イエローダイヤモンドのきらめきが誘う、 宝飾店フレッドの大回顧展。

Jewelry 2022.10.07

フレッドといえば、フォース10を思い浮かべる人が多いはず。セーリングのケーブルとシャックルからインスパイアされ、現代性とカジュアル&スポーティなエスプリを備えたフォース10は、フレッドを象徴するアイコニックなコレクションだ。
けれど、フォース10は知っていても、フレッド創業以来の物語を知る人は、意外と少ないのではないだろうか。1936年にフレッド・サミュエルが立ち上げた高級宝飾店の歴史と未来を語る初の回顧展が、パリの現代アート美術館パレ・ド・トーキョーで開催されている。

221007_f01.jpg

アイコニックなコレクション、フレッド10にフォーカスした展示室は船と海のイメージでいっぱい。 @AshkanNoroozkhani

221007_f02.jpg

デザインとサヴォワールフェールと題した展示では、ゴールドの繊細な加工のテクニックやトランスフォーマブルなジュエリーが。 @AshkanNoroozkhani

「メゾン初の回顧展は、450点以上のジュエリーやオブジェを展示し、85年以上にわたる大胆なクリエイティビティに光を当てます。また、太陽のような人物だった創業者と、彼の前衛的な視点を語ります」というのは、副社長兼アーティスティックディレクターのヴァレリー・サミュエル。創業者フレッド・サミュエルの孫娘にあたる彼女は、ジュエラー一家の4代目だ。
「5年以上前にフレッド社に加わった時、創業者の孫娘として、家族の遺産でもあるフレッドのアーカイブを再構築したいと考えました。何十年も眠っていた箱の中から見つかったのは、7000枚以上のデザイン画とグアッシュ、7000点近い写真と数百点に及ぶ書類です。そこでこの遺産を展示し、メゾンの歴史を語ることにしたのです」

---fadeinpager---

221007_fred34.jpg

左:1945年5月。パリ、ロワイヤル通り6番地のブティックの入り口に佇む、フレッド・サミュエル(左)。
右:創業者フレッド(中央)、息子のアンリ・サミュエル(左)、孫娘で現在の副社長兼アーティスティックディレクター、ヴァレリー・サミュエル(右)。1995年、パリにて。

展覧会の幕を開けるのは、イエローダイヤモンド「ソレイユドール(ゴールドの太陽)」の煌めきだ。100カラット以上の希少なダイヤモンドは、77年に創業者の長男アンリ・サミュエルが買い付け、命名したもの。その後、表舞台から消えていたこの石を再発見したことは、ヴァレリーにとって、このプロジェクトの中で最大の驚きと感動だったという。
「以前、フレッドは105.54カラットの伝説のイエローダイアモンドを所有していました。当時の鑑定書を探してあちこちに電話をかけていたところ、10日ほど経って連絡が。鑑定書は見つからなかったが、石そのものがある、というのです。なんという運命のいたずら! この石は、これ一点で、創業者の太陽のような人柄と、フレッドというメゾンのエスプリを体現するものです。買い戻したソレイユドールを、この展覧会で初公開します」

221007_f05.jpg

エメラルドカットが施されたイエローダイヤモンド「ソレイユドール」は現在、101.57カラット。アンリ・サミュエルが77年にこの石を購入したことで、フレッドは100カラットを超えるダイヤモンドを所有するジュエラーの仲間入りを果たした。

---fadeinpager---

「ソレイユドール」に続くのは、創業者の足跡を語る展示室。アルザスのジュエラーの家に生まれ、アルゼンチンで子ども時代を過ごし、海と太陽を愛したスポーツマン。1936年、フレッド・サミュエルは、あえて、宝飾店が集まるヴァンドーム広場界隈から離れたロワイヤル通りに店を構え、名刺には「Le moderne joailler créateur(モダンジュエラー・クリエイター)」と記した。当時は懐疑的な目で見られていた養殖パールの美しさを支持していち早く取り入れ、「習慣の拒否、無視、脱却」を掲げた先見性のあるジュエラーの姿が展示を通して描かれていく。
「祖父には色々な面がありました。ジュエラー、外国人部隊のメンバー、パリ商業裁判所の判事、一家の家長。まっすぐな人で、悪口を言う人はひとりもいなかった。店では自ら電球を取り替えたり、掃除機をかけたりしていました。いつもパリッとした服装で、三つ揃いを着て、ニットのジレを着るのは週末だけ。夏はリヴィエラ、冬はアルプスのムジェーヴで、顧客のリズムとともに生活していました」と、ヴァレリーは祖父の思い出を語ってくれた。

221007_f06.jpg

221007_f07.jpg

フレッドと妻のテレーズは1934年に結婚。下のダイヤモンドのトランブルーズブローチは、45年、フレッドが戦争中に大事に保管していたダイヤモンドで妻のために製作したもの。展覧会のための準備の中で、ヴァレリーが「ソレイユドールに次ぐ感動的な発見だった」と語るピースだ。

---fadeinpager---

続いて、創業者の愛した海への情熱から生まれた作品をはじめとする新旧のジュエリーが、テーマごとに紹介されていく。ターコイズやサファイアのブルーから、ルビーやサンゴの赤まで、海と太陽の生み出す光をテーマにした色とりどりのジュエリー。アイコニックなフォース10の誕生と歩み。気取りのないカジュアルな作風を代表する、ミニチャームやフレディズ。映画『プリティ・ウーマン』のハートのネックレスや、ネパール王室のために制作された至宝。そして、最新のハイジュエリーコレクションのピースをバーチャルに試着できる試みまで。
「フレッドは他と同じことをしないジュエラーです。60年代のジャン・コクトーをはじめ、同時代のアーティストとのコラボレーションにはユーモアがあります。レッドカーペットや王家、富豪の胸元を飾ったジュエリーでは、その情熱とインフォーマルなグラムールで顧客を喜ばせ、トランスフォーマブルで姿を変え、日常の様々なシーンに使えるジュエリーであっと言わせました」

221007_f08.jpg

色彩の海、と題した展示室でブルーの空間に没入。レッド、ピンク、イエローからグリーン、パープルへ、ジュエリーの移りゆく色彩が鮮やかに浮かび上がる。@AshkanNoroozkhani

221007_f09.jpg

1970年頃、ラピスラズリとアクアマリンをあしらったイエローゴールドの指輪。

221007_f10.jpg

ダイアモンドとサンゴの「コンガ・ネックレス」(1976年)

221007_fred1213.jpg

左:1981年のフォース10の広告。「海の男がジュエラーになると、海のケーブルは黄金とステンレスのブレスレットになる」。66年に創業者の長男アンリのアイデアから誕生したフォース10は、フレッドのアイコンだ。
右:1978年ごろのイエローゴールドとステンレスの
フォース10ブレスレット。

---fadeinpager---

221007_fred141516.jpg

左:モナコ公妃グレースが「このジュエリーは絶対に外さない」と語ったお気に入りのパンサーの指輪は、現在も「オンブルフェリーヌ」コレクションに受け継がれている。
中:モンテカルロ店オープンの際にグレース妃にプレゼントされたルビーとダイヤモンドをあしらった、さそり座モチーフのペンダント。いずれもモナコ公室コレクション蔵
右:映画『プリティ・ウーマン』でリチャード・ギアがジュリア・ロバーツにプレゼントするネックレスのレプリカも展示。

221007_fred1718.jpg

左:すでに30年代に、ミニチャームを発信していた。1936年ごろにはシルバーのエッフェル塔や凱旋門がお目見えしていた。
右:80年代に登場したフレディズは、パールにゴールドやカラーストーンをあしらった人物像。昨年はトモコイズミとのコラボレーションも。こちらは90年代のゴルフプレイヤー。

花あり、動物あり、ゴールドの繊細な手仕事あり。さまざまなファセットを持つ85年の歴史を貫くのは、明るく陽気で、ユーモアがあり、肩の力の抜けたスタイルだ。
「展覧会で、フレッドのエスプリを感じ取っていただきたい。過去と現在、メゾンの遺産から最新の「ムッシュ フレッド インナーライト」のピースまでを通して、メゾンの常なる前衛性と思い切りの良さが表現されています。これはジュエリーの歴史に足跡を残したユニークな創業者への親密で温かなオマージュ。彼の残した言葉のかずかずが、メゾンの歴史とビジョンを自ら語っています」

221007_f19.jpg

回顧展を締めくくるのは、格別なピースの展示。 イエローゴールドにダイヤモンド、サファイア、カラーサファイアをあしらった小鳥のブローチは、フレッドの特徴のひとつ、カラーストーンへの情熱を象徴する代表作。1991年にアンリ・サミュエルがデザインしたもの。

221007_f20.jpg

イエローゴールドにダイアモンドをちりばめた花のブローチ(1969年)

フレッド回顧展« Fred, joaillier créateur depuis 1936 »
期間:開催中〜10月24日
会場:Palais de Tokyo
13, avenue du Président Wilson 75116 Paris
tel:33-(0)1-81-69-77-51
営)12:00〜24:00
休)火
入場無料、要予約
パリでの入場予約、及び、日本からの
バーチャルツアーはこちらのリンクから。
www.fredexhibition.com

text: Masae Takata(Paris Office)

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
パリとバレエとオペラ座と
世界は愉快

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories