野生の自然が煌めく、カルティエのハイジュエリー「ナチュール ソヴァージュ」第3章。
Jewelry 2025.03.19
カルティエのハイジュエリーの新作「Nature Sauvage(ナチュール ソヴァージュ)第3章」が、1月にパリで発表された。メゾンの創業以来、大きなインスピレーション源となっている自然界がテーマである。人間の手が介入していない未知の世界へと導いてくれるコレクション。地上の動物、植物、海の生き物......。自然界の生物の強い生命がカルティエの創造性によってジュエリーに姿を変えて永遠に息づくのだ。
新作を紹介する前に、ハイジュエリー クリエイティブディレクターのジャクリーヌ・カラチがナチュール ソヴァージュ第1章発表時に語った言葉を改めてここに。
「カルティエの動物の世界を新たな視線で見つめ、思いがけない組み合わせによってモダンな魅力を与えることで、驚きを生み出すことを試みました。表現力豊かなジュエラーとして、動物たちの個性と生命力、その佇まいに焦点を当てています。動物たちが名優のように、グラフィカルなデザインとボリュームの中で戯れ、錯覚を引き起こすような光景に溶け込む。それが『ナチュール ソヴァージュ』の精神です」

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第3章を彩る多彩な動植物の中から、まずは1914年にメゾンの歴史に姿を現し、世界を探検し続けているパンテールのジュエリーを。エメラルドの瞳が穏やかさをたたえ、ジャングルで樹木が作り上げる天蓋に横たわる姿が写実的に描かれている「Panthère Canopée(パンテール カノペ)」のネックレス。パンテールが26.51カラットの見事なスリランカ産サファイアを見守っているというデザインだ。ダイヤモンドのパヴェが煌めくジャングルの葉には幾何学的アクセントが施され、ネックレスに建築的な美しさと力強さを与えている。
ボリュームはあるものの、各パーツが微妙に動く作りなのでネックレスは実にしなやかに女性の首まわりにフィットする。カルティエのジュエリー職人の卓越した技術と才能から生まれた逸品といえる。「パンテール カノペ」の指輪は幾何学模様を描くダイヤモンドの中央にサファイアが君臨。パンテールの斑を思わせるオニキスがサイドにあしらわれて、とてもモダンだ。

このコレクションではパンテールがテーマのジュエリーがもうひとつクリエイトされた。「Panthères Versatiles(パンテール ヴェルサティル)」と"変化"を意味する名前が付けられているのは、ネックレスが変身するからだ。パンテール カノペの穏やかな瞳と異なり、こちらのパンテールヘッドはエメラルドの瞳が強いエネルギーが放っている。オニキスとダイヤモンドのネックレスの胴体の先端に輝くのは10.10カラットのザンビア産エメラルドで、そのパンテールヘッドと向かい合うように女性の首元を飾るチョーカータイプである。
photography:Hugo Julliot© Cartier
驚くべきことにこのネックレスは、もうひとつのパンテール・ヘッドを先端にあしらった2本目のネックレスを加えることによって、ショルダージュエリーに変身するのだ。その際、背中に垂れ下がるネックレスの先で10.10カラットのエメラルドが優美に揺れる。そして、このショルダージュエリーは"パンテール ヴェルサティル"の名前にふさわしく、手首に巻けばブレスレットに変身!

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ナチュール ソヴァージュ第3章には、ジャンヌ・トゥーサンがパンテールに次いで愛した動物であるトラを主人公にしたファインジュエリーも登場。
イエローゴールドのベースのボディにダイヤモンド、イエローダイヤモンド、オレンジダイヤモンド、ブラウンダイヤモンドが散りばめられ、そこに柔らかな毛並みを感じさせるペラージュセッティングでさまざまな向きに留められた平面のオニキスが斑点を描いている。彫刻的ボリュームのネックスのタイガーはエメラルドの瞳を鋭く輝かせ、足を一歩前に出し、いままさにこちらに向かってきそう。実にリアルな存在感を感じさせる表現が秀逸である。
このコレクションでは海の生き物にも目が向けられている。ウニがインスピレーション源となったのは「Echina(エシナ)」だ。ウニのフォルムに呼応するのはメロンカットのエメラルドで、縦溝の彫りがメゾンの1920年代のジュエリーを彷彿させる。エメラルドの中央にセットされた小さなコーラルのビーズはまさにウニの色彩である。ネックレスのベースとなっているのは無数のダイヤモンドが並ぶホワイトゴールドのオープンワークのレースで、その中央のセンターストーンから左右に広がるのは交互に配置されたエメラルドとサファイア。グリーンとブルーが揺らめく深海の光景のようなネックレスだ。「エシナ」にはイヤリングもあり、丸いペンダント部分を取り外して2つのブローチとしても使える。

「ナチュール ソヴァージュ」第3章が目を向けた鳥類は、メゾンの歴史でおなじみのカワセミだ。「Ispida(イスピダ)」のリングに自然主義的に表現されている。トルマリンとサファイアの組み合わせで、ここにはメゾンのシグネチャーのひとつである「ピーコックパターン」の配色が見られる。
植物界からは桜の花。「ホワイト ハナ」と命名されて蕾をさげたブローチに象られた。カルティエが護るサヴォワールフェールである宝石彫刻をつかさどるグリプティシャンがクォーツに5枚弁の花を彫り、花芯にイエローダイヤモンドを配したピュアで儚げなブローチだ。動植物の美しい個性と生命力がカルティエの創造性を刺激し、卓越したサヴォワールフェールによって生まれた表現力豊かなコレクション。「ナチュール ソヴァージュ」の宝飾品のひとつひとつが私たちを自然の旅へと導いてくれる。

editing: Mariko Omura