ディオールの2025年フォール コレクション、京都・東寺の庭園を舞台に幽玄の美を描き出す。
Fashion 2025.04.18

去る4月15日の夜、ディオールは、マリア・グラツィア・キウリによる2025年フォール コレクションのファッションショーを開催。舞台は京都・東寺の庭園。1950年代から始まった日本とメゾンの強い絆を讃え、創設者クリスチャン・ディオールとその後継者たちが培ってきた情熱を、日本へのオマージュとして捧げる歴史的な機会となった。由緒ある建造物とピンクのグラデーションを織り成す桜と新緑が照明によりほのかに浮かび上がるなか、ショーは静かに幕を開けた。

今季のコレクションでウィメンズ クリエイティブ ディレクターのマリア・グラツィア・キウリが目指したのは、世界各地の文化における装いの習慣を決定づける要素について探究し、結びつけることだった。そこで彼女は衣服を平面と立体としてとらえて研究を行う。一例となったのが、1957年秋冬コレクションでのムッシュ ディオールの試みに続くキモノジャケットだ。かつてムッシュ ディオールは、着物のシルエットを尊重しながら、その上から着られるようデザインされた「ディオパルト」と「ディオコート」を製作した。


今回のコレクションにあたり、マリア・グラツィア・キウリが研究した衣服の平面(二次元)と立体(三次元)の構造。彼女が着目したのは、「身体のための衣服」と「衣服のための身体」の関係性だった。その身体とは、着物とそのテキスタイルのクオリティの均衡を、彼女のDNAに内在する建築的センスの中に組み込む現代的な身体のこと。こうして誕生したのが、ゆったりとした身体を包み込むようなラインで、時にはベルトで締めるデザインのジャケットやコート。着物に使われるシルクの生地も、そしてシルエットを引き立てる日本庭園のスケッチも、そのいずれもが貴重なクリエーションを構成している。




日本の伝統的な素材、モチーフや染色技術、ゆったりとしたシルエット取り入れた、現代的でスポーティなアイテムも目を引いた。



今回のコレクションの最大の特徴は、比類なき京都の職人たちとのコラボレーション。それはムッシュ ディオールの時代から受け継がれている、ディオールと日本が育んできた固い絆の証でもある。
2025年フォール コレクションで日本に再び焦点を当てた理由について聞かれたマリア・グラツィア・キウリはこう語る。「他の文化と対話をする機会はとても大切です。(自身の出身国である)イタリアにももちろん伝統はありますが、残念ながら失われたものもあります。伝統工芸を未来にどう残していくかを考えることは私にとっても重要なことです。クチュールハウス同士の対話を重ねて物語をつくり、ファッションやブランドの裏に何があるのか、匠の技というものを未来にきちんと届けたいと思っています」
ムッシュ ディオールにとって日本は、インスピレーションの源となる存在だった。1954年には、京都の美術織物工房、龍村美術織物の生地を用いて製作したアンサンブル「ウタマロ(歌麿)」を発表。ムッシュ ディオールをも魅了した龍村美術織物の絹織物は本コレクションでも使用されている。
「ディオールとの共通点は、美しいものがより美しくなることへの探求をやめないこと。ムッシュ ディオールは浮世絵をはじめ日本文化にとても興味を持っていらっしゃいました。初代・龍村平蔵もまた、フランスから仕入れをしたり好奇心が旺盛でした。お互いの文化をリスペクトする心が共通しているのです。130年以上の歴史をもつ龍村の織物技術が最先端のファッション、キウリさんのフィルターを通してどう表現され、どう世間が受け止めてくれるのかがとても楽しみでしたし、意義があることだと思います。古代裂という古い時代の端布がショーではとても現代的なものになって表現されており、エポックメイキングな瞬間を目撃したと感じました」と、五代龍村平蔵 / 株式会社 龍村美術織物 代表取締役社長の龍村 育氏は語る。

そのほか、江戸時代後期の文政時代から京友禅を作り続けている田畑染飾美術研究所、刺繍と染め、箔加工を用いて製作を行う福田工芸染繍研究所も本コレクションで匠の技を惜しむことなく提供している。




会場には日本国内、海外からのセレブリティのゲストが駆けつけ、ショーにさらなる華を添えた。






























text: Natsuko Kadokura