今月のいいもの発見 フレッドのポジティブマインドなハイジュエリー。
Jewelry 2022.12.13
編集者たちが毎月逸品を語る連載。今月は、フレッドのジュエリー「フォース10」について。
歴史あるジュエリーメゾンはパリに数々あるけれど、フレッドには独特のイメージを感じていた。ラ・ペ通りの本店は、ラグジュアリー感が強いヴァンドーム広場とは反対のオペラ座側にあり、明るく入りやすい店構え。代表作はユニセックスでインターチェンジブルな「フォース10」。メゾン名も創業者フレッド・サミュエルのファーストネームで、老舗ジュエラーらしからぬネーミングだ。
9月末、そんなフレッドの新作のお披露目が行われた。会場はシックな住宅街の集合住宅の一室に用意された「ムッシュ フレッドのアパルトマン」だ。天井にレリーフのある真っ白なリビングルームに明るい光が差し込む、パリらしい空間。ゆったりしたソファに腰を下ろすと、目の前の棚には、創業者が愛した海とヨットにちなんだオブジェ、モノクロの家族写真やスナップ写真が飾られていて、まるで創業者の住まいを訪ねたような気分になる。
フレッドはアルザスのジュエラーの家に生まれ、アルゼンチンで育ち、パリで1936年に創業した。写真は1955年頃のもの。中央は創業者のフレッド・サミュエル。長男アンリ、孫娘のヴァレリー・サミュエルとともに。
1951年の広告。戦後、女性たちはジュエリーを再び身に纏う。イラストは3連のパールネックレス。フレッドはうっすらとピンク色の真珠を好み、それは「フレッドの色」とも呼ばれた。©Maurice Van Moppès All rights reserved
---fadeinpager---
主役は、メゾンのアイコニックなデザインとコードを再解釈し、創業者の内面の光にオマージュを捧げた「ムッシュ フレッド インナーライト」。黒い手袋をはめた担当者が、ネックレスのメインストーンがブローチになったり、ひとつの指輪が3通りに姿を変えたりする様子を実演しながら解説する。鍵のかかったガラスケースとは無縁のプレゼンテーションが、ジュエリーとの距離を縮めてくれる。「意外性に挑もう」「愛を語ろう」「幸運を生み出そう」――ルーペを手に取ると、小さなジュエリーにも創業者のポジティブなマントラが刻まれているのがわかる。アーティスティックディレクターのヴァレリー・サミュエルは、実は創業者の孫娘。このコレクションはメゾンのアーカイブを紐解き、家族の物語を再発見した彼女が、祖父に捧げたオマージュなのだ。どのピースにも物語があり、創業者の先見性と大胆さ、前向きで温かなパーソナリティが伝わってくる。
70年代にメゾンが購入した100カラット超のイエローダイヤモンド「ソレイユドール(ゴールドの太陽)」にちなんだ逸品。イエローとホワイトのゴールドとダイヤモンドを交互に配し、海に沈む夕日の美しさを表現。11カラットのイエローダイヤを囲むペンダント部分は取り外してブローチにも。「ラディアントエナジー」ネックレス¥118,880,000(予定価格)/フレッド(フレッド カスタマーサービス)
1966年にセーリングのケーブルとシャックルの組み合わせから生まれたフレッドの代表作。ダイヤモンドのパヴェに特別にカットしたアクアマリンを重ね、サファイアをあしらったバックル。センターストーンのダイヤモンドは「フレッド ヒーロー カット」。船の帆からインスピレーションを受けたフレッド独自のカッティング。32のファセットが輝きを放つ。「フォース 10」ブレスレット¥131,450,000(予定価格)/フレッド(フレッド カスタマーサービス)
フレッドのアーカイブに残された最大の遺産、それは、創業者の人柄そのものだったのかもしれない。フレッド独特の身近なイメージの謎が解けたような気がした。(編集MT)
ハートモチーフが幾重にも。ハート型カットのピンクトルマリンはフレッドの象徴のひとつでもある。
*「フィガロジャポン」2023年1月号より抜粋