セキユリヲさんの『季刊サルビア』。
最新号は、スウェーデンのバンド
デザイン・ジャーナル 2010.06.03
3カ月ごとに発行されている『季刊サルビア』。セキユリヲさんが発行人と編集長を務める小冊子です。サイトウ・マコトデザイン室を経て独立したアートディレクターのセキさん。2001年には自身のブランド「サルビア」を設立しました。
季刊サルビアは1号につきひとつのテーマ。毎回、現場をきちんと取材しての記事が掲載されています。特集以外にも「工房見学」など、楽しい記事がいつも含まれていますが、先日手にした最新の17号、いつも以上に興奮してしまいました。特集は、「スウェーデン織りのバンドづくり」。
表紙をあけるとスウェーデンの民族衣裳が目にでき、「バンド」の写真が。シンプルな道具を用いた原始的な織り物のひとつ、バンド。糸をつかって細かな模様を織り、スカートやエプロンを巻きつける帯(おび)のように使われてきました。
じつはセキユリヲさん、昨年から1年間、スウェーデン、エーランド島にある手工芸学校、カペラゴーデンに留学中です。今号はその充実した日々をまさに伝えてくれる特集で、カード織りとコーム織りの2種類がイラストつきで紹介されています。
糸の通し方や織りの説明。織り方の図解の見方に不慣れな私にはまるでマジック。こうやって柄ができるんだ。へえ〜最初に考えた人はすごい、とただ感心。誌面に「カード織りはバイキング時代に隆盛をきわめた手法」とありました。歴史があるのです。スウェーデンで紙が貴重だった時代、正方形に切ったトランプがカード織りに使われていたそう。
余った糸も素材に、木製道具を手づくりしながら、つくられてきたバンドづくり。とりわけ寒い冬、温かい室内で人々はこうした手作業に没頭したのでしょう。記事を読み進めながら私は、小岩井農場のアートプロジェクトを手伝っていた何年も前、岩手で見せてもらった味ある裂き織りを思い出しました。大きなストーブの横に置かれていた、使い込まれた道具たち。小さな端切れも無駄にしない人々の姿がそこにはありました。
さて、季刊サルビアを読んでいて、家の中の手仕事を北欧で「ヘムスロイド(Home craft)」と呼ぶことも知りました。木材でつくるカトラリー、かご編み、皮革でつくった靴やバッグ。セキさんは書いています。「日本に戻ったら、いずれバンドづくりのワークショップなどを開いて、北欧のヘムスロイドの精神をお伝えしたいと考えています」
生活のなかの美意識、工夫から生まれた品々。その価値を理解する人々が私たちの身近にいてくれることで、私たちも奥深い世界を知ることができるのは、嬉しい。こうしたきっかけから、世界の様々な文化を背景とするものづくり、デザインのあり方に、これまで以上に興味をかきたてられます。セキユリヲさん、すてきな特集をありがとう。
サルビアの詳細は http://www.salvia.jp
セキユリヲさんのブログへのリンクなど情報満載です。
Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami