輝きのハイジュエリー。メゾンのレガシーを継承し、未来へと 光と影。陰翳礼讃のエルメスの新しいハイジュエリー。

Jewelry 2022.08.26

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光と影の繊細な遊び「ジュ・ドゥ・オンブル」コレクションより。©️Elizaveta Porodina

パリで7月に発表されたエルメスの新しいハイジュエリーコレクション「ジュ・ドゥ・オンブル」。ジュエリー部門のクリエイティブ・ディレクターにピエール・アルディが就任してから、これが7回目のコレクションだ。エルメスという歴史あるメゾンで、彼は自由な発想と遊びのある創造というエスプリを守りつつ、新しい提案を続けている。このコレクションで彼はとらえることができない影(オンブル)をかたちにするという挑戦をした。自身もステージ上での表現者だった経験を持つピエール・アルディ。ショーなどで劇場の舞台にスポットライトが当たり、床に創り出される影は常々彼の興味をひく存在だったと語る。光の歪みを美しく表現したいという、彼の願いから誕生したのが53点からなる「ジュ・ドゥ・オンブル」なのだ。

誰もが歩道で自分の影と遊ぶように、彼はそれをシンプルなフォルムをもとにして、ジュエリーのクリエイションで行ったのだ。光が当たる角度で形を変える影。このコレクションでも宝石が作り出す影はそのままの形を映し出したり、あるいはデフォルメされて……そこには美しいコントラストがある。大胆で新しい視点からコレクションを生み出した彼は、「影こそが光の創造主」と称える。

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左:“Lueurs du jour(光の輝き)”のネックレス。黒い影はマットなブラックジェイドで表現されている。 中:影が鏡のような役割を果たす“Miroir d’ombre”のリングとネックレス。 右:リングとブレスレットのテーマは動く影“ombre mobiles”だ。石はピンクゴールドにはめ込まれ、影はチタンとブラウンダイヤモンド。photos:(左・右)©️Elizaveta Porodina、(中)©️Maud Rémy-Lonvis

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コレクション中、誰の目にもエルメスらしさを感じさせるのは、おなじみのシェーヌ・ダンクルのフォルムがベースの「シェーヌ・ドゥ・オンブル」だ。フォルムに命を与えるのは特別なアプローチによるパヴェセッティング。平らなホワイトダイヤモンドの並びに、ブラックスピネルとブルーサファイアのグラデーションが重ねられ、ボリュームがもたらされている。石がひとつずつ丁寧にセッティングされ、その仕事だけで700時間がかかり、トータルで2000時間をかけて創り上げられたネックレスは、肌のカーブにしなやかに添う逸品。エルメスの象徴的なピースについて仕事をするのが好きだと語るピエール・アルディは、シェーヌ・ダンクルだけでなく、馬術のシンボルである鞭を「フエ・オンブレ」というネックレスに。こちらもまた影で二重になったネックレスである。

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「シェーヌ・ドゥ・オンブル」のネックレスとリング。 ホワイトゴールドに平らなダイヤモンドがパヴェセッティングされ、ブラックスピネルとブルーサファイアのグラデーションが陰影を生む。photos:(左)©️Elizaveta Porodina、(右)Maud Rémy-Lonvis

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乗馬の鞭がイメージ。影とダブルのしなやかなネックレスは“Fouet ombré”。photos:(左)Maud Rémy-Lonvis、(右)©️Elizaveta Porodina

技術的にあっと驚かせられるのは「クルール・ドゥ・ジュール」のネックレス。重厚な観音開きの扉を左右に開くと、閉じ込められていたその内部が光によって見事に描き出される……といったイメージの3つ折りのペンダントである。機能をもたせながらも美しさが損なわれることないどころか、美しさを倍増させているのだ。クレール・オブスキュアのカラヴァッジョの絵画を前にしたピエール・アルディに、直感的に生まれたアイデアだそうだ。その光の効果から彼はこの トリプティックを“ライトボックス”と呼びたいと語っている。

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3つ折りの扉の中に光を隠した開閉式の“Couleurs du jour”のペンダント。メゾンのサヴォワールフェールによる機能美を堪能する。photos:(左)©️Elizaveta Porodina、(右)Maud Rémy-Lonvis

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そして、このコレクションでもうひとつの驚きは、ハイジュエリーとして珍しいことにカットされていない原石を用いていることだ。これは宝石商でのピエール・アルディの経験がベースにある。ダイヤモンド、トルマリンといった石を見せられた彼が携帯電話のランプで石を照らすと、それぞれの石の周りにフォルムが描かれて……。地球が生み出したありのままの美をたたえた原石に、光を当てることによって生まれる発見、驚きがこの「ルミエール・ブリュット」に込められている。

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光を当てられた原石が長い影に飾られる“miroir d’ombre” photos:(左)Maud Rémy-Lonvis、(右)©️Elizaveta Porodina

宝飾品というと語られるのは常にその輝きだが、今回彼はそれと反対の仕事に挑んだのだ。影の動き、影と光。そのふたつを結びつけるコントラストを表現した「ジュ・ドゥ・オンブル」コレクション。そのプレス発表に際して、光と影をテーマにLina Lapelytèが創作したパフォーマンスが行われた。カーテンで左右が仕切られたステージの両側に客席が並び、ジュエリーを身につけたパフォーマーたちの影がカーテンにそのままの形で、あるいはデフォルメされて映し出されて……ジュエリーのコンセプトを体現したパフォーマンスだった。

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7月6日、コレクションの発表に際して行われたパフォーマンス。photos:Mariko Omura

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パフォーマンス後、光と影が交差するセッティングの中でお披露目されたコレクション「ジュ・ドゥ・オンブル」。photos:Mariko Omura

editing: Mariko Omura

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