ブチェラッティから、創業者の創造性を引き継ぐイブニングバッグのコレクション。
Jewelry 2025.07.30
イタリアのハイジュエラー、ブチェラッティがパリのブティックで7月8日に新作を発表。今回のハイライトは、イブニングバッグ3点のカプセルコレクションだった。これは、1919年にメゾンを創業したマリオ・ブチェラッティがミニチュアの芸術品とも呼ぶにふさわしい宝石をあしらった刺繍入りの小さなクラッチバッグを手がけていたことに由来する。バッグの留め具といった機能的要素に装飾と創造性に富んだジュエリーをもたらした柔らかなベルベットや東洋のシルクを用いたバッグは、メゾンの金細工工房の隣のミラノ・スカラ座で観劇する上流階級の女性たちの間で、ステータスの象徴として愛されるようになったのだ。これは20~30年代のこと。50年代になると、アメリカ市場の嗜好に合わせマリオは直線的なデザインと異素材を用いた作品を提案。主に長方形で剛性のあるクラッチバッグは、マリオならではの手彫り技法によって布のような柔らかさを表現し、彼ならではの仕事として認められた。息子ジャンマリアの代には、幾何学的なデザインが取り入れられ、バッグ本体が布ではなく彫金を施した金や銀を用いたために「バッグ」というより「イブニングケース」と呼ばれて、人気を呼んだ。
1919年、ミラノに生まれたブチェラッティ。
マリオ・ブチェラッティによる、バロックパールをあしらった1920年代のイヴニングバッグ。アーカイブピースだ。カプセルコレクションの発表時に、もう1点のバッグとともに展示された。
同時に展示された2001年にジャンマリア・ブチェラッティがデザインしたバッグ。もう1点のヴィンテージピースとともに販売。
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昨年ブチェラッティはヴェネツィアのジュデッカ島で展覧会『The Prince of Goldsmiths. Buccellati Rediscovering The Classics(ザ・プリンス・オブ・ゴールドスミス:ブチェラッティ 古典への回帰)』を開催した。その際、特別室で展示されたのがメゾンのアーカイブから9点のイブニングバッグである。それら歴史的バッグの修復と保存活動には、クラッチバッグの美しさと完全性を守るというメゾンの強い信念が込めらているのだ。メゾンの三代目アンドレア・ブチェラッティはこの時に、現代の感性と歴史を融合させた新たなフォルムと装飾への創作意欲をかき立てられたという。
アーカイブのヴィンテージコレクション。パリで展示されたのは右から2つ目の白いバッグと、中央のルビーとエメラルドを開口部にあしらった黒のバッグ。
オークションや個人からヴィンテージピースを購入し、アトリエで修復。バッグによってアーカイブピースとなったり、顧客に販売されたり。
そして生まれたのがユニークピースのイヴニングバッグ3点のカプセルコレクションである。ひとつは開口部の留め具にカボションカットのルベライトトルマリンがあしらわれ、キルティング加工が施されたグリーンのベルベットの長方形のクラッチバッグ。ブチェラッティのロゴとなっている無数のオペラモチーフがゴールドの星をちりばめたよう。取り外し可能なショルダーチェーンにも、見事な職人仕事が見て取れる。
もうひとつはダイヤモンドとルベライトトルマリンで飾られた開口が、まるでブレスレットかネックレスかという輝きを放っている。ルベライトトルマリンとダイヤモンドの小さなオペラのペンダントが存在感を放つブラックのベルベットのクラッチバッグだ。
3つ目はストレッチの効いたブラックのベルベットが格別にモダンな球体のバッグ。開口部に沿うダイヤモンドをあしらったトライアングルとガーランドが2列に並んだベルトは、とりわけ複雑な仕事だったそうだ。バッグのフォルムを強調するかのように、イエローゴールドハンドルもまん丸のフォルムである。
ブランドの特徴的なスタイルを保ちながらも現代の社会になじむ、極めてシンプルでユニークな独創的作品。革新の中にメゾンのタイムレスな美しさとエレガンスが永遠に息づく、夢のようなカプセルコレクションだ。なおバッグといってもこれらはモードな宝飾品であるので、価格はハイジュエリーと変わらない。
editing: Mariko Omura