うつわディクショナリー#33 素材の面白さをかたちに、西山芳浩さんのガラス

ガラスが持つ特性をかたちに残して

西山芳浩さんは、江戸〜明治時代に作られたガラス器にインスピレーションを受けながら、ガラスという素材だからこそできるうつわを探り続ける。西山さんの心にとまるガラスの特徴を聞いてみると、その作品の美しさの秘密がわかりました。
 
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—西山さんのガラスは、まるで氷のかたまりのようです。
西山:ガラスという素材のどういう部分が自分にとってグッとくるかを考えた時に、こういうものができました。ガラスは、液体から固体に変わる素材ですよね。熱されて液体になると流動的になり、少し冷めるとトロリと艶かしい。完全に冷えて固まるまでの間は、内側にぐっと熱を蓄えて赤く光っていたりする。ガラスという素材がみせる「地熱」といったらいいかな、そういうものを殺さずにかたちにしたいと思うんです。
 
—透明で涼しげなのに、作る時は熱々。考えてみれば魅惑的な素材ですね。
西山:ガラスは古代エジプト、メソポタミアに始まったと言われますが、最初にガラスの素材を壺か何かに入れて熱を加えて溶かし、穴の空いた棒で巻き取って、息を吹き込んだ人がいたということがすごいと思うんです。のちに吹きガラスと呼ばれるこの技法は、竿を回す遠心力で丸くなり、吹くことで中空になって内と外ができる。うつわを作るのによくできた技法でもあります。
 
—瓶型の花器が豊富ですね。
西山:僕が意識しているのは、江戸〜明治の日本のガラス器が持つ雰囲気です。この時代、急激に西洋化した日本では、薬瓶などにガラスが使われ大量生産となりましたが、いまのように工業生産ではなく、すべて職人の手作りでした。彼らはとにかく早く、たくさん作らなくてはいけなかったから、綺麗なものを作ろうという意識はなかったはずです。だけどその分、手の動きから偶然にできたラインがある。瓶型の花器の内側の空洞は、空気を入れた時のかたちをを生かしているのでものによって違います。手の勢いや偶然性によってできたいいかたちに、僕は魅力を感じるんです。
 
—薄手のグラスは、口縁がギザギザしていますが、これもその時代の特徴ですか?
西山:江戸時代のグラスを参考にしていますね。口の部分をカットした後、滑らかにすることもできるはずなのですが、当時は技術的にそれが難しかったのか、もしくはあえて残したのか、いずれにしても、そのままにすることを選んだ。偶然であり必然のギザギザなのだと思います。一見粗野に見えますが、そうしてあまり手を加えすぎず仕上げることも、僕にとっては、ガラスの素材感を生かす表現のひとつなんです。ガラスを吹き、型にあてて成形する型吹きの技法で成形しています。
 
—新しい作品が生まれるのは、どんな時ですか?
西山:吹きガラスは、作っている最中にめまぐるしく形が変わっていくものですが、そういう中にも、ほんの一瞬、すごくいいかたちが現れる時があるんです。作業の9割はいつものルーティーンなんですけど、ふとした時に見つかるかたちがある。それをクローズアップして作品に生かしていきますね。瓶の首の部分の形状や肩の張りなんていうのは、手を動かしながら、目で見つけた気づきから生まれたものなんです。
 
—どんなものを作りたいと思っていますか?
西山:江戸時代に高級品だったガラスは、明治に入ると量産ものが増え、70年代には工房形式で制作するスタイルのスタジオガラスというものが海外から入ってきて、そうこうしているうちに工業製品のガラスも多くなりました。ガラスとはなんとも数奇な歴史を持つ素材なんです。だからこそ、私なりにガラスの魅力を生かしたものをいまの時代に作りたいと思います。僕は、吹きガラスの工房からスタートした技術者なので、素材感を大切に。ドキッとするガラスの面白さを見つけて作品に生かしていく。そういうものを見て同じようにドキッとして、使ってくれる人がいたら嬉しいと思って作っています。
 
※2018年7月16日まで「BLOOM&BRANCH AOYAMA」にて「西山芳浩 その先に見えるもの」を開催中です。
 
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今日のうつわ用語【型吹きガラス・かたぶきがらす
溶解したガラスを竿に巻きつけて息を吹き込みながら成形する吹きガラスの技法のひとつ。木型や金型などにガラスの種を吹き込んで成形する。吹きガラスには他に、専用の作業台の上でコテなどを使い自由に成形する宙吹きがある。
【PROFILE】
西山芳浩/YOSHIHIRO NISHIYAMA
工房:石川県金沢市
素材:ガラス
経歴:函館、長野のガラス工房勤務を経て、2004年金沢の卯辰山工芸工房研修生となり素材としてのガラスへの興味を深める。金沢牧山ガラス工房を経て独立。1979年生まれ

BLOOM&BRANCH AOYAMA
東京都港区南青山5-10-5 第1九曜ビル101
Tel. 03-6892-2014
営業時間:11時〜20時
定休日:会期中無休
http://bloom-branch.jp/
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『西山芳浩 その先に見えるもの』開催中
会期:2018年7/7(土)〜7/16(月・祭)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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