シャネル ファイン ジュエリー本店、贅沢な煌めきをさらに増して。

Jewelry 2022.08.02

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左:マドモワゼル シャネルが暮らし、息をひきとったリッツ・パリの向かい側、ヴァンドーム広場の18番地にファインジュエリーとウォッチを専門に扱うブティックがオープンしたのは1997年だ。右:槌目をほどこしたブロンズの台で上からのLED照明をうけて輝くジュエリーがゲストを迎える。

ヴァンドーム広場18番地。シャネルのファインジュエリー本店は1997年にオープンし、2007年に最初の改装が行われた。モード、香水と同様にかつてはパリ郊外のパンタンにあったジュエリーと時計のパトリモニー(遺産)は5年前にこの18番地に移動された。その結果、18番地の建物内に、ハイジュエリーのアトリエ、クリエイションスタジオ、ブティックそしてパトリモニーがまとまることになった。
パトリス・ルゲローがジュエリーを、アルノー・シャスタンは時計を。この建物の中で二人のクリエイション スタジオ ディレクターが描き出す夢は職人たちの巧みの技でこの世に形となって生み出され、ガブリエル・シャネルの精神が継続されてゆくのだ。

シャネルの宝石箱と呼びたくなるこの18番地の建物は、以前ナショナル・ウエストミンスター銀行が占めていた。恋人の一人がウエストミンスター公爵だったガブリエル・シャネルの運命との結びつきを感じさせるエピソードでは? そしてこの建物はヴァンドーム広場でリッツ・ホテルの向かいにある。そのスイートルームに暮らしていた彼女が何度窓から見下ろしたことだろう。自分が亡くなった後にそこがシャネルのブティックになることを想像しただろうか。ここにも運命を感じずにはいられない。彼女が眺めていた広場に面した建物のファサードは、ルイ14世統治下の1686年にマンサールが設計したもの。当時は広場を囲むファサードだけが存在し、18番地の裏手に個人邸宅が建築されたのは1723年と、今から300年前のことである。その間公爵や男爵といった貴族たちがここに暮らし、パリのエレガンスと豪奢がこのアドレスに刻まれていった。
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店内に配置された多数のアートピースの存在が、ブティックというより個人邸宅を訪問するようなプライベート感を演出している。左:エントランスホールの左手は英国の現代アーチストIdris Khan(イドリス・カーン)による『Eternal Movement』(2021)、正面のガラスの壁から姿を覗かせているのはFrançois-Xavavier Lalanne(フランソワ=グザヴィエ・ラランヌ)によるブロンズ製彫刻『Wapiti』(2007年)。右:Delos & Ubiedo(デロス&ウビエド)が手がけたポエティックなブロンズの小テーブル。

そんな建物内にできたブティックは、1932年の「Bijoux de Diamants(ダイヤモンド ジュエリー)」の90周年を記念して再び改装が行われた。その大任が託されたのは、2007年の改装と同様に建築家ピーター・マリノである。1年を費やしての工事。彼が手がけた3フロアは黒、ゴールド、白、ベージュが支配する世界で、時代もスタイルも自由に混在しているがアール・デコ調、バロック・タッチが随所に感じられる。研ぎ澄まされたライン、洗練されたアート作品、卓越のサヴォアフェールが空間内のあちこちに見出せ、マドモアゼル シャネルの私的な世界が現代的に解釈されたインテリアだ。彼女の人生の旅、彼女の世界、彼女の夢へと誘うブティック。よりラグジュアリーに生まれ変わった3フロアーを訪ねてみよう。

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ファースト・フロア

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ゴッサンスによるシャンデリアが輝き、ツイードのラグがモダーンでインティメートな雰囲気を醸し出す1階。ゴールドの壁が取り囲む空間の中央で、ヨハン・クレテンによるブロンズ像『La Borne』が3メートルの高さを誇っている。

一階はエントランスホールも含めて、存在を感じさせないガラスの透明と鏡の遊びに方向感覚を失う、無限の空間のような店内を作り上げている。低めの黒い漆のテーブル上で輝くジュエリーの美しさと卓越の仕事を1つ1つ目で追って、そしてゴールドの壁の中にはめ込まれた真っ白い空間の中で煌めくジュエリーに感嘆して……迷路のような空間を流れるように周遊してしまう。

緩やかな歩みの中で目を奪うのは、吹き抜けの空間の中央にそびえるヨハン・クレテン作のブロンズ像『La Borne』だろう。ヴァンドーム広場のコラムへのトリビュートで、3メートルという高さである。その塔を取り囲む周囲のゴールドの壁が実に美しい。のっぺりとした一枚壁と違って、織りの異なる複数の布を思わせるレリーフのある素材感が金のもつ華やぎにエレガンスと慎ましさを与え、内装に格調をプラスしている。

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奥のサロン。白い天井の下、ゴールドと黒の組み合わせがリズムを刻んでいる。黒いテーブルの向かいに見えるのが、ゴッサンスによるクリスタルの小石のフレームが囲む鏡だ。 

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左:小サロンの入り口には、槌目加工を施した透かしのあるブロンズの屏風が設けられている。右:ジュエリーを展示する黒い漆のテーブルの低さが、吹き抜けの高さを強調する。後方に見えるのは、二階への階段だ。

広場に面したショーケースを隠す役割を果たしているのは、槌目加工を施したブロンズのオープンワークスクリーンである。現代的な屏風といっていいだろう。このブロンズのスクリーンとゴールドの壁が黒い壁と作り上げるコントラストはアール・デコ調を感じさせ、マドモアゼルのカンボン通り31番地のアパルトマンのコロマンデルの屏風やゴールドの麻布で覆われた壁を思い出させる。
3メートルのコラムに導かれるように天井を見上げると、ゴッサンスによる複数のクリスタルがペンダントのように下がるシャンデリアの透明な輝きに目を捉えられる。シャネル傘下のメティエダールの1つである金銀細工のアトリエであるゴッサンス。創業者ロベール・ゴッサンスは1950年代にマドモアゼル シャネルとの出会いからコスチュームジュエリーを創り始め、彼女の信頼を得て自宅のオブジェや家具の製作も任されていた。今回の改装において、ゴッサンスはこの見事なシャンデリアだけでなく、奥のVIPサロンのための透明なクリスタルをゴールドのフレームに敷き詰めた鏡も制作した。

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セカンド・フロア

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階段の黒、手すりのゴールド、装飾のクリスタルが作り上げる空間は息を飲む美しさ。その中央で輝いているのは、Joel Morrison(ジョエル・モリソン)作『Coco Chandelier』。

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吹き抜けの天井。二階から下のフロアーを眺められる開放的な作りだ。

時計に特化した二階へはエレベーターあるいは階段で上がる。どちらにしようかと迷う場所で目を捉えられられるのは、今回の改装に当たってジョエル・モリソンがこの場所のために創作したスティールの彫刻「Coco Chandelier」だ。透明なクリスタルのペンダント房飾りとシルバーの輝きが混じり合うシャンデリアは、どこかダリの作品のようにシュールで幻想的である。

ピカソの3作品の複製が飾られたエレベーターで上のフロアへ。それも魅力だが、黒と白のツイードを敷いたとてもシャネル的な黒い階段に心をそそられるのでは? ガラスの欄干の両面に装飾されたクリスタルとブロンズが作り上げる長方形のカボションが空間に浮かぶようで、その美しさに目を楽しませながら一段ずつ上がる素敵な旅ができる。

吹き抜けの高い天井の地上階が縦長の空間だとすると、二階は横広がりのパノラマ空間である。ゴールドが細くフレームをつけた黒いラッカーの壁、真っ白い天井という創りはまるでシャネルの巨大なパッケージのよう。黒い壁の1つを飾るのは、ランダムに咲き誇るカメリアを描いたピーター・デイトンによる横長のコラージュ。シャネルが愛したカメリアの花との出会いに心が和む。

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左:パリにアトリエを構えるFarfelus Farfadet(ファルフリュ・ファルファデ)による黒い変形円柱の上には、ヨハン・クレテンによる陶製の『New Neurose』(2016年)。その後方の黒い囲みの中には、ヴァネッサ・パラディが出演した香水のCFを思い出させる鳥かごのミニチュアが飾られ、カゴの中には「エレクトロ△カプセルコレクション」のレインボーカラーのサファイアが飾られた時計がカラフルな鳥のように。右:時計コーナー。オーク材とホワイトブロンズを組み合わせたテーブル『Hamada Low』はJean-Luc Le Meunier(ジャン=リュック・ル・ムーニエ)による。

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壁に飾られた横長の額は、ピーター・デイトンによるカメリアの花のコラージュ。左の鏡に写り込んでいるのは、反対側に位置するプライベートサロン。鏡の効果でスペースはよりパノラマ的広がりを見せている。

フロアを明るく照らすのは、広場に面した窓から差し込む光。それを柔らかく遮るのは、優美なタフタ生地とナチュラルなヘシアン生地のコントラストが現代的なカーテンだ。窓際には応接セットが配されてる。ジャン リュック ル ムーニエによるホワイトブロンズ と天然ブラックオークを用いたローテーブルは、それを囲む4脚の肘掛椅子に置かれたゴールド・レザーのクッションの輝きと良いバランスをなし、モダーンな繊細さを作り上げている。

ヴィックムニーズがダイヤモンドでマドモアゼルを描いた肖像画「Coco in Diamonds」が誘いかけてくるのは、広場に向かって左手のプライベートサロン。壁の鏡が広さの感覚を失わせる魔法の空間である。ゴールドのテーブル、金箔を用いたアート作品、マザーオブパールをあしらった陶製ランプなどが織りなす絶妙の調和にピーター・マリノの感性に感嘆せずにはいられない。

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鏡の効果を生かしたプライベートサロン。中央にGarrido(ガリドー)作の24金貼りの真鍮のローテーブル。壁のマドモアゼルの肖像はVik Muniz(ヴィック・ムニーズ)作『 Coco in Diamonds』。鏡の壁の金箔を施した彫刻はSophie Coryndon(ソフィー・コリンドン)作で、ゴールドの蜂の巣のようで異彩を放っている。

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サード・フロア

さらにワンフロア上がると、そこで待つのは金箔で覆われた天井と黒い壁の中にゴールドのオブジェや家具が配されたゴージャスなスペースだ。ここは特別なレセプション・フロアで、その奥のスペースでは「コレクション N°5」のネックレスがミラーウォール越しに展示されている。これは55.55カラットもの大きさのタイプ2Aダイヤモンドをセンターに配したシャネルのパトリモニー・コレクションの中でも特別で貴重なハイジュエリーの1つで、パーマネント・ディスプレイだという。この壁の前ではパトリモニーから、ライオンに捧げた初のコレクションやアール・デコ調の「カフェ ソサエティ」コレクションの中から、というように比較的新しいハイジュエリーが展示されているが、3ヶ月ごとにその内容は変わるそうだ。

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左:ブロンズの台に飾られているのは、明治時代に製作された木製のハスの花のブーケ。右:その向かいのゴールド仕上げのベンチはAnthonioz(アントニオズ)による。

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左の壁はHa Chong-Huyn(ハ ジョン ヒョン)作の油彩『Conjunction』(2020年)。右の壁にはコレクション N°5から、55.55カラットのダイヤモンドが作り上げる香水ボトルのネックレスを展示。

燦然と輝くネックレスの後方には、画家スーラージュの作品を想起させる浮き彫りのある黒い扉が。特別な機会に開かれるという扉の裏に隠されているのは、広場に面したヴァンドーム・サロンである。ニコラ・ド・スタールの無機質な素材感とラインが広場と共鳴する油彩『Composition』(1950年)の存在感とモダーニティは、サロンに足を踏み入れる誰をも圧倒するだろう。向かい側のスペースには大きなテーブルが配置され、そこの壁の鏡にこの作品が映る。サロンのどこにいてもゲストはド・スタールのこの貴重な作品を鑑賞できる配慮がなされているのだ。

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ヴァンドーム・サロン内。壁を飾るニコラ・ド・スタールの空や雲を感じさせる『Composition』(1950年)は、彼の作品中で2番目にサイズの大きなものである。その向かいの ブロンズの椅子はVoukenas Petrides(ウォクナス・ペトリデス)による『Volumetric Chair』(2021年)、テーブルはReda Amalou(レダ・アマロウ)による『Oro』(2018年)で素材はブロンズ、ガラス、22金箔。

ピーター・マリノが仕掛けた光と鏡の遊びが奏でる3つのフロア。それぞれ空間のボリュームと用途に合わせて内装は異なるが、シャネルと聞いて我々がすぐに思い浮かべるツイードの存在は共通している。室内建築が目を楽しませるなら、体の感覚が触れ合うのがこの暖かみとインティメートな雰囲気を醸し出すツイードだ。1つのフロアーでもラグは複数のモチーフで織られて配置され、店内を歩くことに単なる空間の移動という以上の喜びが生まれる。また売り場に配置された直線のラインが凛としたフォルムの椅子は、黒と白、赤とベージュ、黄金色の濃淡などのツイードが張られている。ジュエリーや時計をじっくりと手にとって試したい人々は、その椅子で心地よく買い物の時間を過ごすことになる。

2007年の前回の改装の際、シャネルの当時の専属調香師ジャック・ポルジュによる香り「シャネル 18」が創られた。ガブリエル・シャネルの時代の香りにはない数字18は、ブティックのアドレスにオマージュを捧げての命名である。宝石にインスピレーションを得た香りで、パトリモニー担当者によると「ジャスミンの香りです。ジャック・ポルジュにとってダイヤモンドに等しいのが、白く、ピュアで、星の形をしたこの花なのです」。今回の改装にあたり、現在の専属調香師オリヴィエ・ポルジュはアイリスのエレガンスにアンバーの力強さを調和させた特別な香りをこのブティックのために考案した。300年の歴史を持つ建物において、1932年のマドモアゼルシャネルが創造したハイジュエリーコレクション「Bijoux de Ddiamants(ダイヤモンド ジュエリー)から90年が経ち、ファインジュエリーの本店は今、未来に向けて新たに扉を開いたのだ。彼女は「私の伝説が人々の心の中で楽しく永遠に生き続けますように」と生前願ったという。日中は太陽、夜は星となってこのブティックを見守っているのかもしれない。

Chanel Horlogerie Joaillerie
18, place Vendôme
75001 Paris
営)10:30(日12:00)〜19:00
休)なし

editing: Mariko Omura

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