うつわディクショナリー

うつわディクショナリー#46 村上雄一さんのお茶のうつわ、文化の国境を飛び越える

うつわディクショナリー

中国茶を知って広がったうつわづくり

さまざまな作風のうつわ作家さんが活躍する昨今ですが、村上雄一さんのように正統派な白磁を作る若手作家は意外に少ない。なかでもお茶のうつわは端正で美しく使い勝手も抜群、中国の茶人から個展のお誘いが相次ぐほど。
そんな村上さんは、焼物の歴史と現代の使い手の間にあるべきうつわにとことん向き合っていました。
 
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—村上さんが生みだす端正な白、精巧なかたちにひかれます。
村上:僕は、沖縄で焼物に出会いそのままやちむんの作家に弟子入りしました。その後、縁あって陶産地の岐阜県多治見市に移り住むのですが、そこで磁器に出会ってしまって。その面白さにのめり込みました。陶器の土より取扱いはしづらいと言われますが、僕には合っていたんでしょうね。磁器土に触れば触るほど、作りたいかたちや表現したい白がどんどん沸いてきたんです。端正なかたちにこだわりつつ、温かみのある白を出すことを心がけています。
 
—中国茶や煎茶のポット、茶杯、カップ&ソーサーなどお茶のうつわが多いのはなぜ?
村上:昔からお茶が好きで……。沖縄で弟子入りするにいたったきっかけは、高校卒業後に全国のものづくりの場所を旅したことだったんですが、その時もバックパックに焼物の急須と魔法瓶を入れて、歩く途中で各地のお茶を楽しんでいました。磁器に手応えを感じ最初に作ったのも特に好きな紅茶のポットでしたね。
 
—バックパックに急須を?! それに紅茶好きとは男子としては珍しい気も。
村上:祖母が茶道をしていたこともあり、思えば、各地のお茶やそのための道具はいつも身近にあったのかもしれません。好きが高じてお茶のうつわを作っているうちに、中国の茶人が気に入ってくれて個展のお誘いを受けるようになりました。これまでに上海、北京、洛陽、重慶、福州に行きましたね。
 
—本場、中国のお茶とは?
村上:僕が体験したことのある中国茶の作法は、茶葉の美しさを愛でるところから始まり、香りを楽しみ、味を尊ぶ。といっても、格式ばったものではなく気軽でとても楽しい。ひとつの茶葉で5煎くらい楽しめるのですが、驚くのは、いれるたびに香りも味も繊細に変わっていくこと。その微細な変化を表現できる茶器とはどういうものか。土も釉薬も日々研究して向上させています。
 
—日本の作家が作る中国茶道具は、デザインも質もよい上に釉薬や絵付けなど多彩な表現があって、昨今、中国の方からとても注目されていますね。
村上:たしかに日本人の技術や表現力は高いですが、中国にも素晴らしい作り手がいますし、焼物の本場だけあって景徳鎮など上質な土にも恵まれている。日本人があぐらをかいていてはいけないなとも思います。中国の茶人がいれるお茶の味や所作を記憶に刻みつつも、僕が大切にしているのは、あくまでも日本人として作るということです。分かりやすくいうと、まんじゅう、だいふく、おにぎり、だるまのような……。
 
—お、いきなりなんの話ですか?
村上:僕が作る茶壺(ちゃふう=中国茶のための小ぶりのポット)のインスピレーションであり、作品の名前でもあります。茶杯&茶托も朝顔のかたちを模していたり。現代の日本人に馴染みが深い意匠を注意深く拾い上げて、ものづくりの衝動にできたらと思っています。
 
—なるほど。では普段使いのお皿やボウルは、どのような衝動で作るのですか?
村上:最近取り組んでいるのが、飲食店などの業務用にも耐えうる強度を持つ「作家もののうつわ」です。スポーリング検査という主に大量生産の焼物の強度や耐火性を測定する検査を個人作家として申請して、試行錯誤の上、通過したシリーズ。食洗機や電子レンジ、オーブンで使用しても本当に安心なうつわです。こういうことにチャレンジする個人作家は他にいないかもしれません。でも普段使いのものについては、現代生活の中で使う時の不便をなくして、使い手の気持ちにとことん応えたい。うつわに興味を持った方が、いまの生活のまま、躊躇なく取り入れられるようにしたいと思っています。
 
—お茶のうつわも普段のうつわも、人に使われるものをとことん研究しつくすのですね。
村上:日本は、中国や韓国と並んで焼物の歴史の深い国ですから、大抵のかたちや技法はもう出尽くしている。大量生産のうつわづくりの仕組みも秀逸です。だからこそ、僕たちの世代は、先人が生み出した技法をよく学んで、作るものそれぞれに向いた技法は何かということにとことん向き合うことが必要なのかなと。そうやってよく見ていくと、まだ世の中にないものは存在する。ありそうでないものを作ることもできるんじゃないかと希望がわいてきます。
 
—村上さんの白磁に、正統派ながらぱっと光るものを感じる理由はそれですね。
村上:既存の技法やかたちに引っ張られず人に届くものを作るには、焼物以外の文化に触れることも大切だと思っています。いま一番興味があるのは、絵画などのアートや音楽の作り手の考え方や精神ですね。クラシックをベースにいまの音楽を作るとか、作り手のルーツをひもとくと、その分野以外から影響を受けていることもすごく多い。僕は、いまリュートを習っているんです。
 
—これまたいきなりリュートとは……なぜ?
村上:リュートは、中近東からヨーロッパに伝わり16〜17世紀に大流行した楽器ですが、ある時、繊細な音色にひかれてしまって。弾きながら当時の人のことを考えたりする。例えばフェルメールの絵に「リュートを調弦する女」という作品がありますが、絵画ひとつ見るにも想像力が無限に広がります。アイデアというのは、考えて出てくるものというよりも、ふと湧き出てくるものだと信じているので、陶芸以外のことにも興味を絶やさず、これだという直感が生じたときには、それにとことん素直に向き合ってものづくりをしてきたいと思っています。
 
※2019年3月18日まで「うつわ shizen」にて「村上雄一 陶磁展」を開催中です。
 
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今日のうつわ用語【中国茶道具・ちゅうごくちゃどうぐ】
茶壺(急須やポット)、茶筒、茶杯(茶を飲む杯)、聞香杯(香りを楽しむ杯)、茶托、茶盤(茶器を置いたり茶を注ぐ時の受け皿)、茶則(茶葉を置くもの)、茶針(茶葉をほぐしたり急須に入れる棒状のもの)、公道杯(片口、ピッチャー)、蓋置、土瓶(湯を沸かす)などがある。近年、日本の茶道のように道具組みや見立てを楽しむ茶人が増えており、焼物、木工、ガラス、金工など日本人作家によるうつわや道具づくりもさかんに行われている。
【PROFILE】
村上雄一/YUICHI MURAKAMI
工房:岐阜県土岐市
素材:陶器、磁器、半磁器
経歴:高校卒業後、日本全国の沖縄県読谷村の陶芸家・山田真萬氏に師事。その後岐阜県に移住し多治見市陶磁器意匠研究所で学ぶ。2011年岐阜県土岐市に工房を構える。1982年東京生まれ。

うつわshizen
東京都渋谷区神宮前2-21-17
Tel. 03-3746-1334
営業時間:12時〜19時
定休日:火曜日
http://utsuwa-shizen.com/
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『村上雄一 陶磁展』開催中
会期:2019年3/13(水)〜3/18(月)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

衣奈彩子

ライター、エディター
「フィガロジャポン」編集部を経て独立。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らしにまつわる記事を執筆。うつわと食を愉しむ提案をするUTSU-WA?主宰。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス刊)、『料理好きのうつわと片づけ』(河出書房新社刊)。編集した書籍に『どっちつかずのものつくり』(安藤雅信著・河出書房新社刊)。http://enasaiko.com

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