オートクチュールの職人仕事の奥に広がる、神秘的な世界とは?
Fashion 2024.08.18
オートクチュールのファッションショーは世界中をとりこにする。しかしそのとてつもない仕事の裏にはどのような秘密が隠されているのだろう。トップクラスの仕立て職人が作り上げる世界について、マダムフィガロ誌モード部門チーフのマリオン・デュピュイが語ってくれた。
最長でも40秒。それより短い場合も。それがオートクチュールのドレスがランウェイに登場している時間だ。これらの流れ星のような宝物を作り上げているのは、普通の人には到底想像できないような何百時間もの手仕事や、密室のアトリエでの驚くべきハードワークだ。
達人たちが蒸気でスムースにし、トリミングし、カットし、カールさせ、はたまたランダムに組み立てて作る魔法のようなフェザー。妖精の指を持つ裁縫師がミリ単位で切り取ったオーガンザ、モスリン、チュールやベルベットでできた椿、ダリア、芍薬、カーネーション、蘭などの無数の花々。まるで踊っているかのような素晴らしいサンレイプリーツやアコーディオンプリーツ......。
トップクラスの仕立て職人が作り上げるオートクチュールの世界。でもその裏にあるアトリエは謎に包まれている。しかし作品の"お家柄"ならその名前や番号でかろうじて解明できる。それらにはまるで星付きレストランのデギュスタシオンコースのような甘美な名前がついている。いくつか挙げてみよう。シャネルは「Look39、メゾン・ルサージュによって幻想的なスパンコールが刺繍された黒いオーガンザのショートドレス。サイドはモンテックス社によって羽根やスパンコールが刺繍された黒いチュールのドレープで装飾されている」。ディオールでは「Look27、バターカップ色のモアレ加工を施した生地でドレープを作ったビスチェドレス。淡い色のリボン、シルク、金糸やアンティークのアクセサリーでフラワーガーデンの刺繍をあしらっている」。このような作品名は何ページにもわたるリストが作れるくらいある。
影のアーティスト
オートクチュールというおとぎの国の裏舞台についてもう少し知りたいなら、ぜひロイック・プリジャン監督のドキュメンタリーを観てほしい。『サイン・シャネル カール・ラガーフェルドのアトリエ』などの作品がある。ジャーナリストであり監督でもある彼は神秘のアトリエに最初に足を踏み入れた者のひとりだ。長年使い込まれた職人の手をクローズアップで撮ったり、シャネルの神話的な縁飾り師マダム・プズィウのようなレジェンドの存在など、さまざまな人間ドラマを映し出した。オートクチュールに捧げられた同ドキュメンタリーは、デザイナーにとって欠くことのできないチームメイトである、これらのアーティストたちに光を当てている。
まるでジャック・ドゥミ監督の『ロバと王女』のような魔法の世界。それはどんなハイテクな機械でも、裁断する手、針を刺す指や注意深く見つめる目の代わりを果たすことのできない世界だ。「クチュールは人間らしさの、類い稀なものの、素晴らしきものの最後の砦だ」とクリスチャン・ディオールは語った。いま、彼のメッセージはこれまでになく現実味を帯びている。
text: Marion Dupuis (madame.lefigaro.fr) translation: Hana Okazaki, Hide Okazaki