ファッション新時代のニューワード辞典/ 2021年春夏 ダンスに歌に、春夏コレクションの美しい演出。
Fashion 2021.04.19
デジタルでのショーや動画がポピュラーになったいま、「エモーショナル」というのも春夏コレクションを語るうえで書かせないポイントだ。
Emotional
[ 感情を揺さぶる ]
歌い、踊り、詩を書いて、身体いっぱいに表現。
パンデミックの影響で、デジタル化が加速した世界へ の反動か。ドリス ヴァン ノッテンは、実験的な映像で 知られるアーティスト、レン・ライに影響を受け、サイケ デリックな色彩とダンスでコレクションを発表。女性のみで歌うコーラスや、水しぶきをあげて踊るタンゴ、 泣いている世界を表現した水彩タッチなど、生身の人間らしい身体表現を取り入れた演出が、いま心に響く。
Dries Van Noten
“動きの芸術”を追求した実験映画で知られるレン・ライに着想を得て、大胆な色彩とポーズで撮影。©Viviane Sassen
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Dramatic
[ ドラマティックな演出 ]
サカイは現代美術作家の杉本博司が手がけた神奈川県・小田原の江之浦測候所でショーを開催。強く優しい女性像が今季の着想源になったシャーデーの曲と降りしきる雨が一体となり、幻想的な効果をもたらした。ロックは惑星のような場所でムービーを撮影し、ロエベは躍動的なポーズでルックを発表。
Sacai
デザイナーの阿部千登勢は「雨も演出の一部」とコメント。
江之浦測候所は、屋外舞台や茶室などを備えた文化の発信地。客席毎にアクリル板を設置。
Rokh
デザイナーのロック・ファンは、ロンドンでの外出自粛期間中に「みんなを月や火星、未知の土地に連れていき、喜びと謎に満ちた物語を作りたい」と思い立ち、ロマンティックかつタフなウエアをSF映画のようなロケ地で撮影。
Loewe
ロエベのルックは、自由なポーズを色鮮やかに撮影。
今季のアートフィルムを制作したアーティストのヒラリー・ロイド(写真左)らスタッフがモデルに交じって登場。
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Poem
[ 詩 ]
「自然」をテーマに掲げ、パリのビュット・ショーモン公園でショーを行ったコシェ。イタリア人の詩人で庭師でもあるアレックス・チェッケッティに詩を依頼。 母なる地球に対する思い、カルチャーとしての公園、自己のあり方などについて書き下ろし、ビジョンとともに提示した。
Koché
ショーの際に配られた詩。フィナーレでは、チェッケッティの詩を綴ったテープを手にしてモデルたちがデモのごとく行進した。
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Water Color
[ 水彩 ]
コロナ禍で“世界が泣いている”と考えたケンゾーは、アーカイブのモチーフ、ポピーを涙で滲んだようなタッチで表現。アクネ ストゥディオズは、アーティストのベン・クインとコラボ。星のペイント作品には“流転する世界とコントロールを手放す大切さ”という意味が込められている。
Acne Studios
ベン・クインが描いたインビテーション。
水で滲んだカラフルな星のパターンが印象的。
Kenzo
養蜂家の装いからヒントを得て、ベールを被ったソーシャルディスタンスルックを発表。
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Choir
[ 聖歌隊 ]
パリのチュイルリー公園に設けられたディオ ールのショー会場は、ステンドグラスが輝く大聖堂のような空間。パリの合唱ユニット、セクエンツァ 9.3が、コルシカ島の葬儀の歌をモチーフにした曲「バラの血」を女性のみで高らかに歌い上げた。その生音に心が震える。
Dior
イタリアの前衛芸術家、ルチア・マルクッチが雑誌の記事をコラージュし、現代的なステンドグラスに。©ADRIEN DIRAND
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Dancer
[ ダンサー ]
無重力をテーマに掲げて、エアリーなウエアを提案したエンポリオ アルマーニは、“ゼロ・グラヴィティ”ダンスを披露。イザベル マランは自粛期間中の踊り出 したい思いをダンスチームとのショーで表現。メゾン マルジェラは情熱的なタンゴを今季の題材に選んだ。
Emporio Armani
設定は未来都市。コロナ禍で苦境の芸術家を支援するため、モデルのほかダンサーや俳優など12名が出演。
Maison Margiela
人との繋がりを身体的に表現するタンゴに着想を得た。ムービーでは制作過程も公開。
Isabel Marant
イザベル マランには、気鋭のダンスチーム、オルドが登場。
*「フィガロジャポン」2021年3月号より抜粋
texte : MAKI SHIBATA