ガラスに魅せられた、アーティスト夫妻が語る夢。

Interiors 2019.12.19

向こう側の景色がクリアに見通せるほどの透明度、光を跳ね返す硬質で滑らかなテクスチャー、用途に合わせて自在にフォルムを変えられる柔軟さ……。ガラスという素材に魅了された夫妻が、2007年にパリでガラス工房「ラ・スフルリー」をスタートした。

「フィガロジャポン」2020年1月号「偏愛至上主義。」特集では、ふたりで集めた大切なグラスの数々を披露してくれたラ・スフルリーのセバスチャンとヴァレンティナ。彼ら自身が作る吹きガラスも、そんな物語のあるグラスたちからインスパイアされているという。

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リサイクルガラスを主原料に、伝統的な方法で制作されるラ・スフルリーのグラス。 ©Anjeanette Massey

パリのアスティエ・ド・ヴィラットやメルシーにも並ぶラ・スフルリーのグラスは、日本では東京・表参道の「エイチ・ピー・デコ」で目にすることができる。また、19年11月にオープンしたばかりの渋谷パルコ内「エイチ・ピー・デコ アート感のある暮らし」にもラ・スフルリーのコーナーが新設! 新商品を携えて来日していた彼らが、工房について、そして未来について語ってくれた。

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ラ・スフルリーのセバスチャン&ヴァレンティナ夫妻。寡黙なふたりの言葉からは、ガラスへの情熱が伝わってきた。©Anjeanette Massey

――セバスチャンさんはもともと彫刻の型を作る職人だったそうですね。ガラスのデザインを始めた経緯を教えてください。

セバスチャン(以下、S) 僕は自分のことをガラス職人ではなく、単にガラスが大好きな人間だと思っているんだ。20代の頃からガラス職人たちと親しくしていて、彼らからたくさんのことを学んできた。2007年に、あるフローリストから花器を作ってほしいと依頼を受けたんだ。

そのフローリストは、僕がガラス職人と交流しているのを知っていたから声をかけてくれたんだけど、3人のガラス職人が協力してくれて、花器を作ったのが最初だった。それから妻のヴァレンティナと一緒にガラス工房の規模を大きくして、いまではレストランやインテリアショップでも僕たちのグラスを扱ってくれるようになった。

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表参道のエイチ・ピー・デコで、ラ・スフルリーをフィーチャーした時のディスプレイ。さまざまな色と形のグラスがハーモニーを奏でるように並ぶ。

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顔を象った花器(中央)は、ラ・スフルリーの代表作のひとつ。¥6,820

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伝統的な形や用途のうつわにインスパイアされる。

――デザインをするうえで、旅からインスピレーションを得ることも多いとか。最近旅した中で思い出に残っている場所はありますか。

ヴァレンティナ(以下、V) 4年前に日本に来た時には、滞在中に食べた日本料理の盛り付けからインスピレーションを得て、小さな四角いお皿を作ったの。昨年は韓国に行って、いまお香立てを作っている最中よ。私たちは旅行に行くたびに何かしらインスパイアされている。イギリスに住んでいる私の叔母を訪ねた時も、そこで見つけた花瓶にヒントを得て花瓶を作ったわ。

S イタリアに住む僕の叔母の家でインスピレーションを得たこともある。弟がイタリアで結婚した時に訪れて、イタリア南部で使われている緑色のオリーブオイルを入れる容器から発想して、バルサミコ酢用の容器を作ったんだ。

V その容器にはお茶を入れたり、水とレモン、ジンジャーを入れたりすることもできるの。注ぐ時にジンジャーが出てこないので便利でしょう。こうしてもともとの用途とは違う使い方をしたり、買ってくださる人が私たちの想像していなかった方法で使ったりしてくれるのも楽しみのひとつね。

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ピッチャーやデキャンタとしても、花器としても使えるシンプルなデザインのベース¥6,600。グラスはあえて違う形や色のものを組み合わせても楽しい。中(参考商品)、右¥4,620  ©Anjeanette Massey

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キャンドルスタンドに花を生けたり、グラスをパスタで満たしたり。使い方や飾り方のアイデアは無限に広がる。©Anjeanette Massey

――パリのメルシーやアスティエ・ド・ヴィラットでラ・スフルリーのグラスが扱われるようになったきっかけは?

V メルシーがオープンした数日後、セバスチャンが自転車で、創設者のマリー=フランス・コーエンに会いに行き、ラ・スフルリーのグラスを見せたの。そうしたら気に入ってもらえて、当時はメルシーではほぼすべてのプロダクトを扱ってくれた。

S アスティエ・ド・ヴィラットでも同じように、いい作品だね、と言ってくれて。ブノワ(・アスティエ・ド・ヴィラット)の紹介で日本のエイチ・ピー・デコでも扱ってもらえるようになった。今回、日本用に新しい石膏のランプも作ったんだ。

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日本のために作られた石膏のランプ。彫刻の型を作る職人だったセバスチャンならではの美しい造型。¥132,000

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コルクの蓋を組み合わせると、また違った表情が生まれる。 ©Anjeanette Massey

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ラ・スフルリーの新作アイテムたち。 ©Anjeanette Massey

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伝統的な技術を、未来のガラス職人へ受け継いでいく。

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もとのガラスの色を生かしているものから着色を施したものまで、カラーバリエーションも豊富。各¥2,530 ©Anjeanette Massey

――ラ・スフルリーのグラスの主な原料はリサイクルガラスですね。色や質などでこだわっている点はありますか。

S 吹きガラスが好きな人は、軽いうつわを好む場合が多いから、なるべく軽いガラスを選んでいるよ。たとえばモザイクタイル用のガラスはかなり重いから使わないようにしている。ワインや水のボトルは使いやすいね。

V ワインボトルのグリーンをそのまま生かしているものもあるわ。

S 透明なものや色付きのものなど、複数のボトルを混ぜて使うこともあるし、そこに新しいガラスを混ぜることもある。ガラスの縁に厚みを持たせると強度が高くなって使いやすいから、ガラス職人に厚みを出すテクニックを習い、ようやく最近できるようになったんだ。形も綺麗でしょう?

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ラ・スフルリーの原点ともいえる花器は、さまざまなバリエーションがある。©Anjeanette Massey

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ステム部分まで液体が入るようになっているレッドワイングラス(各¥4,620)とピッチャー¥7,820 ©Anjeanette Massey

――職人さんと一緒に作ることもありますか。

S そう、プロフェッショナルのガラス職人のアトリエに行って作ることもある。アトリエにこもってばかりではなく、ときには外に出ることも大切だと思っているからね。それに先日は僕のパリのアトリエにクリスタルガラスの職人を招いて、いろいろなことを教えてもらった。彼はフランスのクリスタルガラス職人の最後のひとりで、この職業はいまフランスで消滅しかかっているんだ。今回さまざまなテクニックを教えてもらえたけど、彼も引退が近づいている。だから彼らが活動しているうちに、話をしたり学んだりするのはとても大切だと思っているよ。

V 私たちもいつかガラス職人を養成するような場所を作りたいと思っているの。そうしなければこの吹きガラス職人という職業自体がなくなってしまうから、これは私たちにとっての使命だと思っているわ。

S 石膏などと違い、型がないことが吹きガラスの特徴だから、職人から技術を学ぶことが大事なんだ。

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パリのアトリエでグラス制作をするセバスチャン。©Anjeanette Massey

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形や高さなど、ひとつとして同じものがないのも吹きガラスの魅力。

――若手育成のお話が出ましたが、それも含めて将来やってみたいことはありますか。

S ガラス職人の育成はとても大きなプロジェクトだから、将来的には大きなそれが位置を占めてくると思っている。作品に関しては、いままでどおりの僕たちのスタイルを貫いて、デコラティブなものは作らずにいまのスタイルを維持していくつもりだよ。

V 若手育成のプロジェクトでは、仕事で入ってくるお金を若者たちのために再投資する、というサイクルを作っていきたい。吹きガラス職人になりたいという若い人はまだ少ないけれど、伝統的な材料を使い、窯を使って吹きガラスを作る職人の技術を、ぜひ次の世代へ伝えていきたいと思っているわ。

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どこかユーモラスな顔型の花器。各¥9,460 ©Anjeanette Massey

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色違いをいくつも並べて飾るのもおすすめ。各¥6,820 ©Anjeanette Massey

ラ・スフルリー La Soufflerie
20年の経験を持つ吹きガラス職人夫妻が、2007年に立ち上げた工房。ワインやビール瓶などリサイクルガラスを主原料に、伝統の吹きガラス手法で懐かしく美しいグラスを提案。オリジナルデザインのほか、フランスで昔から愛用されてきた陶器などの「形」に着目し、その素材をガラスに置き換えたコレクションも制作している。
https://lasoufflerie.com

エイチ・ピー・デコ
東京都渋谷区神宮前5-2-11
tel:03-3406-0313
営)11:00~19:30
休)水
www.hpfrance.com/shop/deco


エイチ・ピー・デコ アート感のある暮らし
東京都渋谷区宇田川15-1 渋谷パルコ 1階
tel:03-5422-3983
営)10:00〜21:00
休)不定休
www.hpfrance.com/stores/hpdecoartkan

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