江戸の食文化と料理、再発見。#10

江戸前鮨のこだわりが詰まった太巻きを召し上がれ。

特集

現代日本の食文化の基本が形作られたといわれるのが江戸時代。季節ごとの食材や行事と結びついた江戸の食文化や料理について知れば、食事の時間がもっと楽しく、幸せなひとときになる。連載「今宵もグルマンド」をはじめ、多くのグルメ記事を執筆するフードライターの森脇慶子が、奥深い江戸の食の世界をナビゲート。今回のテーマは「太巻き」。節分のルーツと、いまや全国的に定着した「恵方巻き」にちなんで、一年を通していただける、おなじみの太巻きの魅力に迫ります。


なぜ、2月の節分だけが重要視されるのか?

今年の節分は2月2日。いつもは3日のはずの節分が2日になるのは1897(明治30)年以来、実に124年ぶりのことだとか。節分とはその名のとおり、季節の分かれ目のことで、立春、立夏、立秋、立冬の前日はすべてが節分。つまりは年に4回あるわけで、なかでも2月の節分だけがこのように重要視されるようになったのは、立春が旧暦では年の改まる日と考えられていたから。年が明ける前日の節分は、現在でいう大晦日にあたるわけだ。

実はこの節分、もともとは平安時代の“追儺式”と“節分会”、ふたつの行事が合わさって生まれたものらしく、「鬼は外、福は内」のおなじみみのフレーズで行う豆まきは、すでに室町時代から行われていたことが、京都相国寺の僧、瑞渓周鳳の日記に記されている。

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いまや節分の定番の食べ物となった「恵方巻き」。銀座 鮨青木(後述)では、定番の太巻きに、丸かぶりしやすいようにとひと工夫加えている。

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関西発祥の恵方巻きが、全国の家庭で定着。

この節分の豆まきが、広く庶民にもおなじみの行事となるのは江戸時代。当時、亀戸天神や神田明神、浅草観音寺などでは追儺式が執り行われ、多くの参拝客で賑わったとか。江戸の年中行事を記した、1838(天保9)年刊行の『東都歳時記』によれば、「どこの家でも煎り豆を撒いて、柊と鰯の頭を玄関に飾る。豆を撒く男を年男と呼ぶ」とあり、現代とそれほど変わらない節分の様子が見てとれる。ちなみに、煎った豆を用いるのは、豆→摩滅に繋がり、豆を煎ることは、すなわち魔の目を射ることに通じると信じられていたから。また、柊と鰯を飾るのも、鰯の生臭さと柊のトゲトゲを鬼が嫌い、邪気の象徴である鬼が家に入るのを防いでくれると言い伝えられていたそうだ。

ところで、江戸庶民の間では、当時、厄落としのための驚くべき風習があった。“ふんどしをわざわざ落とす節変わり”という一句からも想像できるように、なんと、節分の夜、誰にも知られぬように四辻にふんどしを落とすというもの。こうすると災厄から逃れられると本気で信じていたらしい。しかし、朝、あちらこちらの辻にふんどしが落とされている光景は、往来を行く人々にとっては、ある意味、災厄であったかもしれない。

さて、節分の食べものといえば、先の鰯や煎った大豆が常套だが、昨今では、何といっても「恵方巻き」がおなじみだろう。太巻き寿司をその年の恵方に向かって食べるというこの風習は、もともとは関西から発信されたものらしい。江戸時代から明治にかけて、大阪の花街で商人が商売繁盛を祈って始めたという説がよく知られるところだろう。

ちなみに、この恵方巻きには食べ方にルールがあり、最後まで一言も発せずに丸ごと一本食べきること。そうすれば願いごとが叶うといわれている。最近では、バリエーション豊かな恵方巻きが登場しているが、本来は七福神にちなみ7種類の具を巻くのが定番。福を巻き込むというわけだ。近頃では、豆撒きよりも恵方巻きを食べるほうが、節分の行事として家庭では定着しているとの調査結果もある。

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芝エビを贅沢に使い、手間ひまかけた逸品。

銀座 鮨青木(銀座)

「ここ数年、節分の日には、毎年恵方巻きを作っていますね。通常の太巻きとほぼ同じですが、丸かぶりしやすいよう、シャリ量を少なめにし、やや細めに巻くようにしています」にこやかな笑顔を浮かべてこう語るのは、江戸前鮨の名店「銀座 鮨青木」の青木利勝さん。

幼い頃、先代が京都・木屋町に店を構えていたこともあり、節分に恵方巻きを食べる風習を、子ども心に興味深く感じていたとか。(さすがに江戸前鮨を看板にしていた先代は作らなかったそうだ)

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切り口が美しい、銀座 鮨青木の太巻き¥3,240。節分の時期には「特上恵方巻」を銀座三越で販売する。

もともと関西では太巻き、江戸は細巻きが好まれたらしいが、「青木」の太巻きには、江戸前ならではのこだわりが詰まっている。ほんのりピンク色をしたエビおぼろもしかり。芝エビで作る手間ひまかけたほのかに甘いおぼろは、江戸前鮨の古い仕事のひとつだ。また、その芝エビのすり身をたっぷり入れた卵焼きもまた、太巻きには欠かせぬ一品だろう。ほかにも、グッと甘辛く煮含めたカンピョウに茹でたミツバ、シイタケ甘煮など、生物は入れずにすべて火を通すなどの仕事をしたものだけで仕上げているところにも、江戸前の矜持を感じさせる。

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カウンター12席に加えて、個室カウンター8席も。新型コロナウイルス感染防止対策が取られた店内も、空間になじむようにとの工夫と心遣いが見てとれる。

「太巻き鮨は、作ってすぐよりも少し時間を置いたほうが、具とシャリとがなじんでおいしくなります。お土産にするにはピッタリですよ」とは、青木さん。切り口を上にして整然と折に詰められた太巻きは、ふたを開けた瞬間の見た目も華やか。ステイホームの食卓にも彩りを添えてくれそうだ。

恵方巻きは節分のみだが、太巻きはいつでもOK。予約をしてから出かけたい。

銀座 鮨青木
Ginza Sushi Aoki

東京都中央区銀座 6-7-4 銀座タカハシビル2F
tel : 03-3289-1044
営)12時〜13時30分L.O.、18時~21時30分L.O.(月〜金) 12時〜13時30分L.O.、17時~21時30分L.O.(土、日、祝)
休)年末年始
https://www.sushiaoki.jp
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、営業時間変更の可能性がございます。詳細はお問い合わせください。

江戸の食文化と料理、再発見。記事一覧

photos : KAYOKO UEDA, texte : KEIKO MORIWAKI

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