ブシュロン、女王陛下のブローチに着想を得た新作ハイジュエリー。
Jewelry 2023.02.01
世界中の人々に素晴らしい笑顔の思い出を残し、昨年この世を去った英国のエリザベス女王。在位70年間の間、何度も着用したブローチがある。1937年に叔父のケント公がロンドンのブシュロンで購入し、その後英国王室所有のジュエリーとなったアクアマリンとダイヤモンドのダブルクリップのブローチで、女王が18歳の誕生日にファミリーから贈られたのだ。女王が身に着けた多数のジュエリーの中でも、最も思いの込もった一点がこのダブルクリップであることを想像するのは難くない。
ブシュロンのアーカイブより。エリザベス女王が愛用したアールデコ・スタイルのダブルクリップはオーバルカットとバゲットカットのベビーブルーのアクアマリン、そしてダイヤモンドという組み合わせだ。photo:Boucheron
2012年6月5日の「ダイヤモンドジュビリー(エリザベス女王の即位60周年を祝う式典)」や、2020年5月8日のヨーロッパ戦勝記念の演説……数々の重要な場面でダブルクリップは女王の胸元で淡いブルーの輝きを放っていた。そして英国王室が発表した女王最後のオフィシャルポートレートにも、女王おなじみの3連のパールネックレスとともにこのダブルクリップを左胸に見ることができる。なお女王はクリップをダブルで身に纏うことがほとんどだったが、一度だけふたつを離して左右に着けたことがあったそうだ。
ブシュロンでは毎年1月に発表するハイジュエリーコレクションはメゾンの歴史、アーカイブをインスピレーションとしている。2023年1月発表のコレクションは、クリエイティブディレクターのクレール・ショワンヌがこのダブルクリップにひと目惚れしたことが出発点となった。
「3年前、初めてブシュロンのアーカイブ資料を見た時、アールデコ・スタイルのダブルクリップのブローチに心を奪われました。はっきりと対称的なフォルムと幾何学的なデザインにアクアマリンの淡いブルーの色合いが見事に調和するブローチに魅了されたのです。そして、エリザベス女王が治世の重要な局面で身に着け、センチメンタルな想いが込められたこのジュエリーに感動しました」
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Like a Queen カラー、コンバーティブル、ジェンダーレスのハイジュエリー。
「Like a Queen」プレス発表より。アールデコ・スタイルのカラフルなジュエリーが集合した。photo:Mariko Omura
アールデコのエレガンスを表現しつつ、女王のダブルクリップのようにモチーフをダブルにもシングルにも着用でき、そしてジェンダーレスのジュエリーを、というクレールの意図のもと合計18点のハイジュエリーコレクションが誕生した。ブローチのモチーフをコレクションに取り入れることを決めてからは、そのデザインに没頭したと彼女は振り返る。18点は8セットに分かれ、ヒプノティックブルー、メガピンクなどセットそれぞれに色の名前がつけられている。それは女王の装いもクレールのインスピレーションのひとつとなったことからだ。女王の色鮮やかな装いは、素敵な笑顔とともに誰もの思い出に刻まれている。以下、セットごとにクレールの言葉とともに紹介しよう。ひとつのアーカイブピースから豊かな創造性を駆使して現代的で魅惑あふれるハイジュエリーコレクションを構築したクレールと、彼女のクリエイテイビティを巧みな技で支えた職人たちに拍手を送りたくなる素晴らしいコレクションだ。
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ヒプノティックブルー
「このコレクション中、オリジナルのダブルクリップブローチと同様にアクアマリンとダイヤモンドを組み合わせた唯一のセットです。もっとも石は同じですが、モチーフについては新たなデザイン要素を加えています。またカフブレスレットにはブルーのラッカーをプラスし、またアクアマリンはバゲットカットの部分はそのままですが、サイドにはカボションカットのアクアマリンをセットしました。これによってモダンな印象が得られます。指を覆う垂直フォルムの指輪は、上下のモチーフを外して中央のスリランカ産サファイアだけのソリテールとしてもつけられるんですよ」
左・中: ブレスレット。アクアマリンはバゲットカット、カボションカット、ファンシーシェイプで。ラウンドカットのダイヤモンド340石は合計で11.48カラット。ブレスレットの本体にはブルーラッカーが施されている。 右: リング。中央はクッションカットのサファイア(6カラット)。これだけのソリテールリングとしても着けられる。photo:(中)Mariko Omura
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フロスティ ホワイト
ネックレス、指輪、イヤリングからなるセット、といっても、ネックレスの使い方だけでも6通りあり、イヤリングもペンダント部分を外してスタッドイヤリングのようにも着けられる。メゾンの伝統を継承し、クレールは複数の着用の仕方ができるマルチウエアのジュエリーをこのコレクションで多数クリエイトしたのだ。
「これはロッククリスタルとダイヤモンドの組み合わせによる白いセット。ネックレスは一部を外してチェーンクリップ的に使え、またクリップだけをブローチとしても着けられます。横長のフォルムの指輪、これも左右のモチーフを外してソリテール使いができます。さらにイヤリングもペンダント部分を外してスタッドイヤリングのように……」
6通りの着け方が楽しめるダイヤモンドとロッククリスタルのネックレス。フルタイプのネックレス(左)の上部を外して、チェーンクリップ(中)として。またクリップ(右)だけをダブル、あるいはふたつを離してブローチに。ダイヤモンドはラウンドカット、バゲットカット、スクエアカット。ロッククリスタルはすべてラウンドカット。このコレクション中、最も高価なのがこのネックレスで、予定価格は税込で¥150,480,000。
左: ペンダント・イヤリング。 中: イヤリングのフリンジを外し、スタッドイヤリングに。 右: ボツワナ産のエメラルドカットのダイヤモンド(69.01カラット)を配したリング。
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グリーンガーデン
「エメラルドとダイヤモンドのセットには指輪とイヤリングがあります。指輪はオリジナル・ブローチのモチーフにグリーン・ラッカーで石の色を際立たせるようにしました。この指輪もエメラルドのソリテールとして使え、イヤリングも下がっているエメラルドを外してスタッドイヤリングとして着けることができます」
左: ブローチのモチーフの中央にザンビア産クッションカットの見事なエメラルド(6.25カラット)を据えた指輪。 中: リングが中央のエメラルドだけのソリテールとしても着けられる。 右: イヤリング。ペアシェイプのエメラルドを外して、スタッドイヤリングとしても耳に飾れる。
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ローリングレッド
「モザンビーク産のルビーとダイヤモンドの組み合わせによるローリングレッドはオリジナルブローチのモチーフを再解釈した流れるようなデザイン、現代的に縦長のシルエットが特徴です。ネックレスのペンダント部分はブローチとして、またネックレスもペンダントなしでチョーカーとして使えるようになっています」
このセットにはイヤリングとリングも。先に紹介したセットと同じように、どちらもマルチな着用法で遊べる。
左: オーバルカットのルビー17石(計19.04カラット)、ラウンドカットダイヤモンド、スクエアカットダイヤモンド、ファンシーカットダイヤモンドによるネックレス。 中: ネックレスのペンダント部分だけをブローチとして着用できる。そしてペンダントを外したネックレスはチョーカー的に着けられる。 右: イヤリングのルビーもネックレスと同じくオーバルカットだが、指輪にはクッションカットのエメラルドが使われている。
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レモンスライス
「このレモンスライスは女王のオリジナルのブローチのモチーフをクラスプに!というアイデアから生まれたセット。バゲットカットとラウンドカットのダイヤモンドのクラスプは、レザーストラップを付けてチョーカーやブレスレットとして楽しめるものです。ブシュロンの時計にも採用されている、インターチェンジャブルストラップと同様に、ストラップの付け替えはとても簡単。クラスプはふたつセットでバレッタとして、またセットあるいはセパレートでブローチとしても使えます」
このようにバレッタやブローチなどと用途が異なる使用のためには、付け替え用のエレメントが別途に用意されている。これはコレクションの全セットに共通だ。
左: ネックレス。中央のダイヤモンドのクラスプはバレッタまたはブローチとしても着けられる。 右: 驚くほど簡単にクラスプを着脱できるシステムのレザーストラップ。全部で6色あり。
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ムーンホワイト
「女王のダブルクリップのモチーフを、パールの3連ネックレスのクラスプに用いています。ネックレスから外して、クラスプだけをダブルで、あるいはふたつに分けてブローチとして着用が可能です。パールを下げたイヤリングはパールなしでスタッドイヤリングとしても。オリジナルのダブルクリップが分けて使えることにインスパイアされて、指輪はモチーフを半分ずつに分けて左右の指を装うものにしました。これにはダイヤモンドとオーストラリア産のマザー・オブ・パールを使っています」
左: ブローチのモチーフをダイヤモンドで描いたクラスプにアコヤパール131石(653.20カラット)を繋げた3連のネックレス。 右: クラスプだけをブローチやヘアアクセサリーとしても使用できる。
左: ダブルクリップのモチーフをふたつに分けて左右の指輪に。 中: ペンダント部分を外してスタッドタイプにもなるイヤリング。 右: アコヤパールを外しても使えるイヤリング。
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メガピンク
「エリザベス女王の装いにおいて、最も強く印象に残っているのはピンクです」と語るクレール。このセットのブローチでは、ブラジル産のトルマリンでピンクを表現した。ボルドー・ラッカーによって石のピンク色がより強調されている。ブローチはセットで着けても、ふたつに分けて使っても。
左: メガピンクは ダブルクリップのみ。 中: バゲットカットとカボションカットのピンクトルマリンがダイヤモンドとモチーフを描く。 右: 使い方は写真のようにダブルであるいはシングルで。ブローチの着ける向きに規則はなく、自由に遊べる。
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カラーブロック
「ブルーサファイア、ピンクサファイア、イエローサファイア。3色の小さなクリップはセットとなります。モチーフはオリジナルブローチと全く同じ、3つ一緒にジャケットに着けたり、イヤリングとしても着用できます。クリップとして使う時は、ピアスの耳に着けるピンは折り畳んで、というシステムなんですよ」と、クレールは語った。
小さなボックスにセットされて販売される3点のクリップ。サファイアのカットはほかのクリップ同様、オーバルカットとカボションカットだ。
editing: Mariko Omura