素晴らしきジュエリーと美しき鳥をめぐる物語。
Jewelry 2023.01.23
ヴァン クリーフ&アーペルの支援により誕生した「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」が、東京大学総合研究博物館との共催で『極楽鳥』展をインターメディアテクで開催。夜の鳥、朝の鳥、昼の鳥、ファンタジーの鳥と4テーマで構成される展覧会の情報を、いち早くお届け。
パリで2019年に開催され、反響を呼んだエキシビション『Birds in Paradise』。日本への巡回を待ち望んでいたジュエリーラバーはもちろん、すでに見た人にとっても今回の特別展示は必見。東京大学総合研究博物館と「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」の共催によりインターメディアテクで開催する展示は、新しい視点でキュレーションし、より好奇心をそそる内容になっている。
アートとサイエンスが出合う、美と知のワンダーランド。
丸の内のインターメディアテクで開催される『極楽鳥』展は、鳥をモチーフとしたアンティークや現代のジュエリー約100点を、貴重な鳥の標本や写生などとともに展示するという、これまでにない試み。ジュエリーという煌めく光のアートと、自然を研究対象としたサイエンスが出合う、とびきりユニークな内容に期待が高まる。
「本展のタイトルにもなった極楽鳥の標本も並びます。長い飾り羽を持ったとても美しい鳥です」と語ってくれたのは、インターメディアテクの研究部門で動物行動学を専門とする、松原始特任准教授。このミュージアムではさまざまな分野を専門とする研究者がキュレーションを行っているのだ。
「そもそも鳥はなぜこんなにも美しいのか。その理由をごく簡単に言うと、まず鳥同士がお互いに同種だとわかるようにするため。そして異性の気を引くためなのです。極楽鳥は飾り羽を広げ、木の上でダンスして求愛します。こんなに派手で目立っているけれど、天敵にやられずに生きている強い自分をアピールしているわけで、進化のメカニズムのひとつなんですね」
鳥にも美しさや派手さがわかるとは驚き! 今回はケツァールなど、世界でいちばん美しいといわれる鳥たちをモチーフにしたジュエリーも登場。彼らの華やかな羽は、ファッションの歴史においても重要なアイテムとなってきたそう。
Night
暗闇で瞳を輝かせる夜行性の鳥が大集合。
展示は「夜の鳥」ゾーンからスタート。目を見開いた、夜間に活動する鳥たちが登場する。躍動感あるスケッチや剝製に注目。
19世紀の画家オーデュボンが原寸大で描いた「アメリカキンメフクロウ」の姿。
「ジョン・ジェームス・ラフォレスト・オーデュボン」『アメリカ産鳥類図譜』(複製)より「アメリカキンメフクロウ」1830-1839年/私家版/ロンドン(英国)/紙に多彩色石版/東京大学総合研究博物館研究部所蔵 ©︎UMUT
フクロウ「コノハズク」はブッキョッコーと鳴く。
「コノハズク」1973年/剝製標本/(旧)老田野鳥館旧蔵/東京大学総合研究博物館研究部所蔵©︎UMUT
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パラダイスからやってきた? 夢見るように艶やかな鳥。
「視覚的な美しさだけでなく、鳴き声も魅力的ですよね」と、東京大学総合研究博物館特任研究員で美学・美術史学が専門の大澤啓。
「会場ではさえずりが聞こえる演出あります。鳥は音楽家たちにインスピレーションを与える存在でもありました。神話や伝承の世界では、鳥は天上と地上の中間にいて、天の声を届けたり、予言を与えたりもします。まさにパラダイスからの使いだったのです」
この特別展示を見ていると、鳥に接したジュエリーの作り手がどんなことを空想したのか、また作り手のイマジネーションを刺激する鳥とはどんな鳥だったのかがわかってくる。そして、人がどれほどイマジネーションを膨らませても、大いなる自然は時に空想を超えてくるということも。
Morning
いつの時代もクジャクたちはジュエラーのインスピレーション源。
「朝の鳥」のゾーンにはクジャクが勢揃い。リアルなジュエリーもあり、大胆にデフォルメしたものもあり、標本と見比べるとおもしろい。
皇帝ナポレオン3世の宮廷で人気を博したギュスターヴ・ボーグラン作「孔雀のブローチ」
「ギュスターヴ・ボーグラン、孔雀のブローチ」1865年頃/ゴールド、パール、ダイヤモンド、サファイア、ルビー、エメラルド、金/個人蔵 ©︎Benjamin Chelly
フィリピン、パラワン島固有のちょっと小さめな「パラワンコクジャク」
「パラワンコクジャク」年代未詳/剝製標本/山階鳥類研究所所蔵 ©︎UMUT
シャルル・メレリオ作「孔雀のブローチ」は、羽の色彩をエナメル(七宝)の技で表現。
「シャルル・メレリオ、孔雀のブローチ」1910年頃/ダイヤモンド、エナメル/個人蔵 ©︎Benjamin Chelly
色彩豊かなことから、生きた宝石にもたとえられる鳥たち。でも単なるたとえではなくて、本当に宝石のような種類もいるという。
「羽を電子顕微鏡で拡大すると、薄い膜や微粒子がたくさん重なっています。青い鳥の場合、そこに射し込んだ光が散乱して特定の波長を作り出すので、青く見えるのです」(松原准教授)。
構造色と呼ばれるこの現象は、オパールや真珠も同じ。オパールに多彩な色が揺らめいて見えるのは、構造色のせいなのだというから意外!
Noon
宝石と鳥の羽の意外な共通性に驚く。
「昼の鳥」ゾーンでは、色彩の豊かさに感動する。
20世紀を代表する偉大なデザイナーのひとり、ピエール・ステルレは、鳥モチーフの作品を数々残した。このブローチは繊細な彫金が見事。
「ピエール・ステルレ、鳥のブローチ」イエローゴールド、プラチナ、ダイヤモンド/個人蔵 ©Benjamin Chelly
世界一美しいといわれる鳥、ケツァールをカラフルな宝石で描き出したモーブッサン作のブローチ。
「モーブッサン、ケツァールのブローチ」1960年代/イエローゴールドに彫金細工、サファイア、サファイアに彫刻、エメラルドに彫刻、ターコイズ、ダイヤモンド、ルビー、ルビーに彫刻/個人蔵 ©Benjamin Chelly
「アカフタオハチドリ」の輝く色彩はオパールと同じ構造色によるもの。角度により色が変わって見える。
「アカフタオハチドリ」年代未詳/剝製標本/山階鳥類研究所所蔵 ©︎UMUT
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大切な教育の機会として、展覧会にも力を注ぐレコール。
鳥モチーフのジュエリーと、インスピレーション源となった鳥の「実物」標本が並ぶ『極楽鳥』展。レコールの学長、マリー・ヴァラネ= デロムは、こんなコメントを寄せてくれた。
「開校から10年目を迎えたレコールは、初期に7つだったコースがいまでは36に増えました。実技だけでなく、オンラインの授業や子ども向けのワークショップなど、ジュエリーと宝飾芸術の世界に繋がるいくつもの扉を開いています。エキシビションもレコールの大切な活動のひとつ。蓄積された知識を幅広い方々に教える方法として、とても重要なのです」
インターメディアテクという場ならではの幻想的な空間で体験する『極楽鳥』展。ジュエリーの新しい魅力が、この特別展示から見えてくるはず。
Fantasy
空想の翼を広げる夢の生き物たち。
現実には存在しない「ファンタジーの鳥」のゾーンでは、ジュエラーたちの想像力の豊かさにため息。
構造色によるブルーの光沢が鮮やかな「ズグロヤイロチョウ剝製」
「ズグロヤイロチョウ剝製」年代未詳/剝製標本/老田野鳥館旧蔵/東京大学総合研究博物館所蔵 ©︎UMUT
飛ぶ鳥の一瞬を様式化して捉えたピエール・ステルレのブローチ。ボディの青い宝石はアズライト。
「ピエール・ステルレ、鳥のブローチ」年代未詳/プラチナ、イエローゴールド、ダイヤモンド、アズライト/個人蔵 ©︎ Benjamin Chelly
本物の羽根をジュエリーの一部として組み込んだ20世紀初頭のブローチ。人の手による美と自然の美が一体化。
「ヴァン クリーフ&アーペル、鳥のブローチ」1920年代/ダイヤモンド、エメラルド、オニキス、鳥の羽、プラチナ/個人蔵 ©Benjamin Chelly
インターメディアテク
開館十周年記念特別展示『極楽鳥』
旧東京中央郵便局舎をリノベーションしたKITTE丸の内の中にあるインターメディアテクにて、開館十周年記念特別展示『極楽鳥』が開催される。古い什器を残したレトロ感満点の内装は、今回の特別展示に合わせた仕様で客を迎える。
会期:開催中〜5/7(日)
会場: インターメディアテク3階
東京都千代田区丸の内2-7-2 KITTE2・3F
営)11:00〜18:00 ※金・土〜20:00
休)月(祝日の場合は翌日休館)、2/20〜27、その他、施設に準ずる
入場無料
主催: 東京大学総合研究博物館+レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校
協力: 山階鳥類研究所
協賛: ヴァン クリーフ&アーペル
企画: 東京大学総合研究博物館インターメディアテク寄付研究部門+東京大学総合研究博物館国際デザイン学寄付研究部門
通称で極楽鳥と呼ばれるのがこのオオフウチョウ。白い飾り羽はかつてファッションアイテムとしても大人気だった。
「オオフウチョウ剝製」年代未詳/剝製標本/東京大学総合研究博物館所蔵
重厚感のあるインテリアと展示物により、街の喧騒が忘れられるファンタジックな異空間に。
photography: Aya Kawachi
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レコールの多面的な講座で、ジュエリーの世界を体感。
写真は仏・パリにある、レコール 本校の講座の様子。(L’École, School of Jewelry Arts / 31, rue Danielle Casanova 75001 33-(0)-70-70-38-40)「デザインから模型制作まで」より。プロの職人と同様の作業台で行われる模型制作。 photography: Olivier Bardina
「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」は、ヴァン クリーフ&アーペルの支援で生まれた、ジュエリーを多角的に学ぶユニークな学校。長い間、一般には閉ざされていた宝飾芸術の世界の扉を、ジュエリーラバーに向けて開放しようという願いから、2012年に設立された。レコールはこれまでにも、22年に来日したエキシビション『メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション』や、今回東京で開催する特別展示『極楽鳥』など、歴史と文化が交錯するユニークな視点による宝飾展を世に送り出してきた。とはいえ、何といってもその神髄は、多彩な講座プログラムだ。専門家とジュエリー職人による豪華講師陣が教鞭をとり、歴史、宝石学、ジュエリー制作の実技の3本柱による講座をア・ラ・カルトで提案。パリ、そして香港の常設校のほか、10年前からは東京やニューヨークをはじめ、世界各地で特別講座も行ってきたレコールは、これまでに約5万人の生徒にジュエリーの魅力と秘密を語ってきた。
ジュエリーを生む最初のステップはデザイン。デザイン画をトレースし、グワッシュで小さな宝石の輝きを描くテクニックも学ぶ。photography: Olivier Bardina
「原石を知る」では、ダイヤモンドのランク付けも解説。photography: Olivier Bardina
19年に東京で行われた第2回開校から4年ぶりの今春、レコールの特別講座が東京に帰ってくる。エンゲージリングの歴史やルビーの宝石学など日本初登場のコースも盛りだくさん。どの講座も、これまで当たり前に見ていたジュエリーの多様なファセットに目を開かせてくれる。護符としての宝飾品に目を向けた「ジュエリーの力」、古今東西の文化を比較する「ジュエリーで世界一周」など、さまざまな角度からアプローチする芸術史のプログラムは、知識欲を刺激する充実の講義。宝石学では、ダイヤモンド、ルビーやカラーストーンなどそれぞれに4時間が割かれる。地球の営みから産まれた原石が人の手によって磨かれ、その色や輝きを最大限に演出するためにどうカットされるのか。実際に石を手にとって色や純度を観察することで、なぜ貴石が人々の心を捉えるのかを体感する。圧巻はジュエリー制作のサヴォワールフェール。グワッシュによるデザイン画、錫を糸鋸でカットして石をあしらう模型作り、石のセッティングなどを職人たちの指導で体験。緻密な作業に没頭する時間は、日常を忘れて静謐な気分へと誘うようだ。
「原石を知る」より。色や不純物、カットの質を比べて同じ色石の優劣を観察。photography: Olivier Bardina
模型制作の実技では、錫をカットし成形し、石をあしらってデザインを立体化。photography: Olivier Bardina
石の不思議を知り、クリエイションと職人技に触れ、人と宝石が紡いできた物語に耳を傾ける贅沢な時間。それは、大地の力と人の手が作り上げる美の無限の可能性を垣間見せてくれる。
会期: 2月24日(金)~3月10日(金)
会場: 京都芸術大学 外苑キャンパス 東京都港区北青山1-7-15 2F
※特別講座の予約はサイトにて受付中。
www.lecolevancleefarpels.com/jp/ja
ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク
0120-10-1906(フリーダイヤル)
text: Keiko Homma Masae, Takata (Paris Office)