うつわディクショナリー

うつわディクショナリー#24 強く静かなる橋本忍さんのうつわ

うつわディクショナリー

注ぐうつわが生み出す時間の美

好きなものは、ロックとバイクとレザージャケット。
硬派なイメージの陶芸家・橋本忍さんは、自分の信じた表現をまっすぐにつきつめて、うつわという道具に、時間というもうひとつの美を閉じ込めていく。
 
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—ポット、急須、片口、とっくり、橋本さんの作品は注器に特徴があります。
橋本:片口は口をすっと長く先端に近づくにしたがって細く、急須は口の形に気を配って作ります。口作りを意識することで液体の流れ方や、人の所作まで変わってくる。すると注ぐという行為に意味のある時間が生まれるんです。形や質感という美しさとは別の「時間」というもうひとつの美しさのベクトルをうつわに加えたいと考えています。
 
—うつわは、時間も作り出すことができる、いいですね。
橋本:うつわは料理の脇役だけれども、料理の周りの環境をつくるものでもあるわけですよね。環境を作るものとして、こうあってほしいというところから形を導き出しているかもしれません。
 
—ということは、フォルムはかなり計画的に作っていくのですか?
橋本:ゴールとなる形や質感を想像して、そこから綿密にというか、着々とさかのぼって考えて、目の前にある粘土に向かって手を動かすという感じです。ハプニングはほとんど期待していません。制御しやすい電気窯を使っているというのもありますけど、自分で信じたものを、自分なりの考え方と技術の裏付けのもとに作っていくわけだから、99パーセント、コントロールして作っている感覚はありますね。
 
—代表作の皸化粧(ひびげしょう)や皸黒(ひびくろ)という名の作品をはじめ、錆黒(さびくろ)、赤鋼(あかがね)と金属のような質感で素敵です。
橋本:ひび化粧は、作家として活動しようと決めて初期の頃に取り組んだ作品。ひび黒は、それと同じようなひび割れに見えて、そこから5年かかってようやく表現できた質感です。それ以来10年以上、おなじ作風をやり続けています。ゴールドの流れがあるものは、マンガンという金属を混ぜた釉薬です。液体をいれるとよりキラキラと輝きます。
 
—つきつめて到達したものなのですね。
橋本:人が手作りのうつわに求めるものは、なんといっても個性だと思うんです。そうでなければ、工業製品の食器でこと足りるわけで。そこに答えるために橋本忍として信じるものだけを作ろうと思った時に、質感やラインに無駄がなく飾り気のないもの、かといって、さらりとしずぎていないものがいいと思うようになりました。シンプルな中に自分としての足跡は残したいですね。うつわがすごく好きなんですよ。脇役であるうつわに、どう自分を入れていくか、常に考えています。
 
—だから、他にはない作品になっています。
橋本:それが、他にはないものを作ろうと思って取り組んだこともないんですよね。美しいものをつきつめた結果できたものであれば、他にあるものになっても、自分のものだと自信を持って言えるんだと思います。
 
—どんなものを作りたいと思っていますか?
橋本:強く、静かなものかな。表現はあるけれど奇をてらわない普通のもの。うつわってそこにあるだけで、人が喜んでくれるものだと思うんです。おいしいものを食べた時、それをうつわのおかげと思う人は少ないかもしれないけど、そこには必ずうつわがあって、喜びを生み出す要素の一つになっている。気づかれず名もないけど、確実にそこにあるなにげなさ。そういう存在でありたいですね。こうやって個展で見てもらうのももちろんいいですが、雑誌やCMでクレジットもなく自分のうつわが使われているのを見るのが、一番好きかもしれません。
 
※2018年2月13日まで「うつわ謙心」にて「橋本忍展」を開催中です。
 
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今日のうつわ用語【片口・かたくち】
口縁の一部に注ぎ口のついたうつわ。鉢や壺にも見られるが、酒などを注ぐ注器が一般的。フォルムに作り手の個性がでて見た目も美しいので、料理を盛り付けるのに使われることも多く人気の高いアイテム。
【PROFILE】
橋本忍/SHINOBU HASHIMOTO
工房:北海道札幌市
素材:陶器
経歴:1969年東京生まれ。10歳の時、北海道に移住。20代はバーを営む。焼物屋をやっていた父の仕事を体験したのがきっかけで陶芸を仕事にしようと決断。2003年より作陶を始める。
http://hashimotoshinobu.com

うつわ謙心
東京都渋谷区渋谷2-3-4スタービル青山2F
Tel. 03-6427-9282
営業時間:11時〜20時
定休日:水曜日
http://www.utsuwa-kenshin.com
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『橋本忍展』開催中
会期:2018年2/8(木)〜2/13(火)
*会期中無休

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

衣奈彩子

ライター、エディター

「フィガロジャポン」編集部を経て独立。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らしにまつわる記事を執筆。うつわと食を愉しむ提案をするUTSU-WA?主宰。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス刊)、『料理好きのうつわと片づけ』(河出書房新社刊)。編集した書籍に『どっちつかずのものつくり』(安藤雅信著・河出書房新社刊)。http://enasaiko.com

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