うつわディクショナリー

うつわディクショナリー#51 神聖な時間を大中和典さんのうつわととともに

うつわディクショナリー

 

静かに輝く金属器のようなうつわ

陶芸家・大中和典さんの作品は、祭器のように神聖。
部屋のコーナーを美しく整えて、そっと置いてみたくなる佇まいを持つ。
やがて、いつもの生活が、静かに、ゆったりと変化していく。
 

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—大中さんの作品は、どこか神聖な佇まいを持っていますね。
大中:僕は、陶芸で自分の作品を作っていこうという時に、日常使いのうつわを否定することから始めてみようと思ったんです。かといって用途のないオブジェということでもないのですが、毎日手にとるものにはこだわりませんでした。身体からすこし離れたところに置いて、ゆっくりと眺めたり、飾ったりすることで、気持ちが静かになるような陶芸もあっていいのではないかと考えたんです。
 
—それはなぜですか?
大中:中国などアジアの古物が好きなんです。静かな佇まいを持つ祭器のようなものにひかれるというのが大きいかもしれません。
 
—活動する山口県には、茶陶で知られる萩焼もありますね。影響は受けていますか?
大中:暮らしている僕たちにとっては、茶陶としての萩焼よりも、湯飲みや皿など日常使いの萩焼のほうが身近ですね。職人仕事の焼物を生活の中で使うことは、幼いころからとても自然なことでしたが、陶芸として意識することはなかったです。
 
—ではなぜ、陶芸を始めることになったのですか?
大中:山口のとあるギャラリーで、伊藤慶二さんという岐阜県の陶芸家の展示を見て衝撃を受けたのがきっかけです。そこには、うつわだけでなく、まるで土の塊のような板皿やオブジェなど、アート作品のような焼物から書道の硯まで、さまざまなものがありました。でもそれらはすべて一人の陶芸家が作ったもので、かつ、どれも土からできている。陶芸ってこんなに幅のある表現なんだって感動したんです。
 
—何とも思っていなかった陶芸の世界が、一気に魅力的に見えた?
大中:その頃は、会社員だったんですが、すぐに陶芸教室に通うほど興味を持ちました。ところが、週に一度の教室では、ひとつ完成させるのに2〜3ヶ月もかかってしまう。これでは埒があかないと自宅にろくろを購入してしまいました。それから4年ほど、会社から帰ると、とにかくろくろをひいていましたね。
 
—4年間ずっと自宅でろくろを?
大中:理想のかたちにろくろをひいては崩す、というのを繰り返していました。4年経ってやっと窯を手に入れて、数十種類の釉薬のサンプルを焼いた時に、静かな中にはっとする美しさのある金属系の釉薬に出会いました。
 
—何年もろくろに没頭したから、金属のように薄く仕上げることができるんですね。祭器のような作品は、部屋におくだけで時の流れを変えてくれるような気がします。
大中:暗がりのなかで深い光を放つ金属のような表現をはじめ、今回の個展では、漆器のような釉薬表現も試みました。焼物でこんなこともできるの?と見る人を驚かせたいという気持ちがありますね。
 
—金属が経年して朽ちて、欠けたり穴が空いたような作品には、確かに驚きました。
大中:鉢物のふちの欠けや穴は、どこに入れるか位置をほぼ決めていて、僕のサインのようなものになっています。
 
—「大中和典のもの」と誰もが認識する作風が確実に残っていっているんですね。なかでも茶道具は、使い勝手がいいと本場中国の茶人からの評価も高いですね。
大中:茶道具は、いま個展をしている「うつわ謙心」さんからの要望で10年ほど前に作ったのがきっかけで、それ以来、自分でも頻繁にお茶をいれるようになりました。釉薬やデザインで楽しませるのはもちろん、茶壺や蓋碗の持ちやすさ、茶海の注ぎやすさなど、細かい使い勝手に心を配っています。
 
—どんなものを作りたいと思っていますか?
大中:ろくろをひいて、いいラインが描けたり、思っていた釉薬の色や質感が出た時には、展示会に出品するのが惜しくなるんです。そんな風に手放したくなくなるほど、納得がいくものをお客様に手渡していきたいと思っています。
 
※2019年5月28日までうつわ謙心にて「大中和典展」を開催中です。
 

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今日のうつわ用語【祭器・さいき】
神や祖先をまつる祭祀に用いるうつわや道具のこと。
【PROFILE】
大中和典/KAZUNORI OHNAKA
工房:山口県美祢市
素材:陶器、磁器
経歴:会社員の頃にほぼ独学で陶芸をはじめ、2000年から作品制作を始める。2005年工房を開き独立。2007年初個展。
https://www.kazunoriohnaka.com

うつわ謙心
東京都渋谷区渋谷2-3-4スタービル青山2F
Tel. 03-6427-9282
営業時間:11時〜20時
定休日:水曜日
http://www.utsuwa-kenshin.com
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『大中和典展』開催中
会期:2019年5/23(木)〜5/28(火)
会期中無休

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

衣奈彩子

ライター、エディター
「フィガロジャポン」編集部を経て独立。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らしにまつわる記事を執筆。うつわと食を愉しむ提案をするUTSU-WA?主宰。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス刊)、『料理好きのうつわと片づけ』(河出書房新社刊)。編集した書籍に『どっちつかずのものつくり』(安藤雅信著・河出書房新社刊)。http://enasaiko.com

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