シンプリシティの裏にバランスの技。カルティエ「アン エキリーブル」第二章。
Jewelry 2025.09.03
カルティエは5月26日にストックホルムでハイジュエリーの新作発表とそれを祝うガラを開催。その新作コレクション「アン エキリーブル」の第二章が7月初旬にパリで発表された。色の調和、密と疎の拮抗、シンプルさと華やかさの共存、シンメトリーとアシメトリー、ボリュームなどを追及し、無駄のない節度あるスタイルをカルティエは創業以来守っている。バランスにフォーカスを置いた「アン エキリーブル」は伝統と革新をうたうメゾンの創造的アプローチを決定づける指針をテーマにしたコレクションなのだ。
「アン エキリーブル」第二章のトゥッティ・フルッティのネックレスはカンボジアの寺院の名前から「Tutti ta prohm」と命名されている。トゥッティフルティは通常3色だけれど、このネックレスは2色をバランスよくデザイン。
ハイジュエリーのクリエイティブディレクター、ジャクリーヌ・カラチは「控えめな表現の中で明確なラインを描くことは、洗練されたシンプルさのパラドックスそのものです。物事を異なる視点から眺める技術であり、バランスを正確に見抜く技術でもあります。カルティエがもつハーモニーを生み出しているのは、メゾンの創造的アプローチの中核をなす、バランスの技術なのです」と、このコレクションについて語っている。今回発表された第二章も、それぞれストーリーがありロマンを感じさせる逸品ばかり。年末までに「アン エキリーブル」の第三章が発表される予定というから楽しみに待とう。
ヘビがモチーフのネックレスNajaatra。難しいデザインの実現をアトリエの職人の技が支える。
Seafoam Green Chamane(シーフォム グリーン シャマン)
カルティエの代表的な表現方法のひとつとして、貴重な素材と幾何学的形状のコントラストが挙げられる。クリソプレーズのグリーンとサファイアの鮮やかなブルー、ホワイトダイヤモンドとグラフィカルなブラックオニキス、滑らかなラインと曲線的な宝石......。センターストーンのセイロン産サファイアは9.06ctあり、全体をまとめ上げるポイントとなっている。パワフルで時代を超越したモダニティが込められたネックレスとイヤリングを眺めていると、"ジュエラーの王様"と呼ばれた20世紀初頭のエピソードが蘇る。
ネックレスの素材はプラチナ、WG、サファイア、クリソプレーズ、オニキス、ダイヤモンド。¥172,920,000(参考価格)Maxime Govet © Cartier
イヤリングの素材はプラチナ、WG、サファイア、クリソプレーズ、オニキス、ダイヤモンド。¥30,888,000(参考価格)Maxime Govet © Cartier
---fadeinpager---
Divita(ディヴィタ)
ラテン語で健康や富を意味するディヴァタは、メゾンのスタイルを色濃く反映し、多数の素材がシンプルにシメトリーに組み合わせられている。翡翠のビーズ、スピネル、トルマリン、オパール、ダイヤモンドが幾何学的モチーフを描くネックレスと、揃いのイヤリング。カルティエでよく用いられる素材ばかり。でも、色合わせはあまり見慣れないタイプでは? ネックレスの中央のオパールの中に見出せる色の石が用いられているそうで、その植物を彷彿させる色彩が有機的なフォルムの石と見事なハーモニーを奏でている。
ネックレスの素材はプラチナ、スピネル、オパール、翡翠、トルマリン、ダイヤモンド。¥212,520,000(参考価格)Maxime Govet © Cartier
イヤリングの素材はプラチナ、スピネル、翡翠、トルマリン、ダイヤモンド。¥36,696,000(参考価格)Maxime Govet © Cartier
---fadeinpager---
Cafayete(カファイエテ)
カフェイエテも、色の組み合わせの見事なバランスを物語っている。目を奪うような虹色の輝きを放つふたつのオパールを挟み込むようにイエロー、オレンジ、赤のサファイアを配置。ネックレスのイエローゴールドとピンクゴールドが織り成すメッシュ部分では、ウンバサファイアが輝く波を描いている。命名は赤い岩肌の山で有名なアルゼンチンの観光地であるカファイエテから。
ネックレスの素材はピンクゴールド、イエローゴールド、オパール、サファイア、ダイヤモンド。¥328,680,000(参考価格)Paul France-Lanord © Cartier
イヤリングの素材はピンクゴールド、イエローゴールド、オパール、サファイア、ダイヤモンド。¥73,920,000(参考価格)Mathias De Lattre © Cartier
---fadeinpager---
Shirohebi(シロヘビ)
コレクションのジュエリーは、ラテン語やイタリア語など様々な言葉の名前が付けられている。この指輪とイヤリングのセットはシロヘビと日本語名だ。蛇はカルティエの動物寓話集の中でも象徴的存在。六角形のステップカットのダイヤモンドセッティングは幾何学的な鱗をリアルに表現し、白い輝きに囲まれたサファイアのブルーの目は鋭く射るようでもあり、なんとなく微笑んでいるようでもあり......。揃いのイヤリングには、リングのグラフィカルな魅力が生かされている。
リングの素材はWG、サファイア、ダイヤモンド。¥139,920,000(参考価格)Hugo Julliot © Cartier
イヤリングの素材はWG、ダイヤモンド。¥67,980,000(参考価格)Maxime Govet © Cartier
---fadeinpager---
Nakuru(ナクル)
ケニアの湖の名前が付けられたピンクフラミンゴのブローチ。素材はケニアで採れたピンククオーツで、それをメゾン内のグリプティック職人が羽毛に到るまでリアルで優雅なフラミンゴを彫り上げた。嘴には瑪瑙が用いられている。鳥の華奢な脚はカイト型のダイヤモンドで、ピンククオーツのボディと見事に調和するデザイン。1940年にウィンザー公爵夫人のために作られたブローチが過去にあるように、フラミンゴはメゾンが愛し、何度もモチーフとして登場する動物のひとつだ。
ブローチの素材はWG、ピンククオーツ100.50ct、瑪瑙、ダイヤモンド。¥48,312,000(参考価格)Maxime Govet © Cartier
発表会場の一角に、カルティエが護る希少な職人技であるグリプティックについて解説するコーナーが設けられていた。カルティエは石や骨などの素材を彫るグリプティックのインハウス・アトリエをもつ世界で唯一のジュエラーである。photography: Mariko Omura
editing: Mariko Omura