Kawakyun コスプレイヤーKipi、色鮮やかな革に恋をする。
Fashion 2025.12.05
PROMOTION
国内外で人気のコスプレイヤーKipiさんが、墨田区の革工場"LEATHER LAB TOKYO"を訪問。革の奥深い魅力に、新たな表現の可能性を見出した。

隅田川と荒川に挟まれ、古くから"川の手"のまちとして発展してきた墨田区。水とともに生きてきたこの街には、明治時代から皮革産業の歴史が息づく。なかでも目を引くのが、1923年創業のT.M.Y's。シープスエードを中心に、ラムやゴートなどの革の染色やさまざまな加工を専門とするタンナーだ。2006年に墨田へ拠点を移し、2020年には荒川を臨む土地に工場とショールームを兼ね備えたLEATHER LAB TOKYOをオープン。ポップな内装の工場では、革の魅力を体感できる工場見学やワークショップも随時開催している。
ある秋の朝、工場を訪れたのは、衣装づくりに情熱を注ぎ、そのクオリティの高さでも知られる人気コスプレイヤー、Kipiさん。階段を上がり、3階の革干し場に足を踏み入れると、色とりどりの革がKipiさんを出迎えた。目の覚めるようなイエローに、柔らかなブルー、若草のようなグリーン......。工場の一角に、突如春が訪れたような光景に、「革ってこんなにカラフルで多彩なんですね!」とKipiさんは顔をほころばせる。

LEATHER LAB TOKYOを訪れると、ポップにデザインされたサインが出迎えてくれる。

アニメやゲームなど幅広いジャンルで自作衣装でのコスプレを楽しむKipiさん。(写真:Kipiさん提供)
---fadeinpager---
色鮮やかなレザーと、飽くなき探究心と。
LEATHER LAB TOKYOが手がける革の強みは、なんといってもその色数の多さだ。ストックルームにはシープスエードを中心に、常時200色以上のサンプルを揃え、その数は注文に応じて増え続けている。
普段コスプレの衣装に使う素材は、縫いやすさや持ち運びのしやすさ、しわのできにくさを重視して選ぶというKipiさん。
「レザーを扱うには特別な知識や技術が必要、というイメージがあって、普段の衣装づくりには少しハードルが高かったんです。本当は『このキャラは絶対に本革を着ているだろうな』と思うこともあるんですけど......」

ストックルームで、カラーサンプルを手に。「ニュアンスが少しずつ異なる色が、こんなにたくさんあるんですね」と驚くKipiさんに、「お客さんからの要望に応えているうちに、いつのまにか色数が増えてしまって」とT.M.Y's代表取締役社長の渡邊守夫さん。
1階の染色場では、「タイコ」と呼ばれる大小6つの染色ドラムが回転していた。
「なめしを経た革をタイコに入れて、染色していきます。油や薬品などを少しずつ調整して、お客様の希望する色や柔らかさに近づけていくんですよ」
代表取締役社長の渡邊守夫さんが、そう言って一冊のノートを開いて見せてくれた。革の端切れがいくつも貼られ、経過時間ごとに薬品の配合や色みの変化がびっしりと書き込まれている。「こうしてデータを取ることで、次もまた同じ色みを再現できるんです」
渡邊さんの言葉に、「すごい......! 手間を惜しまず、細かな試行錯誤を重ねているんですね」と感心するKipiさん。

1階に並ぶ大小のドラム。中が見えるガラス張りのドラムに「洗濯機みたい!」とKipiさん。「回転して、革を上から下に叩き落とすことで、色を浸透させていくんですよ」と渡邊さん。

染色のたびに、薬品の配合や色みなどのデータを細かくノートに記録する。丁寧な作業の積み重ねはまさに"研究所"。
---fadeinpager---
LEATHER LAB TOKYOでは、染色だけでなく、フィルムや箔、型押しなど、デザイン性の高い加工も手がける。デザイナーが問屋を介さず直接訪れ、オーダーすることも少なくない。
「『こんな色、こんな質感の革、つくれますか?』『この写真を革にプリントできますか?』と、デザイナーさんから"無理難題"のようなリクエストをいただくこともあります。でも、試行錯誤してそれらをかたちにしていくのが僕たちの喜び。常に新しい可能性を追求し続けていたいから、この場所に『革の研究所』という意味の名前をつけたんですよ」
渡邊さんの言葉に、Kipiさんは大きくうなずく。
「私の衣装づくりも、服飾を専門にしている方からは『その素材をそんな風に使うの⁉︎』」と驚かれることがあります。コスプレって、服飾でも造形でもない、新しいジャンルなんです。二次元のイラストをもとに、素材やシルエットなどのディテールを想像し、三次元に仕立て上げる。既成概念にとらわれずに、『とにかくやってみよう』の繰り返しなので、同じく"ラボ"といえるかもしれません」

数種類の染料を調合し、理想の色みに近づけていく。10年、20年単位の経験を積み、染め職人としての勘どころやスキルを身につけていく。

回転する噴射機が、ベルトコンベアーで運ばれる革1枚1枚に塗料を吹き付ける。蒸気乾燥機で乾かしたあと、職人が色の乗り具合を丹念にチェック。
染めの工程を見学した後は、2階の仕上げ場へ。タイコで染め上がった革の色みを、手作業やスプレー機で調整していく。職人たちの真剣な眼差しと熟練の手つきに、思わず目を奪われる。
「幸い、革づくりが大好きな仲間たちに囲まれています。みな、求められたことをやるだけじゃなくて、『もっとこうしたらいいんじゃないか』と高みを追求していくメンバーばかり。そんな環境で革づくりをする毎日が、楽しくてしょうがないですね」
少年のように目を輝かせ、誇らしげに語る渡邊さん。アーティストやシューズブランドなど異業種とのコラボレーションにも積極的で、最近は自社ブランドという新しい挑戦もスタートさせた。衣装づくりを始めると、寝食を忘れて没頭してしまうというKipiさんも、「素敵ですね」と大きくうなずく。

ストックルームの革の山から見つけた、お気に入りのピンクの革を手に。
---fadeinpager---
手を動かす原点にあるもの。
物心ついた頃から、物づくりはKipiさんの身近にあった。
「父は日曜大工が好きで、夏休みの工作でも私より張り切っちゃうタイプ(笑)。祖母も洋裁が得意で、昔からミシンが近くにありました。好きなアニメのキャラクターが着ている服を自分でつくりたい、と私が思い立ったのも、自然な流れだったのかもしれません」
その血は、Kipiさんにも確かに受け継がれている。フォロワー30万人を超えるXのプロフィール欄には、「手を動かすことが好きなコスプレイヤーです」の一文が。インスタグラムでポストされている日々の手料理は、どれも料理人顔負けの腕前だ。
「コスプレイヤーといっても、衣装を自作する人、完成品を着て役になり切る人、テレビやグラビアで活躍する人など、スタイルはさまざま。私は衣装をつくって発信することで、物づくりの楽しさを伝えたいという気持ちが強いんです。最近では、子どもたちを対象にしたものづくりのワークショップに講師として参加するなどの活動も行っています」

工場の各所に、革を使ったサインボードやアートが。その遊び心やデザイン性の高さに、ここが工場ということを忘れてしまいそう。(写真右:TOKYO LEATHER LAB 提供)

3階の革干し場で、ネイビーに染められたシープレザーに触れるKipiさん。干し場には、多い時で1,200枚の革が吊り下がるという。
革がくれる、新しいインスピレーション。
LEATHER LAB TOKYOの見学を経て、Kipiさんの中で革がぐっと身近になったようだ。
「発色が綺麗で柔らかな革に触れて、私も創作に取り入れてみたくなりました。なんでも自由につくれるとしたら、『これは絶対に革じゃつくらないよね』というものをつくってみたい。着物の帯に、ウェディングドレスに......料理も大好きなので、テーブルランナーを革でつくるのも楽しそう!」。次から次へと湧いてくるアイデアに、目を輝かせる。
「ぜひ、どんどん革を使って、その魅力を発掘していってください。Kipiさんが革でつくったものをまとっていたら、『私も試してみようかな』と思う人がきっと増えますよ。それに、『本革を着ているぞ』という満足感は格別のはず」。と渡邊さんも背中を押す。
「ファッションってそういうものですよね。頼りない衣装を着ると自信がなくなってしまうし、『これは上手にできた!』という衣装を着ると、歩き方や立ち振る舞いまで自然と変わっていく。着ているもので心まで豊かになれば、それはとても幸せなこと。正直、ここに来る前は『レザーなんて高級感のある素材を、コスプレイヤーの私が使っていいんだろうか』なんてちょっと不安だったんですが(笑)、遊び心を持ってどんどん新しいことに挑戦されている渡邊さんに、エネルギーとアイデアをたくさんいただきました」
ジャンルは違えど、ものづくりという挑戦を日々楽しむ渡邊さんとKipiさん。常識という枠を軽やかに超え、"研究"を続けるふたりは、次はどんな驚きを見せてくれるのだろう。

兵庫県出身。東京を拠点に活動するコスプレイヤー。学生時代にコスプレを始め、現在は会社員として働きながら、週末を中心に自作の衣装でコスプレを楽しむ。ファンクラブ「KIPITIA(きぴてぃあ)」のブログでは、衣装制作の進捗や活動報告、日常のできごとなどを発信中。SNSだけでなく、イベントなどでのファンとの交流を大切にしている。
Instagram:@kipi_84
X:@kipi_84
渡邊守夫さん
有限会社T.M.Y's 代表取締役社長
レコード会社勤務を経て、父が1923年に始めた本革の染色業を継ぐかたちで家業に加わる。2006年、兄弟3人で新たに「T.M.Y's」を設立。社名は、三兄弟(TERUAKI・MORIO・YOSHIJI)の頭文字に由来する。2020年、東墨田にLEATHER LAB TOKYOをオープン。イタリアやスペインの展示会を毎年訪れ、最新のトレンドや技術を吸収。日本の市場に合わせてアレンジしながら、革の新しい表現を提案し続けている。
*日本タンナーズ協会公式ウェブサイト「革きゅん」より転載
photography: Mirei Sakaki text: Marika Nakamura




