おすすめ展覧会。話題の建築家集団と陶器のワークショップ。

資生堂ギャラリーで3月17日(日)まで開催中の、「アートが日常を変える 福原信三の美学 Granby Workshop: The Rules of Production  Shinzo Fukuhara / ASSEMBLE, THE EUGENE Studio Ⅱ」展。

残すところあと数日となってしまいましたが、ご覧になっていない方々には足を運んでいただきたいと思う、興味深い展覧会です。

190315-1.jpgPhoto: Ken Kato Photo courtesy of Shiseido Gallery

「アートによって、人々が日常に美しさをとりこむこと」という大切な考えを広く伝えた資生堂の、初代社長で資生堂ギャラリー創設者でもある福原信三さん。本展は、資生堂ギャラリー100周年を記念し、福原さんの美学を伝える「それを超えて美に参与する 福原信三の美学Shinzo Fukuhara / ASSEMBLE, THE EUGENE Studio」の第2弾となる内容です。

100年目を迎えるギャラリーに招かれたのがイギリス、リバプールを拠点として活躍する「グランビー・ワークショップ(Granby Workshop)」という点も本展の醍醐味。現代アートの展覧会として、他では実現しえないユニークな内容となっています。

190315-2.jpg資生堂ギャラリーにて。建築家集団アッセンブルのルイスとアダム(右から2人目、3人目)を含むグランビー・ワークショップのメンバー。左は資生堂ギャラリーの伊藤賢一朗さん。Photo: Noriko Kawakami

グランビー・ワークショップは2011年に始動しました。リバプール、グランビー地区での雇用と制作活動の促進など、同地区のたて直しをはかろうとする意欲的なとりくみを行うクリエイティブな住民のグループであり、セラミックメーカーでもある彼ら。

その活動のきっかけをつくり、中心となっているのが、2010年にロンドンを拠点に結成された若手建築家集団の「アッセンブル(ASSEMBLE)」です。

アッセンブルは、グランビー・ワークショップの活動が評価され、現代アートの担い手に授与される「ターナー賞」を2015年に受賞しています。若い建築家のコレクティブが美術界でも権威のあるターナー賞に輝いたことは、当然のことながら広く注目を集めました。私も彼らの活動がとても気になっていたひとりです。

190315-3.jpgグランビー・ワークショップの活動から。Granby Winter Garden Collage。屋根も失った状態で放置されていた住戸に手を加え、地域の人々のためのスペースとして再生。アーティストが滞在制作できる場所にもなっています。こうした彼らの活動詳細は本コラムの次回(後編)でご紹介します。Photo: Assemble

「日本の工芸は、日常に美しさを取り込む要素として、生活とともにある」。そう考えたアッセンブルのメンバーは、東京でグランビー・ワークショップを軸とした展覧会にあたり、陶芸に着目。こうして今年1月から2月、資生堂ギャラリーの一部は彼らの陶器ワークショップ(工房)となっていたのです。

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資生堂ギャラリーでのワークショップ風景です。昨年10月〜12月、サロンともなっていた展示台やテーブルが、陶芸の工房に活用されることになったのにも驚かされました。Photo: Ken Kato Photo courtesy of Shiseido Gallery

ギャラリーに運ばれたのは、陶芸で知られる栃木県益子町の土。ワークショップ参加者とともに、スリップキャスティング(鋳込み成形)による陶器制作がなされました。ここでつくられた作品は益子町へ。窯焼きがなされ、再び、銀座の資生堂ギャラリーへ。誕生したさまざまな陶器の作品を、資生堂ギャラリーで目にできます。

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私の写真からギャラリー内ワークショップの準備風景などを。6日間、こうした制作を含んだ展覧会。なんて興味深い! Photo:Noriko Kawakami

益子の土、益子の窯が選ばれたことにも大切な背景がありました。

多くの作家と交友があったことでも知られる福原信三さん。作家のひとりにはイギリスの陶芸家バーナード・リーチがいました。そしてリーチと親しかったのが、民藝運動にも関わった濱田庄司さん。リーチがイギリス、セント・アイヴィスに日本の伝統をふまえた登り窯をつくる際に尽力されている濱田さんが、帰国後、作陶を始めたのが益子町でした。

福原さん、リーチとのつながりのある土地の土、その土地の陶芸作家が有する窯が今回の陶器づくりに活かされています。

そう、背景となる長い時間やいまのイギリスでの若手建築家と周辺の人々の動き、さらには、時を超えて大切にされている「生活のなかの美学」が、このギャラリーでは出会っていました。それも、現代の、とても生き生きとした動きとともに……!

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作品の窯焼きがなされた益子にて。Photo:Courtesy of Shiseido Gallery

アッセンブルとグランビー・ワークショップが重視する手を動かしたものづくりについて、参加者とともにかたちにした陶器についてなど、さまざまな角度から目にでき、感じるところの多い展覧会です。1〜2月のワークショップの様子や、彼らが益子を訪れた様子も映像で紹介されています。ギャラリーでどうぞご覧ください。

生活のなかのアート、そして、アートが日常を変えることについて。アッセンブルとグランビー・ワークショップの考え方や活動が教えてくれるアート、デザイン、建築に大切なことについて、ひき続き次回、ご紹介します。

(後編に続く)

「アートが日常を変える 福原信三の美学 
Granby Workshop: The Rules of Production  Shinzo Fukuhara / ASSEMBLE, THE EUGENE Studio Ⅱ」


期間:3月17日(日)まで
www.shiseidogroup.jp/gallery/exhibition

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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