いまこそ知りたい! ロイヤルファミリーとティアラの秘密。
Jewelry 2019.10.21
高貴な輝きを放つティアラは、いつの時代も女性たちの憧れ。その歴史やモチーフづかい、デザインのトリビアからプリンセスたちのスペシャルなティアラまで。天皇陛下のご即位が披露される即位の礼も行われ、新しい時代を迎えたいまこそティアラのすべてを知りつくしたい!
ティアラの誕生と歴史的エピソード。
©ショーメ
頭を飾るジュエリーには、実はさまざまなスタイルがある。たとえばディアデム(現在一般的にティアラと呼ばれるもの)、フェロニエール、バンドー、コロネット、サークレット、エイグレット、トレソン……。現代のカチューシャやバレッタよりもはるかにバラエティ豊かだ。
ティアラとは、王冠を除くヘッドジュエリーのほぼすべてを総称することば。古くは紀元前のエジプトで作られ、古代ギリシャでも王族の結婚を祝う宴で身につけられたという。古代ローマでは、ローマ皇帝もヘッドジュエリーをつけていた。権威のシンボルとして、黄金で仕立てた月桂樹の冠をつけたのだ。
そのスタイルを真似たのが、後のフランス皇帝ナポレオン1世。彼も月桂樹の冠をつけ、自らの宮廷を格式高いものにするために、女性たちにティアラの着用を命じたという。
この時ナポレオン一族のために数々のティアラを仕立てたのが、ショーメの創業者、マリ=エティエンヌ・ニト。ちなみに、ニトと同世代の王妃マリー・アントワネットは、ティアラをつけた肖像画を残していない。彼女の時代は髪をボリュームいっぱいに高く結い上げるのがマナーで、ティアラの出番がなかったのだ。
ティアラのスタイルに大きな変化が訪れたのは、20世紀に入ってからのこと。コルセットがすたれ、女性たちが丈の短いシンプルなドレスを身に纏うようになると、ティアラもまた古典的で重厚なデザインから、モダンで軽やかなデザインへと変わっていった。
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ティアラをひもとく、4つのキーワード。
長い歴史を持つティアラは、背後にさまざまなストーリーを秘めている。キーワードを手がかりに、ティアラの知識を深めて。
KEY WORD1「ティアラのドレスコード」
一般人がティアラをつけるシーン……といえば、まず思い浮かぶのが結婚式。ウェディングドレスに合わせるティアラの特別感は、花嫁を最高にハッピーにさせてくれる。
それ以外では、たとえばもしも宮中晩餐会に招かれたら、ローブ デコルテにティアラをつけるのがドレスコード。また、スウェーデン国王が主催するノーベル賞晩餐会に出席することになっても、やはりティアラ着用はマストだ。シルヴィア王妃やプリンセスたちも、みんなティアラをつけて晩餐会に臨んでいるのだから。
逆にNGのケースもある。かつてソフィア・ローレンが英国のエリザベス女王に目通りすることになったとき、念入りに結い上げた髪にのせたのはコロネット(小さな王冠)。ところが女王の前では王冠をつけてはいけないと直前になって指摘され、大あわて。でも髪をくずさないかぎりコロネットは外せない。女王はこのミスを微笑んでスルーしたが、翌日の新聞にはソフィアを叩く記事が載ってしまったという。
スウェーデン王室に伝わる「カメオ ティアラ」。ニト&フィス作、1810年頃。©ショーメ
KEY WORD2「デザインに込められた想い」
ティアラにあしらわれるモチーフはさまざま。モチーフにはそれぞれ秘められた意味があり、機知に富んだモチーフを身につけるセンスが女性たちには求められたからだ。
たとえば、ナポレオン1世の皇妃ジョゼフィーヌも持っていたという「麦の穂のティアラ」。このモチーフは豊かな実りや繁栄を意味する。ローマ神話の農耕の女神、ケレスのシンボルでもあり、古代ローマを敬愛していた皇帝ナポレオン1世の好みだったはず。
また、パンジーは「あなたを想っています。私を想ってください」という甘い意味。フランス語のパンセ(パンジー)はパンセ(想い)と発音が同じなので、ちょっとした言葉遊びからこんな意味が生まれたのだ。
もうひとつ、月桂樹はオリュンポス十二神のひとりアポロンのシンボル。落葉しない常緑樹であることから、勝利のシンボルにもなったという。何より皇妃ジョゼフィーヌも身につけたモチーフだから、現代のショーメが「アポロンの蒼穹」ティアラを仕立てることには意味があるのだ。
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KEY WORD3「アンティークな素材に注目」
ナポレオン1世は、古代ローマで貴石同様に格の高いものとされたカメオやインタリオも熱烈に愛した。ナポレオンの妹カロリーヌのティアラにあしらわれているのも、ニコロと呼ばれるメノウを彫ったインタリオ。
ちなみにカメオは浮き彫り、インタリオは沈み彫りの彫刻のこと。貝のカメオより宝石を彫刻したカメオやインタリオのほうが、より芸術的で格が高いとされていた。
アンティークのティアラを飾る真珠にも注目。それは養殖真珠ではなく、天然真珠だ。潜水夫が海に潜って採った1000個の貝のなかに、1個見つかるかどうかという稀少さのため、かつて天然真珠はダイヤモンドより高価だった。養殖真珠がヨーロッパで使われ始めるのは1920年代に入ってからだ。
また、古い時代のダイヤモンドは、現代の完璧に整ったラウンドブリリアントカットとはシェイプも輝きも少し違う。アンティークらしい味わいのあるきらめきが何ともエレガントだ。
ナポレオンの妹、カロリーヌの「インタリオ ティアラ」。ニト&フィス作、1810年頃。©ショーメ
KEY WORD4「2WAYは当たり前?」
ティアラは宮廷用のジュエリーだったので、かつての王侯貴族にとっても毎日つけるわけにはいかなかったよう。そこで分解し、パーツをつけ替えることでほかのアイテムとしても使用できる、コンバーチブルなティアラが作られた。
1920年(大正9年)、ロンドンに駐在していた前田侯爵の妻、漾子(なみこ)がショーメにオーダーしたのも、2WAYのティアラ。中央の部分を外し、リボンモチーフの別パーツをつければ、当時流行のストマッカーと呼ばれるボディ用のブローチになった。
皇妃ジョゼフィーヌの血を受け継ぐロイヒテンベルク公爵家も、形を変えるティアラを所有していた。エメラルドが鮮やかな「ロイヒテンベルク ティアラ」は、花の部分の取り外しが可能で、ブローチや髪飾りとしても楽しめる。
こうしたティアラを分解するには、ティアラフィッティングと呼ばれる専用のツールが必要だった。公爵家の貴婦人たちが自ら分解したはずはなく、きっと宝石商にいちいち戻して分解させたに違いない。
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![]() ジャン=バティスト・フォサン作「ロイヒテンベルク ティアラ」。1830〜1840年頃。©ショーメ |
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ロイヤルファミリーが受け継ぐ、美しいティアラ。
名品は時を超え、世代を超えて未来に受け継がれてゆくもの。笑顔に映えるロイヤルファミリーのティアラを、一挙ご紹介!
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texte : KEIKO HOMMA special thanks : CHAUMET