話題のデザイナーが手がける、ヴァレクストラの新コレクション。
デザイン・ジャーナル 2019.11.22
ヴァレクストラから今秋発表となったプロジェクト「フルート(FLUTE)」。ハンドバッグはもちろん、それ以外の品々も含んだ注目したいコレクションです。
デザインを手がけたのは、注目を集めるデザイナー、マイケル・アナスタシアデス。来日したヴァレクストラのCEO、サラ・フェレロとマイケルに、このプロジェクトについて聞きました。
ヴァレクストラのプロジェクトについて、サラが語ってくれました。「ブランドとして求めているものはもちろんありますが、デザイナーとの出会いもとても大切です。彼らとの会話からアイデアが生まれ、広がっていく。今回も同様でした」
「マイケルとは3年前に知りあい、友情を育んできた経緯があります。私は彼のデザインが大好きで、仕事をともにできることを長い間願っていました。こうして実現できたことは大変にうれしいことです」
「ヴァレクストラにおいて私自身が大切にしているのは美しさ、そして、純粋であるということ。これらを忘れることなく生まれるものこそが長く使われていく。ヴァレクストラの品々の上品さや洗練さは、時代を超えるものなのです」
「ハンドバッグやジュエリーのデザインを愛し、また尊重していくことで、さらなる美学を育んでいけたらと思っています。その想いは今回のコレクションでももちろん大切な考えとなっています」
左がヴァレクストラCEOのサラ・ファレロ。右がデザイナーのマイケル・アナスタシアデス。マイケルは地中海の国キプロスに生まれ、ロンドンを拠点として活躍中。東京ミッドタウンにあるヴァレクストラの店舗で。
隈研吾、ジョン・ポーソン、ロス・ラブグローブ、マルティノ・ガンパーなど第一線で活躍する建築家やデザイナーとともに商品や店舗デザインでの起用を続けているサラ。「爽快とも実感するほどに明晰な方々です。自らのアイデンティがあり、それをさらにしっかりと純化している。だからこそこそ純粋であり続けるみなさんです」
「誰に依頼するのか、その人選は“有機的”なときもある」そうですが、依頼するプロジェクト内容においては、CEOとしての一貫した考えを持っていました。
「その方がこれまでにおこなってきている内容をお願いすることはありません。また、ヴァレクストラにはクリエイティブディレクターをあえて置いていないのです。偉大なデザイナーや建築家の作品を、私たちが根本的な意味でキュレーションしていく。そのことを大切にしています」
「そして今回のフルートは、マイケルにとって初めてのバッグのデザインです。彼の眼によるバッグの解釈に期待しました。結果として表われる才能に興味があり、期待していたのです」
「デザイナーにとっても、私たちにとっても挑戦です。もっとシンプルな方法もあるでしょうね。でも、私はこの方法を大切にしたいんです。マイケルも、素材やフォルム、色彩、機能のすべてにおいてユニークなデザインを提案してくれました」
「フルート」。ウィンドウで目にできる照明器具はマイケルがデザインした「アレンジメンツ」。「照明とジュエリーの間に存在する関係性に常に魅了されてきた」と述べる彼らしく、空間を照らすジュエリーともいえるデザインでイタリアのフロスより発売。ヴァレクストラ六本木店のウィンドウでも11月末まで目にできます。
マイケルは、「ヴァレクストラはアイコニックなブランド」と目を輝かせながら語ってくれました。「イギリスのデザインスクールを卒業してミラノのヴァレクストラの店を初めて目にした時のことを覚えています。今回のプロジェクトに関われたことをとても光栄に思っています」
今回のコレクションでは、ヴァレクストラのハンドバッグ、「セリエ エス」の存在から始まっていました。デザインについてマイケルの言葉を紹介していきましょう。
「フルートは、1960年代のデザインを再解釈するプロジェクトで、そのプロセスはクラシックカーを新たにデザインするといった感じにも似ていました。従来のバッグのDNAやバッグに関わるボキャブラリーを受け継ぎながらも、新たな、そして現代的な方法で活かしていくことを考えたんです」
「これまでのプロポーションを細かく見直しています。できる限りシンプルなものにしたいと、ステッチも最小限に押さえています。目立ったジッパーを使用することも避けて、必要なものだけを残しました」
「フルート」コレクション。全6色。ミディアムサイズ¥478,500より。
なかでも特徴的なのは真鍮を素材とする円柱部分で、「フル-ト」の名もここからつけられています。ハンドルを固定し、バッグ本体にハンドルを固定する機能とともに、ミニマルな造形そのものにマイケルのデザインの魅力が凝縮されています。
さらには、円柱の上のハンドル部分にマグネットが内包されていて、長さのあるレザーストラップが美しい姿で留まるようになっていました。
「ストラップを無意識に置いても、この状態になります。ほらね」とその様子をくり返し披露してくれたマイケル。この状態で手に持った姿もまた美しい……!
「フルート」ジュエリーコレクション。
今回のコレクションには6種類のジュエリーも含まれています。ヴァレクストラのコレクションにジュエリーが加わったことも話題です。
「古代の造形に着想を得ていて、イヤリングはニューヨークにあるメトロポリタン博物館で目にした、古代キプロスの螺旋状のゴールドのイヤリングを出発点として現代的にまとめたデザインです。シンプルなネックレスは古代遺跡から発掘された円柱をイメージしています」
古代キプロスのオブジェに着想を得て、縦溝彫りの形状を活かしたというデザイン。写真はネックレスとイヤリング。ジュエリーコレクションは¥330,000より。
ブレスレットとリング。「必然性から生まれた品々の本質を理解したい。古代の品々や伝統的なデザインに目を向ける時、現代的だと感じるものに出合うことができる。時代を超えて存在する価値について感じる。ものの本当の価値は何であるのかを、僕たちは常に考えなくてはならないと思う」とマイケル。
「バッグやジュエリーと家具や照明のスケールはもちろん異なりますが、それぞれに人の身体、人の存在や動きにどう関わってくるのかに興味を持っています。プロポーション、造形の比率は僕にとってとても重要な点です」。そう語る姿から、ジュエリーのデザインも楽しんだ様子が伝わってきました。
ハンドバッグやジュエリーが置かれたテーブルを前に、サラが再び笑顔で語ってくれた言葉を最後に記しておきましょう。「マイケルの着眼点、コンセプトには驚かされてしまったわ」
「大切なのは、やはり美しさということ」とサラ。「ミュージアムやギャラリーなど特別な場所に置かれるのがふさわしいほど、美を備えたものに店頭で出合ってもらえる機会をつくりたいと私は思っています。マイケルのデザインは、あらゆる要素が完璧なバランスを保っていますね。すばらしい精度で仕事を進めていく姿勢、同時に彼のやさしさといった面もまた、コレクションを通してみなさんに感じていただけると思います」
ジュエリーが空間サイズになったような高さ280㎝のフロアライトも「フルート」コレクションのひとつ。こちらはオーダーメイド。
※この記事に記載している価格は、標準税率10%の税込価格です。