発見する眼。
シャルロット・ペリアンと日本

「日本の秋は甘美だ。」

「私は白い冬の東北地方が好きだ。寒さ除けの藁の帯に包まれてまっすぐに立つ木々。雪の厚い絨毯の下に呑みこまれ、木と藁で縁側を囲って閉じこもった家々......」
(『シャルロット・ペリアン自伝』みすず書房)

P1 kawakami1017.jpgシャルロット・ペリアン、銚子にて 1954、Photo: Jacques Martin
1998年にパリ、カルティエ現代美術財団での「ISSEY MIYAKE Making Things」展会場でペリアンさんの姿をお見かけしたことがあります。醸しだされる凛とした空気をいまも覚えています。

前回の文末でも少し触れたシャルロット・ペリアン(Charlotte Perriand)。1903年、パリ生まれ。1927年にル・コルビュジエのアトリエに入り、ル・コルビュジエや彼の従兄、ピエール・ジャンヌレらと制作活動を共にします。

パリ、セーヴル街のアトリエで、彼女の役割は「住宅設備」を手がけること。「ル・コルビュジエは私が家具に生命をあたえるのを、いまかいまかと待っていた」と自伝に。

かくして20世紀デザインを代表する名作の数々が誕生していきます。ル・コルビュジエやペリアンらが「クッション・バスケット」と呼んだクロームメッキ・フレームにクッションをはめこんだソファ(「グラン・コンフォール」)。フレームにぴんと皮革を張ったチェア、シェーズ・ロング(寝椅子)......。

P2 kawakami1017.jpg 「LC4」、ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレとのデザイン、1928年、カッシーナ社。Photo: Courtesy of Cassina ixc.

こうしたペリアン、日本との深い関係がありました。

ル・コルビュジエのアトリエから独立した後、アトリエで同僚だった建築家、彼女が親しみを込めて「サカ」と呼んでいた坂倉準三らの推薦をうけ、日本に滞在していた時期があるのです。商工省の輸出工芸指導顧問として来日したのは1940年のこと。

今年春のミラノサローネの際、イタリアのカッシーナ社からの商品化が話題となった竹製シェーズ・ロングは、この日本滞在時にペリアンが考えたものです。

すでに1928年にスチール素材で実現させているシェーズ・ロングを、今度は竹で試みてみるという柔軟で革新的な発想もさることながら、彼女の自伝で驚かされたのは、竹を曲げる手法を「竹の砂糖ばさみを見て」発想したということ......!

P3 kawakami1017.jpg 『竹製シェーズ・ロング』1941年。1985年再製作/Cassina(今年ついに製品化となったカッシーナの竹のシェーズ・ロングについては、後日改めて紹介しましょう)。
1940年代の日本滞在中、デザイナーの柳 宗理と精力的に全国に足を運び、柳 宗理の父で民藝運動の中心人物、柳 宗悦との交流もあったペリアン。京都の河井寬次郎、益子の浜田庄司にも会っています。

1年に及ぶこの滞在中、彼女は他にも多くの発見をします。自伝にも記されていて、ドキドキさせられる内容なのですが、畳や障子、襖について。木、和紙、鋳物について。藁を目にし、「とても美しい」と自身のデザインでの製作を行っていたり。

滞在の成果は1941年、髙島屋における展示として紹介され、前述の竹製シェーズ・ロングもそこで披露されたものです。後にも彼女は夫のジャック・マルタンや娘のペルネットと再来日(1952年)、日本での経験をふまえた展示が再び髙島屋で、「ル・コルビュジエ、レジェ、ペリアン3人展」(1955年)として開かれています。

P4 kawakami1017.jpg『オンブル(影)』。1954年、Photo: Shizuka Suzuki。日本の家具メーカー、天童木工でつくられていた時期も。以前に天童木工の工場を訪ねた際、職人さんが使い込まれたこの椅子で休憩していた姿を目にしたことがあります。なんて美しい光景、と思いました。

以前、ペルネット・ペリアン=バルサック、ジャック・バルサックの両氏から、ペリアンが石を収集していた話をうかがったことがあります。路上で出会った、いわゆるゴミのようなものをカメラで撮影していた話もうかがいました。

ふだん見すごされているものにも目を向け、新たな面を発見したり、生命を与える天才だったのだ、と知り、その瞳が日常的にとらえていたものがこれまで以上に気になりました。 どうしたら生涯その目を持ち続けられるのだろう......。

知るほどに興味深い人物、シャルロット・ペリアン。彼女の回顧展が今週末からはじまります。会場は、彼女と親しかった坂倉準三の設計、神奈川県立近代美術館 鎌倉。

ペリアンが再発見した日本の文化。伝統、受けつがれてきた手仕事を、次の時代に向けた生命あふれるものとしていくための試みの数々。時代が変わっても、私たちがじっくり考えなくてはならない課題があります。未来を考えるためにも大切な展覧会となるはず。

P5 kawakami1017.jpg パリ、ユネスコ庭園内のシャルロット・ペリアンの「茶室」、パリ、1993年。18 本の竹を活かして緑の「帆」をはった。生け花の背後の和紙には勅使河原宏氏による「飛」の文字が。Photo: Pernette Perriand-Barsac, Jacques Barsac
「LC4」以外の写真:All Rights Reserved, Copyright ©Archives Charlotte Perriand - ADAGP, Paris & SPDA, Tokyo, 2011. Photos: Courtesy of The Museum of Modern Art, Kamakura



「開館60周年 シャルロット・ペリアンと日本」
10月22日〜2012年1月9日まで
神奈川県立近代美術館 鎌倉
http://www.moma.pref.kanagawa.jp/index.html


Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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