新クリエイティブ ディレクターによる、デビューコレクションのお披露目が目白押しの2026年春夏。交代するたびに"ブランドらしさとデザイナーの個性とのバランス"が問われてきたが、ミラノファッションウィークではどうだったのか。
01
ダリオ・ヴィターレがヴェルサーチェを刷新!
まず大きく変わったのはヴェルサーチェだろう。
モードにおける常套句ではあるものの、まさに新チーフクリエイティブオフィサー、ダリオ・ヴィターレは「アップデート」した。いまを生きる私たちがヴェルサーチェ兄妹のゴージャスでグラマラスな精神をもってリアルに装うなら、という着地だったのだ。

カラフルで、ださいのかどうか迷うようなギリギリのバランスには、1980年代のムードも漂う。そして、これまでならあり得ないような、ニットを腰に巻く、という肩の力を抜いたスタイリングも。

こうした発想はトレンドセッター、ミュウミュウで経験を積んだダリオゆえの時代を読む才能によるものだろう。きっとヴェルサーチェに関心を持つ層が広がるに違いない。
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02
上質な継承、ルイーズ・トロッターのボッテガ・ヴェネタ
一方でボッテガ・ヴェネタとジル サンダーは、前任者から自然な流れでバトンを受け継いだように見えた。激変、というよりは緩やかな変化。顧客たちはさほど驚かずにすむのかもしれない。
そもそもボッテガ・ヴェネタと新クリエイティブディレクター、ルイーズ・トロッターは、納得の組み合わせではあった。彼女なら、これまで築き上げられてきたブランドイメージに沿うクリエーションをするはず。まさにその通りの結果となった。
シックな持ち味を活かしつつ、イントレチャートといったブランドのアイコンをさらりと取り入れている。やがてインパクトのあるデザインや素材を登場させる展開も前任者同様。
付け襟などの小物使いやバッグのハンドルを上下逆にする持ち方、肩のストラップを片方落とす、といったスタイリングの小技の数々は、ルイーズと長年タッグを組んでいる人気スタイリスト、スザンヌ・コラーの手腕が光る。
そしてニットの首巻き・腰巻きはやはりトレンドなのか......。
ブランドの顧客、ルイーズのファン共に満足のいくものだっただろう。
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03
シモーネ・ベロッティのジル サンダーは理知的に静寂を守って
ジル サンダーは、創業者の精神に改めて立ち返っていた。冒頭は1990年代を思わせるミニマルスタイル。
ただ、ここからミニマル一辺倒に終わらない展開はあった。
しかし、新クリエイティブディレクター、シモーネ・ベロッティは、どんなに特殊な素材や大胆なフォルムを用いても知的で静謐なムードを保っていた。非常にジル サンダー的な表現の仕方だったのではないだろうか。
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04
ストーリーテリングに。デムナによる新生グッチの始まり
そして最後は、一番話題を集めたと言っていい、グッチ。ただ、新アーティスティックディレクター、デムナが事前に公表していたように、7月の就任から発表まで間がなかったことが原因のようで、「ファーストショー」は来季を予定している。今回はいわば前哨戦だったが、アイデア溢れる演出で注目をさらった。
ブランドのアイコンをふんだんに用いたルックを発表した翌日、スパイク・ジョーンズとハリナ・レインが監督した短編映画『ザ タイガー』の上映会を開催。ショー会場に到着したセレブが途端に撮影攻めにあう、というおなじみの風景を模して、最新ルックを着用したモデルやセレブたちが順に車から登場するさまは、もはや立派なショーだった。
そして豪華キャストによる映画も完成度が高く、主演のデミ・ムーアは映画『サブスタンス』を思わせる怪演を披露。
映画のプレミアのフォトコールという形式でレッドカーペッドで新作を発表し、その後短編映画『The Simpsons / Balenciaga』を公開したバレンシアガの2022年春夏同様エンターテインメントとして楽しめたが、肝心のコレクションはデムナらしいシルエットやひねりが効いていて、新たにトム・フォード時代に代表されるセクシーさも加わっていたものの、デムナとしてはまだブランドの歴史を復習したにすぎないのなのかもしれない。
今回を正式なデビューとしなかったことには、ビッグブランドを手がけるからには時間をかけて取り組みたいという気合いも感じられる。おそらくデムナらしさがより一層発揮されるはずの「ファーストショー」が、ますます楽しみとなった。
photography: Spotlight text: Itoi Kuriyama