童心に帰る、ボローニャでの田舎暮らし。

Interiors 2021.08.30

BOLOGNA
小林千鶴ワイヤーアーティスト

ミラノから車で約3時間。ワイヤーアーティストの小林千鶴が暮らすのは、イタリア最古の大学を有するボローニャの市街地から、車で30分ほどの場所にある森の家だ。「田舎暮らしは夫の夢でした。40年空き家だったこの家に惚れ込んだ夫に説得され、2014 年に購入しました」

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Chizu Kobayashi  /武蔵野美術大学で 金属工芸を学ぶ。会社勤めを経て、2008年、30歳目前にアートの道を志し、ボローニャへ。以後、高級ホテルやブティック、個人宅にオーダーメイドのワイヤーアートを制作している。ミラノサローネなどでコラボレーションも行う。

1800年代に建てられ、「ポデーレ・イル・カランコ」(カランコの農場)の名で親しまれてきたこの土地。建物内には、当時司教が暮らしていた部屋もあるという。家族が歴史的建造物の修復に代々携わってきた夫の希望もあり、古い造りをなるべく変えず、家具もアンティークでまとめている。

はじめはボローニャ市街と2拠点生活をしていたが、いまでは3人の娘と夫とともに、季節感を大切にした生活を送る小林。7ヘクタールある敷地内の畑では、トマト、バジル、ズッキーニなど30種類以上の野菜やハーブを育てており、シソなどをはじめとした日本の植物も植えている。畑から採れたものは、葉や茎まで無駄にしない。触るとかぶれてしまう西洋イラクサも、調理すればおいしく食べられるとか。

「ここで暮らすようになってから、すっかり“プラントベース”(Plant Based)の食生活に変わりました。畑で野菜を収穫していると、季節の移り変わりやありがたみを感じます」

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 昔ながらの石造りの家。インテリア代わりに置いた温かみのあるバスケットは、庭で摘んできた花を入れたり、畑の野菜を収穫する時に使う。

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田舎暮らしが与えた影響は、クリエイションに対する姿勢にも。ボローニャ市街に住んでいた時は売りやすい作品を作ることも多かったが、いまでは作りたいものがよりはっきりしてきたという。

「お金になるから作る、人に頼まれたから作るというより、自分が呼吸をするためにアートと向き合うようになりました。朝5時に起きて窓を開け、小鳥の声を聞きながら瞑想する。そこからポエティックな文章を思いついたり、子どもたちと森を散策中に出合った光景や感じたことから作品のヒントを得たり。ここでの暮らしからアートが生まれるんです」 

畑の虫の音や野原のそよ風に耳を傾け、子どものような純真さで自然と向き合うこと。それこそが、彼女にとってインスピレーション源であり、暮らしの美学でもあるのだろう。

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玄関口にもプランターを置き、サラダに使うハーブなどを育てる。古い壁面は塗り直さず、味のある風合いをそのまま残した。

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どこか懐かしさを覚える3階のゲストルーム。家具はイタリア各地から集めたアンティーク。ほかにも6つの寝室がある。

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「誕生日に夫から贈られた」ロバ。 家畜ではなく家族の一員でもある。

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Wire Art

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おとぎの国の動物たちが彩る森の家。オーダーを受 けて試作したワイヤーアートを飾ることが多いという。ウサギは『不思議の国のアリス』がテーマのインスタレーションを手がけた際に制作。3歳の末娘、たえちゃんが畑で見つけた大きなカエルから着想を得て、冠をかぶった『カエルの王子様』を作ったことも。

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リビングで手紙を書く8歳の次女、みうちゃん。大きな暖炉をハロウィンやクリスマスなど、季節に合わせて飾りつけるのも楽しみのひとつになっている。

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From the Garden

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庭や畑から採れたハーブはお茶にしたり、飾ったりして楽しむ。ガラス瓶にはヒマワリのスプラ ウト(左端)やタンポポのつぼみの塩漬け(その隣)が。種菌を入れ発酵させたウォーターケフィア(中央のデキャンタ)にレモンを入れたりと、自家製ハーブドリンクのバリエーションも豊富。

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植物図鑑のような壁面は、摘んできた草花が自然とドライになったもの。

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In the Kitchen

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イタリアのマンマを思わせる田舎風のキッチン。ここでも三角のカラフルなガーランドなどに遊び心がうかがえる。流しが狭く、使いにくさを感じることもあるが、それもまた味。吊るしたハーブは飾りとして楽しんだり、料理の仕上げに使ったり。 生ゴミはコンポストに入れ、畑の肥料になるよう土に還す。

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On the Terrace

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「テラスでの食事はおいしさも倍増!」と小林。この日は学校や幼稚園から帰った3姉妹と遅めのランチ。西洋イラクサのペストのパスタや、大麦と野草のサラダ、ひよこ豆の粉で揚げたフリットなど、プラントベースの料理が並ぶ。1歳になったばかりの愛犬メリーナも食卓を囲んだ、家族の楽しい昼下がり。

*「フィガロジャポン」2021年9月号より抜粋

 

photography: Frankie Vaughan editing: Kiyoe Sakamoto

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