東京で食べるフランス郷土料理。#06 南仏プロヴァンス料理の数々を、学芸大学のフレンチで。

Gourmet 2020.11.26

豊かな恵みをもたらす海と山を擁する、美食の国フランス。日本でも知られている名物料理から、味わったことのない逸品まで、フランスには地域ごとの個性あふれる郷土料理がある。旬の食材を用いて、代々受け継がれてきたそんな郷土料理の数々を、フランスの6つのエリアから紹介します。最終回は、太陽に育まれた野菜や多彩なシーフードを使ったプロヴァンス地方の郷土料理を紹介。

Provence-Alpes-Côte d'Azur
彩り豊かな野菜とオリーブオイルを生かして。

ラ・プロヴァンス・グルマンド・オリヴィエ(学芸大学)

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料理はすべてコース料理(¥5,280〜)より。「関鯵のマリネと南仏野菜のテリーヌ プロヴァンスのバター“タプナード”添え」。プロヴァンスの代表的料理のひとつ、ラタトゥイユに使われる野菜をテリーヌに。

ゴッホやセザンヌが愛し、ピカソが眠る南仏プロヴァンス地方。その豊かな自然と美しい景観は、これまでも数多くの芸術家たちを魅了してきた。太陽が煌く南フランスの南東部に位置し、東にイタリア国境、南には地中海を臨むこの地方は、フランス最大の港街マルセイユや一大リゾート地として知られるニース、そしてピーター・メイルのエッセイ『南仏プロヴァンスの12か月』の舞台ともなった美しい村々が点在するリュべロン地方や歴史ある教皇の街アヴィニョンなど、さまざまな顔を持つ。

1年を通して雨が少なく、夏は乾燥した晴天が続く典型的な地中海性気候のため、年間の平均温度は15度。こうした温暖な気候に恵まれたプロヴァンスを代表する食材といえば、まずはオリーブ、そしてオリーブオイルが挙げられる。

「プロヴァンス地方では、オリーブオイルがバター代わり。どの料理にもよく使いますね。また、トマトやナス、ズッキーニ、パプリカなどもプロヴァンス料理では定番の野菜です」。こう語る尾上貢正シェフは、南仏で3年半修業を積んだ経験の持ち主。学芸大学駅に「ラ・プロヴァンス・グルマンド・オリヴィエ」を構えて16年になる。店名にも“プロヴァンス”と掲げるほど、素材感を生かした南仏の料理に魅せられた尾上シェフ。その思いを反映するかのように、メニューには、レストランの料理として洗練された南仏の味が並ぶ。

前菜の「南仏野菜のテリーヌ」もそのひとつ。メニュー名のとおり、尾上シェフ自身がその豊富さに魅了されたという南仏の野菜が、彩りも鮮やかなテリーヌにアレンジされて登場する。添えているのはプロヴァンスのバターともいわれる“タプナード”。黒オリーブやニンニク、アンチョビ、ケッパーなどをペースト状にしたものだ。野菜料理なら、ニース生まれの「ラタトゥイユ」もプロヴァンスではおなじみの一品。付け合わせやソース代わりにも活用されている。

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「オリヴィエ風白身魚と帆立貝、海老など5種の魚介のブイヤベース」。今月29日まで開催中のブイヤベースフェアでは、締めのプチブイヤベースリゾットも付く。ブイヤベースのスペシャルコースは¥7,370

プロヴァンスといえば、マルセイユ名物のブイヤベースも外せない。もともとは、見た目が悪いなど諸々の理由で商品価値のなくなった魚を、大鍋で塩で煮て食べていたいわば漁師料理。それを料理人たちが洗練させ、レストランの料理として昇華されたものが現在のブイヤベース。

それぞれのレストランでオリジナルのレシピや味のコツがあり、妍(けん)を競い合っているが、現地には「ブイヤベース憲章」なるものがあるそうだ。それによれば、本物のブイヤベースと認められるためには、カサゴ、白カサゴ、赤カサゴ、足長カニ、ホウボウ、マトウダイ、アンコウ、西洋アナゴのうちの4種類を使うことが定められており、またスープは小魚でとらなくてはならず、その小魚の種類も決められている。

ちなみに、ここではイワシ、アジ、ヒメジなどでとるスープがベース。そこに具としてヒラメや真鯛、ホタテ貝、ハマグリ、天使のエビなどが入ったボリュームたっぷりの一皿だ。スープそのものはベーシックながら、泡立てることで、口当たりを軽やかに仕上げている。

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「キャビア・ド・オーベルジーヌ」(手前)と「ブランタード」(奥)。前者はピューレ状にしたナスで、ナスの種の粒々をキャビアに見立てたネーミング。後者は、プロヴァンス地方やラングドック地方の郷土料理で、ほぐしたタラを牛乳とジャガイモ、ニンニクなどとともにペースト状にしたもの。本来は干しダラで作るが、ここでは塩ダラを使用。

ハーブもまた、プロヴァンスの料理には欠かせない要素だろう。温暖な気候と石灰質で水はけのよい地質はハーブが育つには理想的で、苛酷な環境にもかかわらずラベンダーなど野生のハーブが自生している。数種類のハーブをミックスした調味料“エルプ・ド・プロヴァンス”は、日本でもよく知られるところだ。肉は、羊や山羊をよく食べる。石灰質の地質では生える草もまばらで、それゆえ、粗食に耐える山羊や羊をよく飼うになったのだろう。ハーブをたっぷり使った“仔羊の香草焼き”は、プロヴァンスの代表的な一皿だ。

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日中は柔らかな光が差し込む店内。

ラ・プロヴァンス・グルマンド・オリヴィエ
La Provence Gourmande Olivier
東京都目黒区鷹番3-6-9 鷹番サニーハイツ
tel:03-5722-2550
営)11時30分~14時、18時~21時
休)月
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、営業時間変更の可能性がございます。詳細はお問い合わせください。

 

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photos : KAYOKO UEDA, texte : KEIKO MORIWAKI

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