ヴァシュロン・コンスタンタン、機能性と洗練のデザインの交差点。
Watches 2023.01.01
神は細部に宿る、という言葉があるが、この一文は時計というクリエイションに、実にふさわしいものといえるだろう。ケースはもちろん、小さな針や部品にいたるまでの細かく、丁寧な磨きをはじめ、上品な表情を与える文字盤の装飾、眺めるだけで心惹かれるムーブメントの精緻な仕上げ……。時を計るための実用性における技術的探求はもちろん、美しくあるためのあらゆる創意工夫が、この腕にのる、小さな世界で繰り広げられている。
ここに一例として、ヴァシュロン・コンスタンタンの時計を挙げてみよう。同社はスイス・ジュネーブとジュウ渓谷の工房で、18世紀から続く時計製作の伝統を守り続けてきた。自社一貫体制で製作を行うマニュファクチュールとしても知られている。かつヴァシュロン・コンスタンタンは、永久カレンダーやムーンフェイズ、トゥールビヨンなど、いくつもの機構を組み合わせた、複雑機構の名手として活躍してきた。そんな伝統の技術力を結集させたのが、「レ・キャビノティエ・ウェストミンスター・ソヌリ -ヨハネス フェルメールへ敬意を表して- 」である。これはある顧客の願いから誕生した、特注のユニークピース。美しいメロディを奏でる“ソヌリ”に加えて、フェルメールの名画を再現したミニチュア・エナメルや、芸術作品のような彫金など、各分野における最高峰の職人技が注ぎ込まれているのだ。
このようなアートピースはもちろん、定番モデルにおいても、細部へのこだわりは健在である。伝統の薄型ムーブメントは極上のフィット感を約束し、ギヨシェ彫りをはじめとする文字盤の加工や、手作業によるダイヤモンドセッティングがロマンティックなアプローチを完成させる。時計は、時を知らせるというその役割ゆえ、たとえば装飾においても、視認性や耐久性などを考慮した意匠が求められてきた。しかしそうした制約の中でこそ、優れた職人技はさらに発揮され、過去から未来へと受け継ぐべき唯一無二の価値を生み出すのである。
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精鋭の職人技を注ぎ込んだ逸品。
レ・キャビノティエ・ウェストミンスター・ソヌリ
18世紀からの時計製作の伝統を詰め込んだオフィサーケースの懐中時計。806個のパーツからなる新手巻きムーブメント“Cal.3761”を搭載。上部には2頭のライオンの頭彫金。(YG、φ98mm、手巻き、ユニークピース、価格非公開)/ヴァシュロン・コンスタンタン
音程の異なる4つの音によって4小節のメロディを奏でる“ウェストミンスター”のグラン&プチ・ソヌリとミニッツリピーター、トゥールビヨンを搭載。ケース裏面の『真珠の耳飾りの少女』のミニチュア・エナメルは巨匠アニタ・ポルシェによるもの。黒の表現だけでも7色を組み合わせ、色の定着に20回もの焼成を繰り返す高度な技術に、7カ月が費やされた(写真下左)。渦巻き状のアカンサスの葉と花を描いたエングレービングも見どころ(下右)。
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薄型の伝統から生まれた次世代の腕時計。
トラディショナル・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー
ブルーグレーのマザーオブパールが美しい。ムーンフェイズも同色に仕上げられ、見事な色の調和を見せる。(WG×ダイヤモンド×MOP×アリゲーターストラップ、φ36.5mm、自動巻き)¥12,496,000/ヴァシュロン・コンスタンタン
月で異なる日数やうるう年の調整を自動的に行うパーペチュアルカレンダー搭載。このモデルでは西暦2100年まで修正不要だ。高度な技術を要する世界三大機構のひとつを搭載しながら、厚さわずか4.05mmの薄型ムーブメントで、ケース厚も8.43mmの薄さ(写真下右)。276個の部品からなるムーブメントの美しい装飾も見逃せない(下左)。印字ではなく別部品を固定する立体的なアプライドインデックス(下中)などの意匠に、高級感があふれる。
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類まれなデザインが、纏う愉しみに。
エジェリー・オートマティック
2時位置にディスク式の日付表示を配したデザインが個性的。新色はコレクション初のトープカラーだ。インターチェンジャブルストラップ仕様。(PG×ダイヤモンド×キルティングラムスキンストラップ、φ35mm、自動巻き)¥4,444,000/ヴァシュロン・コンスタンタン
テーマとなったのは、「オートオルロジュリー(高級時計)とオートクチュール」の融合。オフセンターのレイアウトをベースに、スカートのようなプリーツ模様や縫い針のように細い秒針など、クチュール仕立てをイメージしたファンタジックなデザインを考案(写真下左)。文字盤に施されたのは、手動旋盤を回して文字盤に加工を施す伝統的なギヨシェ彫りと同様の“タペストリー技法”(下右)。工房の伝統的な機械を用いて、職人が手作業で彫りを施している。
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卓越の機構と輝く貴石の共演。
レ・キャビノティエ・レギュレーター・パーペチュアルカレンダー
ムーンライト・ジュエリー・サファイア
レギュレーターとは時・分・秒を独立して表示する機構。この時計では12時位置が時、中央の針が分を示す。(WG×ダイヤモンド×サファイア×アリゲーターストラップ、φ42mm、自動巻き、価格非公開)/ヴァシュロン・コンスタンタン
“レ・キャビノティエ”とは、18世紀に時計師たちが自然光が入る屋根裏部屋キャビノティエを作業場にしていたことにちなむ。時計師は技術はもちろん天文学にも精通した知的レベルの高さで尊敬されていた。同社では現在ビスポーク製作部門の呼び名に。パーペチュアルカレンダーは男性用だが、見事なジェムセッティング(写真下左)は必見。ヴァシュロン・コンスタンタンは自社内にジェムセッターを抱える貴重なブランドで、5分ごとに配置された10ポイントのサファイアも美しいアクセント(下右)。
*「フィガロジャポン」2023年1月号より抜粋
text: Aki Nogami