うつわディクショナリー

うつわディクショナリー#50 好きなうつわに合わせたい竹俣勇壱さんの金属作品

うつわディクショナリー

本当の使いやすさって何だろう、から考えるものづくり

お気に入りのうつわが揃ってくると合わせる道具にもこだわりたくなる。そんな時、彫金師の竹俣勇壱さんが作るトレーやカトラリーがちょうどいい。なぜなら、ヨーロッパのアンティークを手本に、日本人にとって使いやすいかたちのバランスを導き出しているから。ものに恵まれたいまの時代に欲しい使いやすさとは?  竹俣さんの考え方を聞きました。
 
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—竹俣さんのカトラリーやトレーは、アンティークのようなシェイプですが、口に入れたときの感じは古いものを使った時とすこし違って、スムースで気持ちがいいです。
竹俣:このように持ち手の中心がV字に立ち上がり、先端が内側に反り上がったシェイプは、カトラリーの定番ともいえるデザインで、1700年代頃にヨーロッパで生まれ、時代に合った材料や製法によって受け継がれてきました。日本に伝わったのは明治に入ってからですが、そんな日本人がはじめて触れたカトラリーのようなノルタルジックな雰囲気は残しつつ、現代人の食べ方に合うように、口に触れる部分のサイズとかたちに、特に気を配っています。
 
—具体的には、どのようにサイズをわり出したのですか?
竹俣:ヨーロッパのスプーンは、料理をすくう部分がとても大きく感じられます。でも日本人と欧米人は体格こそ違いますが、口の大きさにはさほど違いがないのではないかと思ったので、レストランに通って、食べ方の違いを観察してみたんです。すると日本人は、スプーン全体に料理をのせて、すくう部分のほとんどをを口の中に入れて食べる。反対に欧米人は、スプーンの先で料理をすくって、そこだけ口に入れて食べることに気づきました。そこで、すくう部分を少し縦長にして、日本人の食べ方にあうよう工夫し、フォークやナイフはそれに合わせてサイズを割り出していきました。
 
—日本にはいくつもカトラリーメーカーがありますが、竹俣さんのものは、そういった工業製品とは違う佇まいがあります。
竹俣:工業製品と同じところは、ステンレスを材料にしていること。違うところは、一本一本、人の手で磨き仕上げていることです。アンティークのシルバーウェアに憧れる人は多いと思いますが、実際は、重くて変色もしやすく、こまめな手入れも大変なのかなと。現代生活に合うカトラリーを作るという時に、経年変化がなく丈夫なステンレスは魅力的でした。だけど、僕は、シルバーの使い込んだ雰囲気も好きなんですよね。そこで、金属加工の技術の高い新潟県燕市の工場で鍛造(たんぞう)し、磨きなど仕上げの部分を僕の工房で手で行うことを思いついたんです。
 
—工房で手磨きをするから、使い込んだような独特な風合いを出すことができるんですね。
竹俣:工場で最後まで作るとどうしても均一なものになってしまいます。かといってすべてを手でやろうとすれば、膨大な時間がかかる上に少量しか作れません。工業と手仕事、どちらかに偏るのではなく、それぞれが得意な作業を、適切な工程で発揮することで自分が作りたいものを作っています。
 
—「得意な」ことを「適切な」場面でというのは、とても自然な発想ですね。
竹俣:工業と手仕事を織り交ぜることで、いいものを適切な価格で提供できるならそれが一番いいですよね。カトラリーでいえば、一般的には「角がとれていて軽いもの」が使いやすいとされていると思います。そして、それは工業的に作りやすいものでもある。でも、実際は、アンティークのようにある程度重さがあったほうが、しっくりと手に馴染んだりする。「効率がよいこと」や「使いやすさ」が本当に必要なのかどうかというのをよく考えて作ることは、日頃から意識しているかもしれません。
 
—ジュエリーデザイナーからスタートしたことも、生活道具の捉え方に影響していますか?
竹俣:ジュエリーは、着飾るためのもの。基本的には見た目の美しさが大事です。肌に触れた時に気持ちがいいというのはあっても、機能をもとめるものではない。僕は、車やバイク、自転車もとても好きなんですが、その理由も、パーツなど構造がむき出しに見えているのにすごく綺麗だからなんです。
 
—竹俣さんにとっては、見た目が美しいことも、使いやすさのひとつということ?
竹俣:生活道具を作る時は「使いやすさではない、使い心地」のようなものを大切にしたいと思っています。古いものが持つ雰囲気が好きですが、それを写すだけでは、いま作る意味はないと思うんです。工業も手仕事も成熟したいまだからこそ、100年前のもののようでいて100年前にはできなかった、使い心地のいいものを作っていきたいですね。
 
※2019年6月2日まで、表参道の「水金地火木土天冥海」にて、竹俣勇壱さんの金属、安部太一さんの陶器、平井かずみさんの花による展示会「食の道具、触の道具」を開催中です。
 
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今日のうつわ用語【鍛造・たんぞう】
金属を熱し、プレスやハンマーなどで力を加えることによって塑性変形させ、所定のかたちを作ること。
【PROFILE】
竹俣勇壱/YUICHI TEKAMATA
工房:石川県加賀市
素材:ステンレス、真鍮
経歴:1995年彫金を学び始め2002年独立。オーダージュエリーを中心に活動。塗師・赤木明登さんからの依頼で茶道具を作ったことをきっかけに2007年生活道具の制作をはじめる。金沢にアトリエ兼ショップ「KiKU」、「sayuu」を持つ。1975年生まれ。https://Kiku-sayuu.com


水金地火木土天冥海
東京都渋谷区神宮前5-2-11 3F
Tel. 03-3406-0888
営業時間:11時〜19時30分
定休日:2019年6月より毎週水曜
https://www.hpfrance.com/stores/suikinchikamokudottenmeikai
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『食の道具、飾の道具』開催中
会期:2019年5/17(金)〜6/2(日)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

衣奈彩子

ライター、エディター
「フィガロジャポン」編集部を経て独立。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らしにまつわる記事を執筆。うつわと食を愉しむ提案をするUTSU-WA?主宰。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス刊)、『料理好きのうつわと片づけ』(河出書房新社刊)。編集した書籍に『どっちつかずのものつくり』(安藤雅信著・河出書房新社刊)。http://enasaiko.com

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