自然主義ジュエラーのショーメ、原点に戻ったハイジュエリーコレクション。
Jewelry 2025.08.18
ヴァンドーム広場12番地のショーメの館。その2階で7月に新作ハイジュエリーコレクション「JEWELS by NATURE(ジュエルズ バイ ネイチャー)」が発表された。会場に掲げられていたのは創業者マリ=エティエンヌ・ニトが書いた手紙で、その最後に彼はナチュラリストのジュエラーと署名している。常に自然は偉大なるインスピレーション源としているショーメだが、今回のコレクションは創業者によるメゾンのアイデンティティに忠実に、あるがままの自然の姿をハイジュエリーに託したのだ。これまでと違って自然界のモチーフではなく、気候変動や環境汚染などで絶滅の危機に瀕している動植物に敬意を表した詩的な54点のコレクション。メゾンが約250年に亘り、受け継ぎ守り続けてきたサヴォワールフェールによって自然を護りたいという意図が込められ、エバーラスティング(永遠)、エフェメラッル(儚さ)、リバイビング(再生)の三章で構成されている。コレクションの発表会場では蜂、蝶、トンボなどのジュエリーも植物とともに展示し、健全なエコシステムあっての自然であることを意識させていた。
花蜜と蜂のブローチ。7種の石の7匹の蜂。宝石の色によって、ボディはピンクゴールドまたはホワイトゴールド。
第1章 エバーラスティング(永遠)
この章は、永遠に再生を続ける不滅の植物にインスパイアされている。ワイルドローズ、オート&フィールドスター、クローバー&ファーン、バンブーなど、ありのままの自然の姿を表現。
ワイルドローズ
1922年にジョゼフ・ショーメが野バラの葉のティアラを製作して以来、メゾンのお気に入りのテーマがワイルドローズ。1年を通して咲き誇るワイルドローズが時の移り変わりとともに見せるあるがままの多様な姿を、中心にイエローダイヤモンドを据え、ダイヤモンドに5種のセッティングを用いて表現したネックレス。葉脈には透かし細工とミラーポリッシュが施され、そして曲線と反曲線で表現された葉がゴールドとダイヤモンドの輝きと相互に作用して、風に揺らめく表情豊かな姿を映し出している。
ダイヤモンドに施されたセッティングは、スノーブライトセッティング、スカラップスノーセッティング、フラットプロングセッティング、ビーズブライトセッティング、スカラップビーズセッティングの5種。
トランスフォーマブルなリング。中央のスクエアカットのイエローダイヤモンドは1粒リングとしても楽しめる。
オート&フィールドスター
オーツは何千年もの間栽培され、フィールドスターは土壌の中で数年も生きることができる種子を持つ。この2種の永続性に敬意を表したパリュールが誕生した。手作業によってブラッシュ加工されたイエローゴールドのリアルな麦の殻と、メゾンに受け継がれる卓越した技で磨き上げられたホワイトゴールドの花というふたつの色彩の対比が、風にたなびく優美な姿を表現している。
制作に約1300時間を要したネックレス。3つのクッションカットのイエローダイヤモンドは合計8.32ct。
左のイヤカフは上の部分が取り外せ、アシンメトリーなイヤリングとしても着けられる。
クローバー&ファーン
ショーメの象徴的なモチーフであるクローバーと太古の昔から茂るファーン(シダ)の対話から生まれたパリュール。1853年にジュール・フォッサンがナポレオン3世の皇后のために制作し、メゾンの永久的コレクションに収蔵されているダイヤモンドとグリーンエナメルのブローチがインスピレーション源だ。牧草地に可憐に広がるクローバーと森や林の下草として露とともに輝くファーン(シダ)という、どのような環境下でも育つ逞しい生命力が共存する魅惑的なネックレスである。
3つ葉、または4つ葉の自然のランダムなクローバーの姿を描くのはダイヤモンドとエメラルド。ファーンはベゼルセッティングとイリュージョンセッティングのダイヤモンドで。
リング。ペアシェイプのエメラルドは5.19ct。
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第2章 エフェメラル(儚さ)
第2章は儚い自然にオマージュを捧げている。花が咲き誇る期間が短いカーネーション、ソードリリー(グラジオラス)、スイートシュラブ......これらは限りない詩情に満ちた光景を描き出す。メゾンが守ることを大切に思うサヴォワールフェールのように、貴重だけれど危機に面している自然。それが繊細なパリュールをインスパイアするのだ。
カーネーション
自然のその瞬間的な姿をジュエリーで表現したいというショーメの願いに忠実に、ネックレスには蕾から花が咲くまでのカーネーションの姿がありのままに捉えられている。ジュエリーに奥行きを与えているのはメッシュ、フィルクトーといったメゾン特有の卓越した職人技だ。セイロンサファイアとダイヤモンドという、あえて自然には存在しない色相によって花が持つ優雅さの本質を、詩的な表現と現代的な手法で、より洗練された形に表現。センターの36.44ctのセイロンサファイアは取り外しができ、花の姿が刻々と変わる様子をトランスフォーマビリティなスタイルで楽しめる。
1905年、マダム・ドゥ・ヴェンデルが息子であるオデュエット・ユマンの結婚式のために依頼したウイエ(カーネーション)のティアラにインスパイアされたデザイン。
イヤリング。サファイアは8.78ctと8.80ct。
ソードリリー
咲き誇るソードリリー(グラジオラス)の花と絡み合う茎の姿をネックレスに。繊細なフィルクトーでセッティングされ、宙に浮いているかのような鮮かな赤のルビーがダイヤモンドの光の戯れを際立たせ、花の存在をより際立たせている。茎と葉、そして花それぞれのモチーフの組み合わせの層から生まれるボリュームの豊かさが見事だ。
約1500時間を要したネックレス。ランダムに咲く花と絡み合う茎と葉とい、あるがままの姿を表現するダイヤモンドのカッティングとセッティングの妙技。そこにはリアン(繋がり、絆)、宝石の色彩の芸術、Vシェイプといったメゾンのコードがちりばめられている。
ルビーの花芯をダイヤモンドの花弁が囲む、シークレットウォッチも。エナメルの文字盤に職人Anita Porcherによって施された彫刻模様が美しい。
スイートシュラブ
ダイヤモンドとスピネルやピンクサファイアがカラーグラデーションを描く花弁、そして中央の見事なピンクスピネルが花に宿る生命を感じさせるネックレス。メゾンと真珠の関係は1805年にマリ=エティエンヌ・ニトが、教皇ピウス7世のために制作したティアラに2990個の真珠をセッティングしたことから始まった。メゾンに受け継がれる真珠のジュエリーへの創造性と技術がここにも見られる。パリュールには花の間を飛ぶ蝶々の優美なブローチも。ダイヤモンドとレッドスピネルのカラーグラデーションの羽が繊細で美しい。
薔薇色に輝く淡水パールはネックレスとしても、花だけをブローチとしても楽しむことができる。
蝶々の顔はペアシェイプのダイヤモンド。立体的な羽は繊細なレースのよう。
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第3章 リバイビング(再生)
マグノリア、アイリス、ダリア、スイレンという皇后ジョゼフィーヌが愛した4種の植物が再生する自然を第3章で祝福する。これらの植物は世界の遠く彼方に姿を現したり、季節を超えて花を咲かせたり。シジュウカラとトンボは高く飛び立つさまや休息するさまが捉えられ、ジュエリーに姿を変えている。
マグノリア
19世紀以来、メゾンにとって重要なモチーフのひとつがマグノリア。洗練された透かし模様にメゾンの職人技を駆使した5種の異なるダイヤモンドのセッティングが花に用いられ、高貴な花の美しさを際立たせている。蕾、花、葉といったマグノリアの生命のサイクルを見事にデザイン。形、大きさの異なる花びらの重なりが生み出すマグノリアの独特なフォルムとボリュームの素晴らしい表現に圧倒される。
ダイヤモンドにスノーブライトセッティング、グランフィレセッティング、スケールセッティング、ベゼルセッティング、プロングセッティングが用いられたマグノリアの花。ダイヤモンドとサファイアがパヴェセッティングされたシジュウカラのボティは立体感が素晴らしい。
ティアラ。肉厚な花弁が巧みに表現されている。
ダリア
ダリアもジョゼフィーヌが愛した花のひとつで、マルメゾン城の庭で大切に育てていた。濃色のイメージが強い花をダイヤモンドだけで、という意表を突くデザインだ。花のランダムさを表現したオープンワークのモチーフを重ね、ボリューム感あふれたダリアのたおやかな姿を表現。螺旋のようなデザインが無限に再生される生命のサイクルを描いている。花びらのモチーフが連なりねじれたように見えるデザインは、絶えまなく続く植物のサイクルという永続性に敬意を表している。
重なりごとに異なる花弁のサイズ。「トルサード ドゥ ショーメ」コレクションのヴァンドーム広場の中央にそびえる塔に絡まるリボンのデザインを彷彿とさせる。
ティアラ。センターの花一輪だけのティアラにもなる。取り外しが可能な5輪の花は、ブローチとしても付けられる。
フェアリーアイリス
短い開花期間に由来し、花が一瞬で消えてしまうように見えることから名づけられフェアリーアイリス。ジョゼフィーヌ皇后の植物画家であるピエール・ジョセフ・ルドゥーテによって描かれたような儚く風に揺れる姿がジュエリーへと昇華されている。ベトナム産のブルー、パープル、ピンクのスピネルの繊細な組み合わせによって紡がれた淡いグラデーションは、パヴェセッティングされた色彩の魔法によって水彩画のような効果を引き出し、茎の上で花がランダムに咲く姿を柔らかく色彩豊かに生み出している。
アイリスの花を描くのはピンク、パープル、ブルーなど淡い色のスピネル。透明感が素晴らしいトンボの羽はアールデコ調だ。
ウォーターリリー
ウォーターリリー(睡蓮)の豊かで華やかな美しさを祝福するスピネルとトパーズのパリュール。ジョゼフィーヌが暮らしたマルメゾン城の温室にある池を照らし、クロード・モネの庭の池にもあったこの花は、オリエンタルな姿で見るものを魅了していたのだ。メゾンの職人技による繊細なオープンワークと宝石の色彩により光のレースのように大輪の花を表現し、水の世界で美しく咲くこの花の深い詩をジュエリーへと昇華。
ネックレスに下がるインペリアルトパーズは23.12ct。
リング。インペリアルトパーズは17.12ct。
editing: Mariko Omura