べビーからノンシャランなパリジェンヌスタイルまで。 世代を超えて愛されるプチバトーの魅力とは?
Fashion 2024.11.12
プチバトーは、フランス人なら一度は袖を通したことがある国民的ブランド。べビーの体を優しく包み、やんちゃなキッズの動きをサポートし、ノンシャランなパリジェンヌスタイルを支えている。プチバトーがみんなに愛される秘密とは?
家族4世代が愛し続ける
プチバトー不朽のベーシックアイテム。
プチバトーが生まれたのは1893年。ブランドの躍進は、2代目エティエンヌ・ヴァルトンが、息子の履いていた動きにくいカルソンの脚をカットしてプチ・キュロット(ショーツ)に変えたことから始まった。以来プチバトーは、元気な子どもたちの身体の動きに寄り添う快適で丈夫な下着を筆頭に、Tシャツ、パジャマやヨットパーカなどを提案し、国民的なブランドとして愛されてきた。
パリ20区に住むジョゼフィーヌ・オープチさんは、ファッションコンサルタントとして働く傍ら、ダンスや舞台でも活躍するパリジェンヌ。彼女の最初のプチバトーの記憶は、年の離れた弟たちが着ていたタンクトップだったそう。
「無地や細いボーダー柄のタンクトップが男の子にとっても似合っていてかわいかった。母も乗馬が趣味で、ラウンドネックのTシャツをいつも着ていました。私もTシャツのカッティングと色使いが好きで、ティーンの頃には無地のTシャツにアイロンプリントでキティちゃんをあしらってパーソナライズした思い出があります」。
96年ごろのテレビCFも心に残っているという。
「やんちゃな子どもたちがいっぱい出てくるCMで、スローガンは『動けない服なんて意味がない!』。子ども心に、転んだり汚したりできる服なんてすごいと思ったのを覚えています」。
そんな彼女も、いまや7歳のオクターヴ君と6ヶ月のパロマちゃんのママン。
「母と弟が2人にプレゼントしてくれたのは、もちろんプチバトーのマリニエール。私もボディ、ショーツ、パジャマ、ヨットパーカなどを子どもたちに着せています」。
プチバトーを買う理由は?という問いへの答えは、「信頼しているから」と実に明快。
「丈夫で、着古してしまうことがない。スタイルも普遍的で、プレゼントしても相手が必ず気に入ってくれるとわかっています。フランスにはプチバトーを嫌いな人も、着たことがない人もいないと思うわ」
98歳になる彼女のお祖母様は、弁護士で大臣も務めた女性。公式の場に出向くことも多かったお祖母様は、テーラードジャケットの下に白や淡い色合いのプチバトーTシャツを合わせていたのだそう。
「シンプルなTシャツは年齢の高い女性にもぴったり。シックでエレガントな祖母がお手本です」
プチバトーのクリエイティブディレクターにインタビュー。
昨年、プチバトーのデザインを率いるクリエイティブディレクターに就任したリディ・ドゥ・ボープレも、プチバトーを着て育ったパリジェンヌのひとり。
「最も好きなアイテムはと聞かれたら、永遠の白いTシャツを選びます。ジーンズに合わせてジェーン・バーキンのようにクールに、あるいはブレザーでエレガントに。どんなシーンでも着られて、パリジェンヌスタイルのナチュラルなエレガンスに欠かせないアイテム」。
彼女が手がける25年夏のコレクションの登場が待ち遠しいところだが、先駆けてそのエスプリについてこう語ってくれた。
「クリエイションにあたって、ブランドがどう構築され、成功したのか、その歩みを常に頭に置いています。初コレクションづくりのために訪ねたアーカイブには、100年以上前のアイテムも保管されていたんです。歴史的な白、紺、赤のコードカラー、ヨットパーカやマリニエールといったアイコニックなアイテムを守りながら、ひねりを加えて時代に合わせ、モダナイズしていくつもり。大胆さがブランドの本質、プチバトーには自由なエスプリがあります」
フランス北東部、トロワの町で誕生したブランドは、131歳を迎えた今年も元気いっぱい。
「プチバトーが長く愛されるのは、人生のすべての瞬間に寄り添っているから。子ども時代から大人まで、学校でも、遊ぶときも、眠るときも一緒です。プチバトーには5つの人生があると言われているのです」
クオリティのおかげで、アイテムは兄姉から弟や妹へ、さらにはいとこたちへと受け継がれていく。
「服ととともに、ブランドへの愛着も伝えられていくのです」
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プチバトーTシャツのふるさと、
トロワ工場へ潜入。
創業以来、トロワの町で変わらぬ姿を守るプチバトーの工場は、職人の守護聖人である聖ジョゼフ像と高い煙突がシンボル。素材を編み、染色とプリントを施し、縫製するまでのすべてのノウハウを備えたサン・ジョゼフ工場は、プチバトーの本拠地だ。
プチバトーのクオリティを支えるのは、自社で織り上げる素材へのこだわり。工場に届くコットン糸は、湿度、強度、不純物や、染めムラがないかなどの厳しいコントロールを受けて、ようやくニッティング部門へと運ばれる。アイコニックな1x1リブ編み、レーシーな針抜き模様、ベロア、細縞のミラレなど、さまざまなジャージー素材が無数の針を持つ巨大な編み機で編み上げられていく。
編み上がった白い生地は染色部門へ。ブルーやピンクの淡い色から黒までの豊かなカラーバリエーションと、洗っても色褪せしないクオリティは、自社工場の厳しい基準で染色しているからこそ。白い生地のもうひとつの行き先であるプリント部門では、3年前に導入されたデジタルプリンターの活躍でデザインの可能性が大きく広がった。同時に、パジャマの胸元を飾るワンポイントや、大きめのモチーフや文字を手がけるセリグラフィももちろん健在。4000個の木枠と4000色のペイントが並ぶアトリエで、機械と手作業が協働しながら色を重ねていく。
最後の工程は、生地のカットから縫製まで90人が働く縫製工場。10人前後の職人がチームとなり、1種類のアイテムを担当する。ここでもまた、カットの前の布地、カットしたパーツの大きさ、縫製の各段階での自己チェックのほか、最終チェック担当者が仕上がり具合をくまなくコントロール。プチバトーのTシャツやボディは、最低19回ものチェックを受けて、やっとファンの手元に旅立っていくのだ。5つの人生を生きるプチバトーの秘密は、クオリティへの厳しい姿勢。守護聖人に見守られて働くサン・ジョゼフ工場の職人たちがみな笑顔なのは、プチバトーのクオリティを支える一員としての誇りがあるからに違いない。
photography: Yusuke Kinaka, editor: Masae Takata(Paris Office)