2025秋冬コレクションで見られた、新しいズボンのはき方とは?

Fashion 2025.03.30

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ハイブリッドでコンセプチュアル、意外性に満ちたパンツが今シーズンは続々登場している。デザイナーたちの今の気分はドレスやスカートよりもパンツのようだ。しかし、これほど大胆なデザインが果たして人々に受け入れられるだろうか。

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アライアの軽やかなブルーマパンツ。photography: Launchmetrics.com/spotlight

1964年、ピエール・カルダンとアンドレ・クレージュは、女性のパンツスタイルについて興味深い議論を交わしている。インターネット上にはその貴重な映像が残っており、今も見ることができる。議論の中で、カルダンはかなり保守的な意見を持っていた。曰く、「女性にはヒップがありますね。ズボンで(中略)女性が美しく、セクシーに見えないことは議論の余地がありません。あるいはセクシーかもしれませんが、かなり下品で(中略)女性はまず男性に気に入られなくてはなりません」。これに対し、アンドレ・クレージュは先進的な考えを示し、「女性がズボンをはいても男性にはなりません(中略)。ズボンをはくかどうかは重要ではなく、女性らしさとは無関係な話です(中略)。大事なのは、自分に似合う服を見つけることです」と答えている。

白熱した議論から幾多の歳月が流れ、ピエール・カルダンが好むと好まざると女性のズボンが当たり前の時代となった。2025年春夏コレクションに登場したパンツスタイルの多様さを亡きクチュリエが目にしたら仰天するに違いない。今シーズンは形、スタイル、素材共、実に多彩なパンツがランウェイに登場した。男性のワードローブから女性の日常着へと変遷を遂げたアイテムに、今やデザイナーたちが興味を持ち、創作意欲がかき立てられたかのようだ。

クロエのシェミナ・カマリやアライアのピーター・ミュリエは、70年代のボヘミアンスタイルに触発されてブルーマータイプを発表した。これは西洋ファッション史における初の女性パンツスタイルを思い起こさせる。19世紀半ば、アメリカのフェミニスト、アメリア・ブルーマーが着用したものに端を発し、ぶかぶかしたズボンは自転車の普及とともにスポーツウェアへと進化した。さらに、ドレスやスカートで人気の透け感のある素材を取り入れ、女らしさを追求したブランドもある。ボイル、シルクメッシュ、レースなどで、足を覆いながらもほのかに肌がのぞく。

斬新なカッティング

スカンツ(スカートとパンツからの造語)などの新しい形も登場している。

ロエベのジョナサン・アンダーソンは、スカートのようにウエストにボリュームを持たせたドレープパンツを発表。フランス南部のトゥールーズのセレクトショップ「デパルトマン・フェミナン」のオーナーであるキャロル・ブナゼは、このパンツを春夏商品として仕入れた。「ボリュームと動きがある点がいいですね。ドレープが優雅ですし、楽なのにエレガントです」と気に入った理由を語る。

ファッションフリークのキャロルはスタイルと同じくらい着心地も重視している。「うちの売上の80%はズボンです。やはり働く女性のメインアイテムですから。でもメンズっぽい黒やグレーは飽きてくるので、そこから脱却できるのはいいですね」。

クレージュのニコラス・デ・フェリーチェは「パンタジュペップ(パンツ+スカート)」という作品を発表。
これはパンツの両足をつなぐ布を足すことでパンツにもスカートにも見えるアイテムだ。デザイナーは「とても効果的で異なる印象を与え、驚きました。しかし、このアイデアは突然ひらめいたわけではありません。私のコレクションはサイクルと無限をテーマにしており、ストレッチ素材で足をくるんでボリューム感を出したらどうかと思っていたのです」と話している。

その結果、「"フィット"しているのに流れがあってエレガントで、少し謎めいていてる、ハイブリッドモデルが生まれました。パンツをデザインは楽しいですね。自由の本質そのものです」とも。

少し脱線するが、2013年1月31日、フランスの女性権利省は、女性の男装を禁じた政令が暗黙のうちに廃止されたことを発表した。実はこの法令が発表されるまで、女性はズボンをはくことが法律で禁止されていた。その後、この話題は大きく報道された。

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ひとつの解放

ファッション史の専門家、フロランス・ミュレールによると、現在のようなズボンは「フランス革命時に登場したアイテムで、男性服として位置づけられました。男性にとっては新時代の象徴となりましたが、女性は依然としてペチコートに閉じ込められていました。1830年、ジョルジュ・サンドはズボンを着用するための許可をパリ市に申請しています」。

1960年代にイヴ・サンローランが登場してようやく、女性のパンツスタイルは日常、特に仕事着として普及していった。それはまさにひとつの解放だった。

ジュリエット・メオ(ネリーロディ社ファッション&ビューティークリエイティブコンサルタント)は、「今日登場しているズボンの新しいスタイルは、現代社会の一面を反映しています。例えば、ズボンとスカートの融合は、ジャンルや歴史を混ぜ合わせ、ハイブリッド化する社会を反映している」と述べている。

女性のズボン姿が当たり前になった今、ズボンは新しい形で差別化され、さらに新鮮味を加えようとしているのだろう。

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アシンメトリーでワイルドなヴィトンのパンツ。photography : Launchmetrics.com/spotlight

根本的に作り変えるわけではなく、ほんの少しの変化で新鮮味をもたらそうと、デザイナーたちは試行錯誤している。その証拠に、現在最も斬新なファッショントレンドはいつものようなTikTok発ではなく、ランウェイで生まれている。

例えば、アシンメトリーな片足パンツという、なんとも不思議で不可解なアイテムが登場した。この大胆かつ評価しづらい(つまりは最先端とも言える)アイテムは、2022年にニューヨークのファッションウィークで、ロダルテやルアールなどのブランドのショーで見られた。

しかし、2025年になるとパリやミラノのファッションウィークに参加する高級ブランドのベテランデザイナーたちも手がけはじめた。
ボッテガ・ヴェネタのマチュー・ブレイジー、ルイ・ヴィトンのニコラ・ジェスキエール、そしてコペルニのデュオデザイナーがいずれもテーラリング版を提案している。一方、ヴィクトリア・ベッカムは、片側に大きなスリットを入れた脱構築タイプを提案した。これこそ、穴あきパンツの新しい形態と言えるだろう。

どこへ向かうのか

アシンメトリーなデザインは少なくとも斬新なシルエットを生み出している。それは、デザイナーが自らの想像力を示すためのものなのか、それとも女性たちに伝統や形式から離れた新たなスタイルを提案するためなのか。

ネリーロディ社のジュリエット・メオは、「ファッションデザイナーたちは、ジーンズのように不動の地位を築いたアイテムや、近年台頭してきたスーツタイプのズボンに匹敵するものを探し続けています。"スカンツ"や"片足パンツ"は、オフィスウェアトレンドの中で、従来よりも楽しく肩の凝らないファッションを模索して生まれたものです。オフィスウェアは、この流れの中で進化したと言えるでしょう」と語る。

それにしても、この新しいタイプのパンツがランウェイから飛び出し、1シーズン以上ワードローブに留まるほどの人気を得られるかどうかは、まだわからない。セレクトショップオーナーのキャロル・ベナゼは、しばらく様子を見るつもりだ。「アシンメトリーなパンツというコンセプトには、あまり賛同できませんでした。実験的で運次第ですから。でも興味深くはあります。クリエイティビティが常に求められるファッションにおいて、新しい提案は常に美徳です。たとえ、それが消費者の欲望を引き起こすために驚きの形であっても」と述べている。

パンツ革命

ボッテガ・ヴェネタのパンツ。photography: Launchmetrics.com/spotlight
アライアの軽やかなブルーマパンツ。photography: Launchmetrics.com/spotlight
エルメスのパンツ。photography: Launchmetrics.com/spotlight
アシンメトリーでワイルドなヴィトンの片足パンツ。photography: Launchmetrics.com/spotlight
パンツとスカートのハイブリッド、ロエベのスカンツ。photography: Launchmetrics.com/spotlight
クレージュのパンツ。photography: Launchmetrics.com/spotlight
ヴィクトリア・ベッカムのパンツ。photography: Launchmetrics.com/spotlight

From madameFIGARO.fr

text: Marion Dupuis (madame.lefigaro.fr)

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