ディオールのオートクチュールコレクション、鏡の向こうの夢と現実。
Fashion 2025.02.07

ディオールの2025年春夏オートクチュール コレクションがパリ7区ロダン美術館で発表された。いつものように美術館の庭に設けられた会場の外観を包むアート作品が、内部で待つインスタレーションとショーへの期待を高める仕掛けである。今回会場のアートインスレーションを託されたリティカ・マーチャント。彼女による9枚の絵画がカリシマ・スワリ、チャーナキヤ工房、チャーナキヤ 工芸学校の手仕事によって大型のテキスタイルパネルに見事に再構築されて会場内の壁を飾り、ショーの背景となったのだ。この独創的な集合作品は世界中の女性アーティストを支援するというマリア・グラツィア・キウリとディオールのコミットメントを反映したものである。ショーの開始を待つ間、来場者たちはテキスタイルの壮大な魅力に圧倒され、近づいて細かい針目の手仕事に感嘆し、パネルを背景にセルフィーを撮って......。





世代を超えた女性たちの物語が織りなすこの没入型の視覚的風景を背景に、コレクションが発表された。カラフルな風景とコントラストをなすように、モデルたちがまとうルックは黒、白、ベージュなどほぼ無色彩だ。コレクションのインスピレーション源となったのは、『不思議な国のアリス』。マリア・グラツィア・キウリが自身のインスタグラムで語るところによると、画家ドロテア・タニングのファンタジーと現実が混じり合う作品から常にインスパイアされているそうで、そう語りながらモーツァルト作曲のセレナーデのタイトルから題名をとったタニングの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク(小夜曲)』(1943年)を写真にあげていた。この作品は『不思議な国のアリス』からタニングが着想を得て描いたものである。複数の扉、巨大なひまわり、二人の少女......。「変容と成熟の課題を描写することで不思議な国のアリスに似た混乱した雰囲気を生み出すタニングならではの才能、そして彼女の謎めいた絵画に思いを馳せながら2025年春夏コレクションをスタートしました」と。


今回のコレクションはアリスが鏡の中を通り抜けて自由に別の世界と行き来するように、時間の秩序を超えてファッションの過去数世紀のクリエイションのテーマが盛り込まれたコレクションである。現在と複数の時代を思いのままに往来し、鏡の国での予測不可能な出会いが連続するといった様相を呈していた。発表されたのは68ルックで、18~19世紀を象徴するクリノリンがモダンで実用的なバージョンでサイズもさまざまに多数登場。竹を籠状に編んで、そこにあしらわれた花やレースなどの装飾にはメゾンのサヴォワールフェールが満開していた。白いレースで包まれたクリノリンのルックは、少女の無垢で儚い夢のよう。



時代がさらに遡り、16世紀に流行った襞襟(フレーズ)がモデルの首を取り囲むルックもあれば、17世紀によく見られた肩の部分がふっくり膨らんだジゴ(羊のもも肉)・スリーブを思わせるバルーンスリーブも印象的だった。メゾンの歴史の中でも鏡の向こうへと。マリア・グラティアは1958年にイ ヴ・サン=ローランがディオールのために生み出した「トラペーズ」ラインからも、インスピレーションを 得ている。台形の見事なコートが素材を変えて何点か登場。それらのコーディネートはブルマーパンツだ。またムッシュー・ディオールが1952~53年のクチュールコレクションで発表した「ラ・シガール」がオリジナルのモアレ織りの生地で再解釈され、ショートスカートとフィッテッドのテイルコートの組み合わせというルックや、またクリノリン・ドレスとして登場。スカート部分がセミ(ラ・シガール)が広げる2枚の羽のごとく丸みを帯び、コントラストが映えるプロポーションを強調していた。もちろん1947年のファーストコレクションの不滅のルックであるバー・ジャケットも。




自由、ファンタジー、遊び心に満ちたこのコレクションでモデルたちの頭を飾ったのは、スティーヴン・ジョーンズによるパンキッシュなモヒカン・ヘッドドレスである。鏡を抜けてどの時代へとゆこうとも忘れてはならないのは反骨精神! とマリア・グラッツィアの強いメッセージを掲げているかのようだった。

来場セレブリティもチェック!















