなたを芸術と文化のオフィシエに任命します」と、入江さんの胸に勲章をつけると、大きな拍手とブラヴォーの声がわきあがった。
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入江末男さんは、大阪の上田安子服飾専門学校を卒業し、コシノヒロコでの経験を経て、1970年に渡仏した。「ゴダールやトリュフォーのヌーヴェル・ヴァーグの映画に影響され、まずはパリに住もうと思った。特にモードのために、といったわけでもなかったんです」と当時を振り返る。シベリア鉄道で大陸を渡り、パリの北駅についたのは5月だった。
「さくらんぼを見ると今でもその頃を思い出します」
ちょうどパリに店を開けたばかりだった高田賢三の店に出入りするうちにブランドを手伝い始め、10年近くアシスタントを務めたのち、独立。80年代には森英恵グループのスタジオVのデザイナーとして名を馳せた。同じ頃、後にAPCを立ち上げたジャン・トゥイトゥ、安西敦子、現在も共に働くローラン・ラクロの3人とともに、自分のブランドIRIÉを立ち上げる。
「インターネットもオンライン会議もない時代ですから、年に4回、パリと日本を往復していました」。
サンジェルマンデプレのプレ・オ・クレール通りに店を構えたのは1983年のことだ。
「パリの人たちの、肩の力の抜けたおしゃれの仕方が好き。着る人が自分のやり方で着こなせる服を提案したい」。
パリジェンヌの日常をイメージさせるスマートなコレクションを発信するIRIÉは、今年、40周年を迎えた。「エミリー、パリへ行く」の成功でファッションアイコンになった女優のフィリピーヌ・ルロワ=ボーリューが「いろいろな時代を経ても自分らしさを失わない」と絶賛し、アート界のインテリジェントな女性たちにも根強いファンが多い。
「2016年にシュヴァリエを受章したのですが、この時は驚きました。僕は一度もファッションショーをしていないし、あまり宣伝もしていません。今の時代に、大きなブランドとは違ってアーティザナルな服を作る、外国人の仕事を認めてくれるフランスという国に、感謝したい」という入江さん。
「僕は本店主義。自分の店で、自分が作ったものを、責任を持ってお客様に届けたいと思っています」
text: Masae Takata (Paris Office)