ジョルジオ・アルマーニ独占インタビュー。

Fashion 2020.09.19

ファッション界に長きにわたり君臨する“完璧主義者のモードの帝王”、ジョルジオ・アルマーニ。現在でも世界中で広がる新型コロナウイルスの猛威は、彼が暮らすイタリアも飲み込んだ。生活とクリエイションの拠点、ミラノもロックダウンになってしまった頃、アルマーニは何を考え、どんな未来を見据えていたのか? コロナ禍の後のモード界を予見するかのように、2016年に発表した「ニューノーマル」コレクションについての話も掘り下げながら、アルマーニの最新の声をお届けする。

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このポートレートはロックダウン期間中、インタビューのために撮り下ろしされた貴重な一枚。photo : Courtsey of Giorgio Armani

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日々の暮らしについて。

――平日の一日のスケジュールは? コロナの前と後で何か変わったことがあれば教えてください。

私の毎日は、朝早くからのエクササイズとヘルシーな朝食から始まり、その後、デザインスタジオに移動してチームとの会議を複数こなす、というルーティンです。ロックダウン(都市封鎖)の間、私の一日は多少の違いはあるものの、都市封鎖時期をともに過ごした家族や、とても親しいメンバーとの小さなグループで以前と同じようなスケジュールをこなしていました。私は以前のように早起きを続けて運動をし、朝食をとり、新聞を読んで、メールを確認し、ともに隔離生活していた人々と電話で話したりしていました。その後に軽い昼食、そしてときには短い昼寝をとっていました。その後、18時まで働き、テレビ、夕食、夕食後には映画鑑賞を。友人や家族とは電話でできるだけ連絡を取り合うように心がけ、毎日、必ず庭のフレッシュな空気を吸う数時間を確保していました。

――コロナ禍の前後で、日々の生活で大事にしていることは、変わりましたか?

ロックダウンの最中に私が最も大切にしていたのは、立ち止まって考える時間を持つことでした。私たちはいつも急いでいます。いま、私たちはすべてにおいて減速することを余儀なくされている。私はそれが健全なことだと感じています。私たちは皆、生活の中で真正性と有意性を取り戻す必要があると強く信じています。

――読書、映画やテレビを観る、音楽を聴くなど、あなたが多く時間を費やすものはどれですか?

私は常に映画を好みます。私が子供の頃に初めて観た映画『The Iron Crown』や、『ベニスに死す』、『山猫』などのクラシック映画でたくさんの好きな作品があります。またクラシック映画だけにかかわらず、昨年、公開された『Tutto il mio folle amore』など最近の映画も楽しんでいます。本については、私は伝記が好きなので、ローマ皇帝についての小説である『Memoirs of Hadrian』やジャーナリストのジジ・モンカルヴォが書いたイタリアの車メーカー、フィアットの元名誉会長、ジャンニ・アニェッリの伝記などが好きです。

また、最近はTVシリーズのドラマも楽しむようになりました。たとえば、歴史的な出来事に基づいたネットフリックスのドラマシリーズの「ラスト・ツァーリ:ロマノフ家の終焉」は大好きです。このドラマシリーズはその時代の映画からシーンを抜粋していて、それが作品の仕上がりに非常にいい影響を与えている。特に登場人物である旧ロシア皇女の性格と、物議をかもすことが多いラスプーチンに心を動かされました。また、「ダウントン・アビー」 と 「ザ クラウン」も本当に楽しみました。いまは、ドイツのテレビシリーズ「バビロン・ベルリン」を観ていて、非常によくできていると思います。登場人物が劇中で着ている衣装が、祖父が昔着ていた服を思い出させてくれ、私は童心に返り楽しんでいます。

音楽に関しては、それほど詳しくはありませんが、もちろん好きですし、ときには熱狂的に楽しむことも。私は、パリのブッダ・バーで流れているようなアンビエントミュージックや、クラシック音楽をモダンに解釈したようなものが好きです。

――ミラノでいちばんお気に入りの場所はご自宅とのことですが、私たちが行くことのできる場所で、どこかおすすめはありますか? レストランやカフェ、美術館などを教えてください。

ミラノ市内にいくつか大好きな場所があります。もちろん、最近リニューアルされたエンポリオ アルマーニ カフェとリストランテ、またミュージアム「アルマーニ / シーロス」は言うまでもありませんが、それ以外ではサンタ・マリア・プレッソ・サン・サティロ教会は隠れた宝石のような美しさです。また、現在は州立大学の本拠地である古代市立病院には、典型的なミラノの厳格な雰囲気を伝える美しい回廊があります。

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ブランド創設40周年を記念して、2015年、ミラノに文化複合施設「アルマーニ / シーロス」をオープンした。photo : Courtesy of Giorgio Armani

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クリエイションについて。

――よく、フルレングスのドレスにさえフラットシューズを合わせています。ヒールではなくフラットシューズを合わせていることに、考えやこだわりはありますか?

ドレスにフラットシューズを合わせることで、歩く際に流れるようなエレガンスが生まれることを発見しました。

――服を着こなすには、その人自身の内面が重要だ、と近年よく発言されています。人を美しくさせる要素として、特に重要な「内面」とは何でしょうか?

美しい見た目を実現するためには、優雅さ、バランス、誠実さ、そしてセンスが最も重要な要素であるといつも感じています。本当の美しさはルックスではなく、仕草です。

――あなたのクリエイションへのあふれる力、情熱はどこからくるのでしょう?

私は自分の仕事が大好きで、情熱を傾けています。そのことが私を満たし、私を駆り立てるのです。

――服を作り始める前の記憶でも服を作り始めてからでも、折に触れ思い返したりクリエイションの源になったりという事柄が何かありますか?

私は若い頃から写真に熱心だったのを覚えています。ファッションの世界への道のりは、実は妹のロザンナを撮影した一連の画像がきっかけでした。私はこれらの写真をミラノの老舗百貨店であるラ・リナシェンテで働く女性に見せたのです。その結果、私はウィンドウドレッサーとして、メンズウエアのファッションバイヤーと一緒に働く仕事を得ました。そのことが私にとって転機に。それ以前は医学を勉強していたのです。私はしばしば、ビジュアルを作ることに魅了されたことが私の人生をどのように変えたかについて考えます。

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妹のロザンナはブランドのコミュニケーション部門とイメージ戦略の責任者を務めていた。モデルのキャスティング能力に長けていて、アルマーニからの信頼も厚かった。photo : Alfa Castaldi

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――ファッション界でジェンダーレス化が進んでいますが、あなたはどう考えますか?

ファッション界は、コミュニケーション面が密になっているいま、とっかかりとなるテーマを常に探しています。ジェンダーの平等は、社会での役割だけでなく、ドレスコードにも確実に反映されるものであり、私がこの仕事を始めて以来、興味を持ち続けている根本的な題材です。私は女性にブレザーに着せ、また、男性用のジャケットを柔らかくフェミニンな生地で作っていました。ジェンダーレスは私にとって身近なことだと思います。ジェンダーレスに関する現在のオープンマインドなムードと、この点に関するさまざまな提案が生まれているのはいいことだと思います。ただ、一時的な話題性を得たいという欲望から、ショーで発表する世界観が維持されることなくすぐに終わってしまい、行き過ぎてしまう印象もある。個人的には、この繊細で複雑なテーマを探求する時でも、効果的なものを作りたいという願いを込めて、私は人々がどのように服を着るのか、という現実を見続けています。

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レディスのジャケットスタイルなど、早くからジェンダーレスなスタイルを提案している。写真は1984年春夏コレクションより。photo : Aldo Fallai

――あなたから影響を受ける人は多いと思いますが、あなたに影響を与える人とはどんな人でしょうか?

おそらく、私の母。母が私に最も強い影響を与えました。非常に控えめな女性でしたが、彼女はとてもエレガントでした。私たちに、主に倫理的な選択として人々を気遣うことの重要性を教えてくれました。「less is more」(少ないということはより多い)という考え方、より具体的にいうと「少ないことがより良い」という思考は、私が母から独自に得た教義であり、今日でも私を支えています。そして、この考え方によって母を思い出すことができます。彼女はかつて、美を創りたいのであれば、必要なことだけをして、それ以上のことはするべきではない、と言っていたのを思い出します。確かに、これからの時代において、より注意深い認識が必要な時、私はこの考え方がこれまで以上に意味があることだと思います。私は軽薄なことと過剰なことはほとんどしてきませんでしたが、おそらく、いまはこれまで以上にしなくなりました。すべてのこの考え方は母に由来していると思います。

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「ニューノーマル」コレクション、そして今後のモード界について。

――「ニュー ノーマル」コレクション発表時、ピーター・リンドバーグが広告ビジュアルを撮影しましたが、なぜピーターを選んだのですか?

ピーターはジョルジオ アルマーニの広告キャンペーンで長年一緒に働いてきた古くからの友人であり、ファッション写真に関する従来のアイデアを常に超えた彼の作品には、いつも何か感じるものがありました。逆説的に言えば、彼はまったくファッションフォトグラファーではなかったので、彼はファッションの素晴らしい写真を撮ることができたんだと思う。ファッションフォトグラファーではない代わりに、彼は被写体の性格を正直に写し出し、ひとりの人間としてしばしばその弱さも写し出します。モデルでもセレブでも、ピーターは仮面の後ろの人間性に興味がありました。私もそこに興味がある。ファッションは着る人を偽装したり圧倒したりしてはならず、その人の性格やパーソナリティを賞賛し表現すべきです。本物の女性たちからの共感を呼ぶタイムレスなアイテムにフォーカスした「ニューノーマル」コレクションを思い付いた時、これをすぐに理解して完璧に伝えることができる写真家はピーターだけだと思いました。

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ピーター・リンドバーグ(写真左)と。「ピーターが撮る女性は、正直で生の強烈な美しさを持っている」とアルマーニ。photo : Courtsey of Giorgio Armani

――ピーター・リンドバーグとあなたとで女性観の違いと共通点を挙げてください。

現在、ミラノの「アルマーニ / シーロス」のエキシビションスペースでピーターの作品展を開催しています。2015年にオープンしたこの場所には、私の作品の永久的なコレクションが収められていますが、アート作品の展示も行われています。今回のピーターの展覧会は『ハイマート』と名付けられています。ハイマート(ふるさと、心の属する場所)は、工場、霧、金属、コンクリートなど、ドイツ北部の工業地帯にあるデュイスブルクの幼少期の家とピーターの関係を表現している。彼はこの風景の中に美しさを見いだすことができ、そしてそれは彼の美学を磨きあげました。それは飾り気がなくて自然なものでした。

彼は女性のイメージを、しばしば彼らを産業的な、または少なくとも華美な装飾がないような設定で捉え、正直で、生の強烈で美しく、強いキャラクターの肖像画といった世界観に落とし込んでいる。私はピーターに彼の作品のこの世界観に対し、常に賞賛を送ってきました。彼の作品は服や髪や化粧を超えた時代を超越したものでもあります。自信に満ちた女性のイメージ、その美しさは自信と性格の強さにあり、それは私が絶対的に共感し高く評価している美しさです。

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昨年秋に他界したピーター・リンドバーグの作品展は、ミラノの「アルマーニ / シーロス」にて、2021年1月10日まで開催中。photo : Courtsey of Giorgio Armani

――2016年に発表された「ニューノーマル」コレクションですが、コロナの時代を経て、今後発表される「ニューノーマル」コレクションに何か変化はありますか?

このコレクションの魅力はパンデミックの結果、魅力により焦点があたったということはあるかと思いますが、もちろん前もってこうなることを想像していたわけではありません。多くの点で、新型コロナウイルスが猛威を振るうこの時代が私たちにもたらした考えのいくつかを、私は予想していました。私は2016年に「ニューノーマル」コレクションを発売しました。これは一時的な流行に代わる、時代を超えたエレガンスの追求を表しています。現代のスタイルに基づいてクラシックスタイルを再検討し、再解釈をしました。このようにして、ワードローブに長年愛用してもらえるコレクションを作りました。このコレクションは過去と現在を結びつけ、一過性のトレンドではなく、永遠のスタイルという観点から、ファッションについて異なる考え方を消費者に促すコレクションです。

「ニューノーマル」コレクションのアイテムは、アルマーニのアーカイブピースからセレクトされたアイテムを今日のために再考したものです。80年代に男性と女性のために開発したアンコンジャケットやタキシード、パンツスーツ、女性のための「男性的な」パンツ。フラットシューズ、そしてトレンチコート。また、使用されている生地も、ベルベット、ウール、カシミアなど、時代を超越したものであり、ネイビーブルー、生成り、ベージュなどの色もそうです。その意味で、ここには何年も着用できるコレクションがあります。そこには日付はありません。それは持続可能性に役立ち、ファッションに対してスローダウンしなければいけないということを表しています。これはまさに新型コロナウイルスが私たちに示した、いま取り組まねばならないことです。

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近年のレタッチした写真に疑問を感じていたアルマーニは「レタッチなし。女性のシワさえ、それは人が生きてきた美しい証。シワやシミを消したりせず、ありのままの美しさを写真に収めたい」と語る。往年のスーパーモデルのいまにフォーカスした美しい写真を撮影したのは、もちろん故ピーター・リンドバーグ。写真は、2016年秋冬「ニュー ノーマル」コレクションの広告ビジュアルより。photo : Courtsey of Giorgio Armani

――世界で猛威を振るう新型コロナウイルスの影響でファッション界も大きな打撃を受けています。この危機的状況で、コレクションのスタイルや、販売の仕方など、ファッション業界はどのように舵を切るべきだとお考えですか? また、ご自身の仕事へのスタンスにも変化はあったりしたのでしょうか?

先に申し上げたように、私たちはスローダウンする必要がある。私の意見ですが、ファッション業界が変化する必要がある理由のひとつは、近年、ファストファッションの手法に引っ張られているからです。これには、誰もが必要としない、または望んでさえいないより多くのコレクションとシーズン、そしてより安価な製品の生産が必要です。これらはすべて、トレンドが限られた時間だけ続くという感覚に基づいて行われます。定期的にワードローブを交換して、激しいトレンドの流れに対応します。発表するコレクションの数が少ない状況に戻ること、まずはそこから。いま私は、プレコレクションショーとメインコレクションショーを組み合わせて、発表するショーの数を減らしたいと考えています。それから、季節を再調整して、外の天候に適した服を提供するつもりです。1月に夏のリネンドレスが販売されなくなり、7月に冬のコートが販売されなくなります。これらは、物事をより論理的、より人間的にし、無駄を減らすために設計された、いくつかの最初のアイデアに過ぎません。基本的には、私はより少ないものを作りそれらをより良くしたい。そして私は人々に対し、より少ないものを買うことによって、より良いものを得ることを奨励できるようになることを望んでいます。

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――西洋占星術では2020年は、約200年ぶりに地から風の時代になるといわれ、物質的なものから、コミュニケーションや情報が大切になるといわれています。そんな中で、ファッションの価値観はどう変わっていくと思われますか?

ファッション業界が優先順位を見直すことを期待しています。それはより人間的なスケールで動作し、創造性と優れた実践を促進するはず。そして、それはより持続可能な方法で行われるべきです。業界の生産量がより少なく、より良くなる場合には、購入に関しても同じことをするように消費者を教育することができます。多分、人々は買うものをもっと気に掛けるようになるでしょう。そしてこのことははより良く作られ、そしてより長く使われるということへの価値に繋がるでしょう。そして私は品質の観点からだけでなく美学の視点からもこれを申し上げています。こうしたことこそが、より持続可能な生活様式を実現するでしょう。

――いま、実際には海外の行き来が制限されている中で、あらためて自国のことについて向き合うきっかけになったと思いますが、そのことは、これからの時代に向けて、どのような意味があったと思われますか?

実際、私たち全員が直面している難問は国境問題にとどまらず、グローバルな事柄だと思います。私たちが家で目にするものは世界中で応用できます。たとえば、パンデミック中に汚染レベルがどのように減少したかを考えてみましょう。ヴェネツィアの水はよりきれいで、ピサの港でイルカが泳いでいるという報告さえありました。これは、この危機から脱却する際に心に留めておかなければならないことです。つまり、汚染活動を減らすことは、自然に利益をもたらすということ。多くの点で、今回はある意味で清算、という意味を持っているのかもしれません。潜在的なリセット。一時停止して再考する瞬間。私たちは現代生活の早いペースに翻弄されているため、このようなことをする機会はあまりありません。しかし、いま、私たちは、将来どのような世界があり、ファッション業界がどうありたいのかを考える機会を与えられています。それは貴重な機会であり、私はそれを無駄にはしないでしょう。

イタリアだけでなく世界中のファッション企業は、産業をより持続可能なものにするために、非常に多くのイニシアチブを模索することができる。たとえば、より倫理的なサプライチェーンとエネルギーの使用、リサイクルされた有機材料の使用、化学薬品の削減など……。これを行えば、ポジティブな違いが生まれます。そして私たちは私たちが働く方法をよりクリアにすることができます。このすべては現在アルマーニ社でも検討されています。本当のスタイルとは移りゆくトレンドではなく、エレガンスと洗練を長持ちさせることだという、私にとって非常になじみ深い考えに回帰しています。

●問い合わせ先:
ジョルジオ アルマーニ
www.armani.com
 

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texte : TOMOKO KAWAKAMI

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