進化した「タンク フランセーズ」、ジェンダーレスでコンテンポラリーに。

Jewelry 2023.02.22

「タンク フランセーズ」

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リニューアルされた「タンク フランセーズ」。フレンチ・エレガンスが輝く洗練された逸品だ。photos CHARLES NEGRE©️Cartier

カルティエで時計の「タンク」が誕生したのは1917年。三代目当主、ルイ・カルティエの時代である。タンクという名前は、第一次大戦で活躍し、平和を欧州にもたらした戦車(タンク)が時計のデザインのインスピレーションとなっていることからだという。その後、時代の流れにあわせて複数のヴァージョンが生まれた。1996年に「タンク フランセーズ」が登場。これまで時計にはレザー・ストラップというのが当たり前だったところ、「タンク フランセーズ」は時計のケースとステンレスのブレスレットが一体化したデザインという斬新さで人々の心を奪い……。カルティエでタイムピースのクリエイションディレクターであるマリー=ロール・セレードは「タンク フランセーズは大成功しました。時計を超えて、デザインのオブジェ、それもカルトなオブジェという存在になったのです」と語る。その理由は時計界にそれまで存在しなかったブレスレットといえる時計だったからだ。それで人々は時計をつけるというより、ブレスレットとして「タンク フランセーズ」を身につけたという。
「1996年にタンク フランセーズを見た時に、変わったデザインだわ、と思ったことを覚えています。とても革新的で独特な時計でした」

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リニューアルの背景

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カルティエのタイムピースにおいて女性向け、男性向けという区別はないとマリー=ロール・セレードは語り、左の女性がつけているMサイズは男性にも好まれるだろうと。右の男性がつけているのはLサイズだ。
Photos 左: CHARLES NEGRE©️Cartier 右: CHARLES NEGRE, Comité Cocteau/2022, ProLitteris, Zurich©️Cartier

2023年1月、その「タンク フランセーズ」がリニューアルされた。カルティエの時計を語る時、例によくあげられるのが「タンク フランセーズ」である。それほどの名品、熱狂的支持者を持つ時計をリニューアルすることに、マリー=ロールはクリエーションに携わる人間として恐れを感じたそうだ。
「なぜリニューアルを決めたかということをお話ししましょう。時の経過とともに、いろいろなことが起きるものです。カルティエの時計というのはジャンルを超えて、すべての人に向けてのものでなければなりません。でも、タンク フランセーズは時の経過とともに、その面を失ってしまってしまったのです。それで見直す必要がありました。そしてまた、1つの時代にあまりにも強い印象を刻んだゆえに、今の時代に合わせた再解釈をしてより強いものにしたい、という望みからです。」
タンク フランセーズの価値を復活させるところから始めたそうだ。その価値とは大胆さ、力強さ。時計をインスパイアしたタンク(戦車)から来ている。
「自分たちの追求をより先へと進め、美しさと工学の完全なる融合が見られる時計となりました。ブレスレットに注目してください。リニューアル前のブレスレットも滑らかでしたけど、輪を構成する複数のエレメントの連結が感じられるものでした。新しいブレスレットはエレメントの連結の方法によって、まるで戦車の1つながりの車輪のように曲線的に動きます。まるでセカンドスキンのように手首に沿い、つけ心地がよりしなやかになりました。ぜひ、時計を横から見てみてください。技術的に大変複雑でしたけれど、希望通りのものができあがったのです」

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ステンレスタイプの「タンク フランセーズ」。左: Sサイズ(25.7x21.2mm、厚さ:6.8mm)税込:¥495,000、中: Mサイズ(32x27mm、厚さ:7.1mm)税込:¥599,500、左: Lサイズ(36.7x30.5mm、厚さ:10.1mm)税込:¥775,500  photos©️Cartier

彼女はクリエイターであるが、技術面についても完全にマスターしている必要があると考えている。技術面に精通しているからこそ、自分が欲しいものに至れるのだと。今回のリニューアルを語るにあたり、彼女はビジュアル面にも目をむけさせる。
「カルティエは彫刻のメゾンともいえます。ボリュームについて仕事をしていますから。タンク フランセーズをご覧ください。装飾がなく大変ピュアですね。時計というのは複数の要素を集めて作り上げるものですが、まるで彫刻家がひとつの塊の石から作り出した作品のように、ピュアでラディカルなフォルムの時計となっています」
「タンク フランセーズ」のアイコニックな長方形のフォルムを尊重すべく、リューズはおなじみのブルーの石がわずかに顔をのぞかせる程度にケースに内包させた。また文字盤もさらに美しさを増している。以前ベースはクリーム色だったがリニューアルによりシルバー味を帯びて奥行きを感じさせ、そして時を示すローマ数字は黒からクローム的な色味へと。しかもレリーフでそれらは表現されている。文字にするとちょっとしたことに感じるかもしれないが、これによってさらなる美しさ、力強さがもたらされたのだ。時計のビジュアル面でのリニューアルは、これに留まらない。「タンク フランセーズ」にはSMLの3サイズがあるが、サイズによってブレスレットの仕上げが異なるのだ。例えばSはプレシャス感を与えたいということから両サイドがポリッシュされ、Mサイズはブラシの刷毛目が感じられるような仕上げで……。なおLサイズは日付入りだが、その入り方もローマ数字のIIIが占める位置にとけこませる、といったデザイン。目を引きつけがちな日付が全体のバランスを崩すことなく、それでいて見やすいようにという意図が見事に実現されている。時計はステンレスとイエローゴールドの2タイプがあり、「イエローゴールドの時計がいかにコンテンポラリーな時計でありえるか。そのために全面を磨き上げてキラキラ光らせず、ブラシの刷毛目が残るような磨きの仕上げにしました。ピュアで洗練されて……デイリーユーズへの配慮ですね」

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イエローゴールドの「タンク フランセーズ」。左: Mサイズ(MM、32x27mm、厚さ:7.1mm)税込:¥3,471,600、右: Sサイズ(SM、25.7x21.2mm、厚さ:6.8mm)税込:¥2,983,200 。なお「タンク フランセーズ」ではSサイズの10時に、MとLサイズの7時にCartierと入っている。Photos 左: CHARLES NEGRE©️Cartier、右: ©️Cartier

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イエローゴールとダイヤモンドの「タンク フランセーズ」は、リューズにブリリアントカットダイヤモンド。左: Mサイズ(32x27mm、厚さ:7.1mm )税込:¥4,382,400、右: Sサイズ(25.7x21.2mm、厚さ:6.8mm)、税込:¥3,933,600。photos 左: ©️Cartier、右: CHARLES NEGRE©️Cartier

「タンク フランセーズ」のこの初のリニューアルに際して、時計のボリューム違いを70種作って検討したそうだ。タイムピースのクリエイティブ・ディレクターとして彼女には2つのミッションがある。「1つが今回のようなアイコンの再解釈。これは誰もが知っている時計についての仕事なので、要求されるものが高く、とても難しい。DNAを裏切らず、説得力があり、かつ新しくて……ここに至れるかどうかというのは強烈なプレッシャーなのです。カルティエの品を私は知り尽くしていて、直感的に強く感じるものがあります。これを信じることが最も大切なのかもしれません。直感を信じ、勇気を持って進める。このリニューアルについては、前とほぼ同じような時計を出すという、もっとシンプルな方法もあったかもしれません。そのほうが安全ともいえますね。でも私たちは思い切ったリニューアルに挑戦したのです。私のミッションのもう1つは新しい時計のクリエーション、つまりメゾンのヘリテージにコンテンポラリーな方法でオマージュを捧げる仕事です。メゾンの遺産は死した過去のものではなく生きていて、こうして豊かにされていくのです。装飾的でもなく、一過性のものでもなく、永続されてゆく時計を生み出す……私たちの仕事は必ずデッサンから始めています。それがカルティエ的か否かの判断は、一本の線のように描かれれば、これがカルティエ!といえるのです」

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「タンク フランセーズ」のリニューアルという大任を見事に果たしたカルティエ ウォッチ&ジュエリー クリエイティブ・ディレクターのマリー=ロール・セレード。

今の世の中、時間を知るために時計を求める人は減っている。それでも時計を人々が買うのは、信じられないほど美しいアクセサリーとしてである、と語るマリー=ロール。彼女も時計をスタイルを作るブレスレットとしてつけている。時間すら合わせていない。それはクリエイティブな仕事において技術的な拘束より、時間の拘束のほうがはるかに望ましくない、という理由からだ。タイムピースに加え、彼女は最近ジュエリー部門のクリエイティブ・ディレクターという肩書きも増え、多忙である。
「カルティエは時計商である以前にまずは宝石商です。時計についても、宝石商として仕事をしています。メゾンのDNA を否定してはならないのです。さきほど語ったように彫刻家の仕事、というのはここに通じることなのですね。タイムピースとジュエリーの2つの分野について仕事をするのは、私にはとてもスムーズなことなのです」

 

カルティエ公式サイト

 

editing:Mariko Omura

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