ブランドも大注目、23歳のアメリカ人YouTuberとは?
Fashion 2024.11.21
うら若きYouTuberだったエマ・チェンバレンは、7年の時を経て、憧れのセレブリティへと成長した。その影響力は、ファッション業界全体を魅了するほどのものだ。
メトロポリタン美術館で開催された「METガラ 2024」に登場したエマ・チェンバレン。(ニューヨーク、2024年5月6日)photography: DIMITRIOS KAMBOURIS / Getty Images via AFP
エマ・チェンバレンは、フランスのYouTuberレナ・マーフフのような存在だ。アメリカの起業家兼YouTuberのエマ・チェンバレンは、Instagramで1500万人、YouTubeでは1200万人のフォロワーを誇る影響力のあるファッションインフルエンサーだ。アメリカで非常に高い人気を誇る彼女は、2022年には雑誌「ヴォーグ」に招かれ、METガラで初めてセレブリティに質問する役を務めた。そして2024年にも再びその役目を果たしたことは、彼女の地位が確立されたことを証明している。
彼女はその影響力を使って、元彼でシンガーのタッカー・ハリントン・ピルズベリーのキャリアを一気に後押しした。彼女は、彼のミュージックビデオに背中を向けて登場しただけだった。しかし、そのビデオがきっかけでタッカーは、「新進アーティスト」から「エマ・チェンバレンの彼氏」という注目の存在へと変わった。そして、彼女のおかげで、2022年4月22日に開催されたコーチェラ・フェスティバルで、彼のソロステージが実現した。
エマ・チェンバレンの影響力は、7年経ったいまでも、影をひそめる気配はない。23歳の彼女は、YouTubeのアルゴリズム(定期的に投稿することを求めること)に挑戦し、1年間でわずか9本の動画を投稿しただけで成功を収めている。彼女は、ファッションコレクションの商業的成功を左右する立場にもある。TikTokでは何百万もの若い女の子たちに彼女が飲んでいる飲み物を真似させるほどの影響力を持ち、ファッションウィークのランウェイの入り口に登場すれば、何百人ものファンを沸かせる。そして、同世代の多くの女の子たちと同じように、すべては彼女が小さな頃、自分の部屋でカメラの前に立ったことから始まった。
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カリフォルニア出身
エマ・チェンバレンは、2001年5月22日にカリフォルニア州サンブルーノで生まれた。父親のマイケル・チェンバレンは油絵と写真を専門とするアーティストで、母親のソフィア・チェンバレンは以前マイクロソフトで働いていたフライトコーディネーターだ。両親は、エマが5歳の時に離婚した。エマはひとりっ子で、「今でも両親は友だちで、よく話しています。本当に恵まれていると思います。ふたりはとても仲が良くて、お互いを支え合っています」と2023年の終わりに雑誌「ピープル」に語っている。しかし、この別居は彼女にとって、特に恋愛面で影響を与えることになった。「年齢を重ねると、少し驚くことがあります。そして自問自答してしまうのです。『初めての恋愛ってどうあるべきなのか?』って。でも正直、私はそれがどういうものか、全く分かりません。」
ルイ・ヴィトン 2019-2020年秋冬コレクションのランウェイに登場したエマ・チェンバレン。(パリ、2019年3月5日)photography: Jacopo Raule / Getty Images
エマ・チェンバレンは、サンカルロスのセントラル・カレッジで学び、その後、ベルトモントのノートルダム校で高校生活を始めた。実は、この時期にチアリーディングに出会い、5年間競技を続けた。しかし、エマは学校に留まることはなかった。彼女があまりにも繊細で、何にでも手を出すタイプだったのか? それとも彼女が独特すぎたからなのか? エマは高校1年生の最初の学期で学校を辞めた。YouTubeとの出会いは6歳の時、その後、2017年6月に自分のチャンネルに初めて動画を投稿した。白いTシャツを着て、髪をポニーテールにまとめた彼女は、その動画で最近買ったものを紹介した。しかし、2017年7月に「ダラーストア(100円ショップ)に謝らなければならない」というタイトルの動画を公開したことで、初めて大きな成功を収めた。その動画のおかげで、彼女のチャンネルの登録者数は1ヶ月で4万人から15万人に急増した。
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初の「編集なし」インフルエンサー
他のYouTuberがコンテンツを丁寧に作り込むのとは異なり、彼女の動画スタイルは斬新なことから大ヒットした。エマは、体をフィルターで歪ませたり、ニキビをアップで映したりする。よくあくびをしたり、げっぷをしたり、ノーメイク状態や泣いているところをそのまま撮影したりする。動画には導入部も結論もなく、よく突然終わってしまい、視聴者は物足りなさを感じることもある。さらに、言葉を探すのに数秒間目を泳がせるシーンが続くこともある。経験豊富なインフルエンサーならその部分をカットするところだが、彼女はそのまま見せている。このように、エマは無意識のうちに、年齢相応の普通の女の子らしい、どこか脆弱な一面を感じさせる存在になっている。つまり、彼女は「編集なし」で、万人から共感を呼ぶ最初のインフルエンサーと言えるだろう。
見た目にも、エマ・チェンバレンには他と一線を画す特徴がある。それは、大きな目の下にクマがあり、まつ毛が短いこと。この特徴は、ビリー・アイリッシュと同様に、彼女が常に疲れているような印象を与える。
「私は今年、自分のクマを好きになることを学びました。自分のスタイルが少しグランジっぽく、少し自然になってきたと感じています。クマが私をティム・バートンのキャラクターみたいに見せていると思うし、それについては全然気にしていません」と、彼女は2021年に雑誌「エル」で語った。
YouTubeでの成功を背景に、彼女は2018年にロサンゼルスに移住する。同じくアメリカで有名だったYouTuberたち、ジェームズ・チャールズ、グレイソン・ドーラン、イーサン・ドーランとともに生活を始めた。2018年のクリスマス時点で、彼女のチャンネルは600万人の登録者を抱えており、その年のうちに「YouTube版オスカー賞」で4部門にノミネートされた。そして、ブレイクアウト・クリエイター賞(注目のクリエイター)を受賞。最終的には、2019年11月13日、「タイム」誌が選ぶ「タイム100ネクスト」と「インターネットで最も影響力のある25人」のリストに選出されるという栄誉を授かった。
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起業家としてのエマ・チェンバレン
インフルエンサー......それともむしろ起業家と言うべきか。2019年、エマ・チェンバレンは自らのコーヒーブランド「チェンバレン・コーヒー」を設立し、コーヒーや関連商品を販売している。彼女はコーヒーが大好きで、特に氷を入れたアイスラテを好む。実際、数年前にTikTokを席巻した「アイスラテ」の現象も、エマ・チェンバレンによるところが大きい。彼女の企業の成果は順調で、2023年には投資家から700万ドル(約10億円)を調達し、フォーブスによるとその時点で約2000万ドル(約31億円)の収益を上げたとされている。2024年11月には、眼鏡ブランド「Warby Parker」と初のコラボレーションを発表し、95ドル(約14,700円)で販売される複数のモデルを展開。このパートナーシップは、同社が14年ぶりに最も利益を上げた取引となったことを発表している。Instagramに投稿された一枚の写真でトレンドを生み出す力を持つこの若い女性の影響力の一例と言えるだろう。
当然のことながら、ファッション業界はすぐに彼女に注目した。2021年、彼女はルイ・ヴィトンのアンバサダーに任命され、アーティスティック・ディレクターのニコラ・ジェスキエールが演出するファッションショーに出席するため、定期的にパリを訪れた。その2年後、ランコムは彼女を新たなミューズとし、雑誌「ヴォーグ」はMETガラでインタビューの役割を託した。
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メンタルヘルスを優先させる
しかし、成功にはプレッシャーも伴う。エマ・チェンバレンが関わることは成功を収める一方、時にはそれが原因でメンタルヘルスが犠牲になってしまうこともある。「他の人たちが夢見るものを手に入れたのに、私はとても怖くて、落ち込んで、壊れてしまった。でも同時に、私はこれをするために生まれてきたのだと感じています」と、彼女は2023年に『ニューヨーク・タイムズ』紙に打ち明けた。
というのも、有名になる前のエマ・チェンバレンは、少なくとも表面上は常に「普通の女の子」だった。他の女の子と同様、彼女も悩んだり、ロマンチックな気分になったり、悲しんだり、落ち込んだりするのだ。そして、2020年に彼女はSpotifyと契約し、ポッドキャスト番組「Anything Goes」を制作したのは、そういった彼女の感情を言葉にするためだった。その番組の中で彼女は、復讐についての考えから2010年代のファッションの復活、さらには「私は美しくありたいのか、それとも面白くありたいのか?」といった存在に関する問いまで、さまざまなテーマについて語っている。
彼女は独自の方法で、おとぎ話の裏には常に影の部分があることを証明している。『ニューヨーク・タイムズ』紙で彼女は次のように語っている。「この業界は偽りの約束が多い。だからこそ、私は、『完璧な幸せの境地にはたどり着けない』ということを言わなければならないと思っています。」彼女のこの視点は、ますます多くのフォロワーを持つ彼女のコミュニティに安心感を与えているようだ。彼女の最新のYouTube動画は2ヶ月前に投稿され、「髪に関する理論」について扱っている。これは非常に「ニッチ」なテーマ(髪型が魂の鏡であるという理論)であるにもかかわらず、視聴回数は120万回を超えている。
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From madameFIGARO.fr
text: Augustin Bougro (madame.lefigaro.fr) translation: Hanae Yamaguchi