うつわディクショナリー#17 竹村良訓さんの感性、この世にひとつだけのうつわ

自分だけの一品を見つける喜び

陶芸家の竹村良訓さんは、花器もお皿もボウルも酒器も作るけれど、形と色の組み合わせにおいて同じものはひとつとして作らない。いつも発想を自由に、どんなものが人を楽しませるだろうかと想像力を膨らませてうつわ作りに取り組んでいる。そんな作品がずらりと並ぶ個展を訪ねました。
 
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—竹村さんのうつわは、このテーブル(「組む 東京」で開催中の作品展より)のディスプレイのようにインテリアとしても楽しみたいものですね。
竹村:うつわは使うことだけが目的ではないというか、テーブルやシェルフに置くときに、その配置や組み合わせを考える時間さえも豊かにできるものであって欲しいなと思っています。僕自身もあれこれ考えながら並べることが好きなんです。だから自然と花器や壺が多くなり、形もサイズもあえてばらばらに、さまざまな色の組み合わせを提案しています。
 
—もしかして、このディスプレイも竹村さんが?
竹村:そうですよ。グラデーションで並べたり、大小高さの違うものをランダムに配置したり、そういう時間は飽きないですね。
 
—どうして、このような作風になったんですか?
竹村:僕は、美大の陶芸部で焼物に出会い、大学院では文化財の修復を学びながら古陶磁の研究や復元に携わったので、陶芸を本格的に始めた当初は、伝統に即した焼物というか、渋いものを作っていました。そんな中、イギリスのルーシー・リーやスウェーデンのベルント・フリーベリの作品に出会って考え方の幅が広がりました。彼らは、釉薬の調合を研究し尽くして見たこともない美しい色を表現したり、同じものは作らないことを信条として既存の価値観に縛られず常に新しいことに取り組んだ。一生、研究の手をとめずにものづくりをした精神に影響を受けました。
 
—竹村さんも、ピンクとブルー、赤とグレーといった相反する色の釉薬を掛け分けるなど、思い切った表現をしていますね。
竹村:僕の作品はすべて一点ものです。その理由は手を動かすたびに新しい色や形を模索し自由な表現で作りたいから。常に変化していたいと思っています。そのひとつの形に対して似合うだろう色を選び、ひとつひとつ楽しみながら生まれたうつわなので、お客様にも楽しんで、気軽に使ってもらえたらいいと思っています。
 
— 一点ものというと自分だけのうつわという特別な感情が生まれますが、それを気軽に使って欲しいと聞いてなんだか楽しくなってきました。楽しい色味はどんな風に選ぶのですか?
竹村:掛け分けで釉薬をのせることが多いんですが、素焼きした白い生地を工房にずらりと並べて「上部にはこの色、下の方はこの色がいいかな」と服を着せるように色を組み合わせます。形を見ると直感的に色が浮かぶことが多いですね。手元に数十種類の釉薬の調合のテストピースを置いてひとつひとつ合わせていきますが、ブルーひとつとっても何種類もあり、色を掛け分けるとパターンは無限に広がります。
 
—作風を見ていると、子供の頃は、どんな少年だったのかと気になるのですが。
竹村:親が大工をやっていたので、作ることはとても身近でした。粘土遊びをしたり、ダンボールで何か作ったり。でも、すごく緻密に絶妙なバランスで組みあげたものを、作っては壊すということを繰り返していたような気がします。いま思い返すと、壊すことにカタルシスを感じていたような……。
 
—大人になったいまは、日本のうつわや陶芸の概念を壊しているのかも!?
竹村:うつわを通して、オリジナルな考え方を持つ人と繋がっていけたらいいと思っています。僕の作品は多くの人の心をとらえるものではないかもしれないですが、使ってくれる人とうつわ以外の部分でも言葉にならない感覚や価値観を共有できたらそれが一番嬉しいですね。
 
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今日のうつわ用語【掛け分け・かけわけ】
釉薬の掛け方の技法のひとつ。一面に同じ釉薬を施すのではなく、二種類以上の釉薬を部分的に掛け分けて発色や景色に変化を促す。釉薬は材料や調合の仕方により溶ける温度も溶け方も異なるため、掛け分けしたものは特に焼成温度や時間に気を配る必要がある。
 

相反する色味を組み合わせも竹村さんの手にかかるとこんなに上品に。花器¥17,280/組む 東京

ターコイズブルーとイエロー。色によって釉薬の溶け方がことなるためこうしたムラのある表情が生まれる。ボウル¥12.960/組む 東京

二色の釉薬をくっきりと掛け分けたマグカップは、使うだけで気持ちがアップ!マグカップ¥4,320/組む 東京

すべて一点ものだから、自分だけのひと品を見つけたいもの。花器¥5,400/組む 東京

墨絵のようなダイナミックな表現。大皿(径32cm)¥43,200/組む 東京

お猪口などに使えるけれど飾っておくだけでも十分愛おしい小さなうつわ。¥3,780/組む 東京

【PROFILE】
竹村良訓/YOSHINORI TAKEMURA
工房:千葉県松戸市
素材:磁器
経歴:1980年千葉県生まれ。武蔵野美術大学工業工芸デザイン学科で木工を専攻中にサークル活動で陶芸に出会う。その後、東京芸術大学大学院保存修復学科(工芸)修了。古陶磁の研究と復元に努めながら、現代陶芸の新しい表現を目指して日本の材料を用いながらどこのものでもないような作品作りをする。

組む 東京
東京都千代田区東神田 1-13-16
Tel.03-5825-4233
営業時間:12時30分〜19時
✳営業日はイベントによって異なるのでHPをチェック ✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを http://www.kumu-tokyo.jp


『竹村良訓 作品展』開催中
会期:10/13(金)〜10/21(土)
営業時間:12時30分〜19時(金曜日〜21時)
定休日:10月17日(火)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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