メゾンエルメスのウィンドウで、道具の観察。

デザイン・ジャーナル

バッグや乗馬用かばん、ティーポットと並んで、バケツややかん、ロープにほうき?! 銀座メゾンエルメスのウィンドウに現在、日常のさまざまな道具が登場しています。

2000年にニューヨークで「POSTALCO(ポスタルコ)」を共同設立し、ポスタルコのデザイナーとして活躍しているマイク・エーブルソン(1974年、ロサンゼルス生まれ)が手がけたウィンドウ。7月25日まで目にできます。

HM1jpg.jpgPhoto: Satoshi Asakawa, Courtesy of Hermès Japon

毎年、年間テーマを設けているエルメス。そのテーマを、銀座の街にひらかれた「劇場」として見せてくれるのが銀座メゾンエルメスのウィンドウです。

エルメスの2017年のテーマ「オブジェに宿るもの」に関連したものを、との依頼を受けてマイクさんが考えたのは、私たちが日々手にしている道具の「形の誕生」でした。ウィンドウ(作品)の名は「Tool Roots」。

「人と道具の関係」についてリサーチを続けるデザイナーの、深い考察がなされた内容です。その内容を、「昔ながらの金物屋を参考にした」という点も何ともマイクさんらしい……!

「道具のベーシックなかたち」として、まずは「Stick (棒)」「Rope (ロープ)」「Bowl (ボウル)」の3つの分類がなされています。この3つを赤、青、黄色の3色で表現したうえで、各々のつながりを示す色の重なりやグラデーションとなる「カラーチャート」が表現されているのです。

 

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Photo: Satoshi Asakawa, Courtesy of Hermès Japon

「世の中のプロダクトのほとんどは、他のオブジェクトの組み合わせでできています。ブラシを例に挙げれば、それでひとつのオブジェクトですが、持ち手とブラシの部分とがつながっています」とマイクさん。

「考え方のエクササイズとして、みんなが知っているような身の周りにある道具を、今まで通りの方法とは異なる方法で分類しなおしてみたかったのです。新しく分類しなおすことで、これまで気づくことのなかった物の使い方や身体の使い方に気づく、そんなきっかけになると嬉しいと思いました」

「たとえばコウモリと鳥は、今まで通りの分類であればまったく異なる存在として考えられます。でも『飛ぶ』ものとして分類しなおすと、それらは同じ存在であることに気がつきます」

 

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こちらはロープ。「バッグとボウルを関連づけるためにロープを入れてみたらどうかと思ったのです。ロープがバッグになろうとしているようです」。エルメスのHPで紹介されているインタビュー映像で、本人の説明を聞くことができます。Photo: Satoshi Asakawa, Courtesy of Hermès Japon

銀座メゾンエルメスの建物右側の小窓には、エルメスのオブジェをそれぞれ解剖したノートが並んでいます。オブジェクトのひとつひとつを「棒」「ロープ」「ボウル」の3要素を軸に分析していく、その貴重なプロセスの紹介ともなるものです。

HM4.jpgPhoto: Satoshi Asakawa, Courtesy of Hermès Japon

マイクさんならではの視点をもう少しだけお伝えしましょう。彼のこれまでの文章も、マイクさんの世界を満喫するうえでの大きなヒントになるはずです。

2005年、「Carrying – マイク・エーブルソンのデザインリサーチ」展(MDSギャラリー)を一緒にかたちにした際のこと。「Carrying (ものの運搬)」に興味を持った理由をこう記してくれました。

「バッグのデザインを始めた1997年のことでした。バッグがひとの身体と運搬される物、双方の必要性に応えながら、両者の間を仲介する存在として製造されるのだという点に注目しました」

「ものを運ぶ技術は、地球上の至るところに存在しています。重要な点は、さまざまな運搬の技術を見いだすことができるということです。……多種多様な実例を前に私は、人間らしさとは、ものを運ぶことと実に密接だということを知ったのです」

2014年、「活動のデザイン」展(21_21 DESIGN SIGHT)に参加した際には、持ち手(ハンドル)のリサーチとともに、道具を使う「人の手」に焦点をあてていました。「考える手。手は色々な形を『見ている』」と、これまた独自の視点です。

HM5jpg.jpgHM6jpg.jpg銀座メゾンエルメスのウィンドウから。Photo: Satoshi Asakawa, Courtesy of Hermès Japon

「海中のタコを見ると、泳いでいる手のようにしか思えない。ひとの手とタコは、ものとしては全く違うが、形状は類似している。頭から広がるように伸びていくタコの形は、狭い場所に潜りこむ際に役に立つ。ひとの手も、日常に触れる道具やものなどにあわせて様々な形を表現することができる」

ひとの手とタコを結びつけてしまう独自の考察力で、「ほうきの柄とゴルフクラブのグリップは、目的は全く異なるものの、どこか似ている」とも記していました。今回のウィンドウにもつながる視点であり、すべてが時間を費やしたリサーチの積み重ねであることが伝わってきます。

身近なところから「ひと」そのものを掘り下げていって、考える。そうした大切な思考の時間を持ち続けるデザイナーの最新の発表としても興味深いウィンドウ。本人が述べているように大小さまざまな物が並べられた金物屋の店先(?)のようでもあり、同時に、研究者のノートやアーカイヴを開いていくドキドキ感にも満ちた作品。細部までゆっくり楽しみたい、他では決して出会えないウィンドウです。

マイク・エーブルソン「Tool Roots」
期間:開催中~7月25日(火)
場所:銀座メゾンエルメス
東京都中央区銀座5-4-1 
www.maisonhermes.jp/ginza/window 本人のインタビューを目にできます。
POSTALCO:postalco.net

川上典李子 Noriko Kawakami

ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行なうほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp

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