フランク ミュラーの時計はどう生まれる? 豊かな自然に囲まれた、アトリエへ。
Watches 2026.01.23
独創的な曲線美と複雑機構で知られるフランク ミュラー。その個性は、ジュネーヴ近郊ジャントゥに構えるウォッチランドのアトリエから生まれている。一本の時計を最初から最後まで手がける熟練の職人たちの制作現場を訪ねた。
FRANCK MULLER
豊かな自然の中で誕生する、独創的なイメージ。
フランク ミュラーの名を聞けば、たとえば代表作「トノウ カーベックス」のように独創的な曲線美の腕時計を思い浮かべることだろう。3D局面が織りなす立体的なフォルムや優雅なビザン数字などの個性的な意匠はフランク ミュラーのシンボルとされ、同社のタイムピースはしばしばアートとも称されてきた。そんなデザインの妙もさることながら、群を抜く個性の表れとされてきたのが、数々の複雑機構である。1992年のブランド創設以前から、創業者フランク・ミュラーは懐中時計の伝統的な複雑機構を腕時計に搭載するというコンセプトを掲げてきた。殊に「動く芸術」と呼ばれるトゥールビヨンへの想いは深く、調速脱進機を一定の時間で回転させて精度を改善するこの機構をフランク ミュラーは1983年、独自のシステムで腕時計へと組み込むことに成功する。以降トゥールビヨンは同社の代名詞となり、パーペチュアルカレンダーやミニッツリピーターなど組み合わせたグランドコンプリケーションの世界が花開いていくこととなる。
これらの時代を先駆ける斬新な発想力は、時計製作における技術の継承があってこそなしえるものだ。そんなフランク ミュラーの製作拠点となるのが、ジュネーヴ近郊のジャントゥにあるウォッチランド。かの地にある1905年建造のシャトレー・レ・ザマンドリエに魅了されたフランク・ミュラーは城館を購入し、本社工房として改築。2019年にはこのシャトーを取り巻くように新たに2棟を増設し、マニュファクチュールとしての体制を強化する。現在はシャトー、アトリエA〜Dからなる5つの工房で設計からプロトタイプの製作、部品づくりとデコレーション、組み立て、そして最終テストにいたるまでの全工程が一本化されている。
先述のトゥールビヨンの組み立ても同アトリエ内で行われており、熟練の時計師のみが複雑機構の製作に携わる。ケースと文字盤に関しては、傘下となるジュテック社とフィル・ダーノルド・リンデール社が担当。この2社はジュネーヴではなくジュラ地方に工房を構えており、いずれも卓越した技術力を誇る。
8000種類以上ものエナメルを揃え、色彩の微細な表現にこだわり抜いた文字盤もまた、フランク ミュラーが誇る芸術のひとつだ。各専門分野における最高峰の知識と技術力が集結し、唯一無二たるクリエイションは完成する。
フランク ミュラーの時計はいずれも高度な技術力を誇示するばかりではなく、ブランドが考える「時の概念」とともに綴られることが多い。たとえば時針がジャンプして時を告げるユニークな機構には「自分らしく生きる時の喜び」を。そしてカラフルな文字盤には「色褪せぬ幸せな時間への想い」を。創業者はもちろん、あらゆる製造工程にまつわる人々の愛と情熱があってこそ、手にする者の驚きを誘い、感動を呼び起こすタイムピースが生み出されるのだ。
*「フィガロジャポン」2026年1月号より抜粋
text: Aki Nogami editing: Mami Aiko




