MAISON MARGIELA 'Artisanal' Collection 1920年代のブラッスリーを舞台に繰り広げられたメゾン マルジェラの「アーティザナル」コレクション。
Fashion 2024.01.29
2024年1月25日(現地時間)、パリ・オートクチュール週間最終日。2022年夏に発表されて以来、1年半ぶりに開催されたメゾン マルジェラ「アーティザナル」コレクションのショーが、ファッションウィークのフィナーレを飾った。
この日は、ウルフムーンと呼ばれる毎年最初の満月の夜。街灯に照らされたアレクサンダー3世橋から降り立つセーヌ河畔は、雨に濡れた石畳と川面に光が反射し、モノクロ映画のような風情を醸している。会場は橋の下のナイトクラブに再現された、1920年代風のブラッスリー。酒瓶とグラスが乱雑に並ぶカウンター、ビリヤード台のあるフロアにテーブルと椅子が置かれた店内には、どこか退廃的なムードが漂っている。
キム・カーダシアンの来場に場内がしばし騒然とした後、ラッキー・ラヴのパフォーマンスに続いてショートフィルムが上映され、登場人物がそのまま会場へと、ファーストルックを纏ったモデルとして店内に現れた。
先に映し出されたフィルムでアウターやトップスを脱ぎ捨てた演出のそのままに、上半身は裸体、そして白いコルセットでウエストを細く絞り、黒いパンツとシューズを身につけたレオン・デイムの登場に、場内の視線がたちまち釘付けになった。続くルックはほとんどがコルセットで腰を細く絞り、ヒップを膨らませて強調した、100年前までのシルエットだ。
どこかぎこちない動きで会場を歩くモデルたちの顔は、セルロイドの人形のような艶やかな肌にメーキャップされている。写真家のブラッサイが撮影したモノクロームのパリの街を思わせるネイビーからブラックまでのダークトーン、キース・ヴァン・ドンゲンの絵画を思わせる、滲んだようなイメージを描くルックが、次々と登場した。
オーガンジーやモスリンのトランスペアレンスのドレス、紳士服のテキスタイルのようにプリントした生地とチュールをミルフィーユのように重ねた軽いアイテム、熱で収縮をかけたツイードが生むユニークなフォルムのスーツ、雨風から身を守ろうとするジェスチャーをそのまま形にしたジャケット、ファブリックをカットしたシーケンスを散りばめたロングスカート。全ては、メゾンのオートクチュールアトリエで12ヶ月にわたって制作されたものだ。
最後のモデルが姿を消すと、会場は、大きな拍手とブラボーの声、クリエイティブディレクターの登場を促す足踏みの音に包まれた。
新しいテクニックでこれまでにない素材の表情を作り出し、着る人の感情やジェスチャーへの考察から新しいフォルムとシルエットを生み出すジョン・ガリアーノ。「アーティザナル」コレクションは、メゾン マルジェラのクリエイティビティを象徴する実験的なアプローチであり、そこから続くコレクションを牽引する原液なのだ。