うつわディクショナリー#68 もっとも新しい備前焼、森本仁さんのうつわ

私たちにちょうどいい備前焼

日本を代表する焼物のひとつ、備前焼を生業とする家に生まれながら、大学では彫刻を学び、弟子入りは美濃の陶芸家のもとへ。外の世界を経験して地元に戻った陶芸家・森本仁さんが作る備前焼は、モダンで軽やか。いますぐ触れたい!
 
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—備前焼と聞くと土の力強さを感じる大きな壺や重厚な食器を思い浮かべるのですが、森本さんのうつわは、モダンで軽やか。正統さと最先端を併せ持つところにひかれます。
森本:土は備前のものを使いますが、かたちは「これまでの備前焼だけにとらわれずに」と思っています。例えば、輪花のお皿は、磁器の世界では古くから作られていたものですが、備前の陶器にはあまりありませんでした。花器についても古代の美しいかたちのものにインスピレーションを受けますし、和洋問わず、伝統的なかたちを取り入れることもあります。発想の転換で歴史ある備前焼をいまの時代に合うものにできたらと思っています。
 
—そう考えるようになったのは、なぜですか?
森本:東京の美大に進学して彫刻を学んだ後、美濃の陶芸家・豊場惺也先生のところでお世話になることになりました。衣食住を共にする生活の中で学んだことが大きく影響しています。一度、備前を出ていろいろな経験をしたことで、いままで気づかなかった備前焼の優れているところをさらに感じられるようになりました。
 
—改めて、備前焼とはどんな焼物なのか、教えて下さい。
森本:岡山県備前市周辺から採れる土を原料とし、釉薬をかけない焼締めの陶器です。薪窯での焼成により様々な変化が現れます。
 
—備前の土にはどのような特徴があるのですか?
森本:一般的に田土を中心とした備前の土は緻密で、単体で強く焼き締まります。それゆえ釉薬を掛けずとも強度を持ち、さらに薪窯で焼成することにより、特徴的な変化が現れやすいと思います。その変化を生かした迫力のある食器は以前よりありますが、自分が普段使ってみたいと思うような、現代の食卓に取り入れやすい備前焼は少なかったように思います。
 
—現代の食卓やインテリアに合うといえば、白いうつわのシリーズ「白花(しらはな)」がありますね。これも備前の土を使っていると聞いて、正直、驚きました。
森本:「白花」は、備前土にあえて変化をつけず焼き締めることを目指して制作したオリジナルのものです。名前は伝統色の白花色(しらはないろ)からとりました。原土の特徴を生かすことにより、様々な表現ができるのではないかと思い、その一環として取り組んでいます。
 
—同じ土でも、焼き方の違いで白や茶色になるとは!  
森本:薪窯だけでも様々な色を出すことができますが、白いものが加わることで、さらに備前の土の多様な表現ができたらと思います。その結果、うつわとしての用途や生活に溶けこむものとして選択肢が増えるといいなと思います。
 
—インスタグラムでは、日々、野花や茶花を作品に生けて公開していますね。花のためのうつわに対する思いを聞かせてください。
森本:華道を体系的に学んではいません。ただ、子どもの頃から母が家に花を絶やさない生活をしていたので、その影響もあるかもしれません。自分で生けるようになると、うつわの持つ陰影に気づくようになり、うつわと花によって空間を作ることが楽しくなりました。
 
—うつわがおりなす陰影というと?
森本:焼締めのうつわは、光源によって見え方がとくに変わる焼物だと感じます。光を反射することもあれば、光を吸い込んで周囲をしっとりと落ち着いた雰囲気にすることもある。うつわによって空気を変えることができると感じ、空間から想起して形を考えることも増えました。「白花」は特に陰影が出やすいので、光との関係性を考えて制作することも多いです。
 
—どんなものを作りたいと思っていますか?
森本:花を飾るようになったのは、茶道の稽古を続けていることも影響しています。生けるのは、おもに家の庭にある身近な草花です。お茶も花も生活の中に溶け込んでいるので、自然と気持ちが向かい制作意欲も掻き立てられます。生活の中から触発されるものが自分にとってはとても大きく、刺激がありますね。そこで感じたものを自分のフィルターを通して制作していけたらと思っています。
 
※2020年6月10日まで銀座日々にて「森本仁 作品展」を開催中です
 
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今日のうつわ用語【備前焼・びぜんやき
岡山県備前市一帯に古窯跡が広がる中世から現代に続く六古窯のひとつ。土味のある焼締め陶で知られる。中世にには甕や壺などのほか、茶壺や花瓶など茶道具も製作し室町時代には侘び茶に従った茶陶を作り上げた。
【PROFILE】
森本仁/HITOSHI MORIMOTO
工房:岡山県備前市
素材:陶器
経歴:備前焼を家業とする家に生まれる。東京造形大学卒業後、美濃の陶芸家・豊場惺也氏に師事。2003年独立、備前にて作陶を始める。1976年生まれ。

銀座 日々
東京都中央区銀座3-8-15 APA銀座中央ビル
Tel. 03-3564-1221
営業時間:12時〜19時(展示会最終日は17時まで)
定休日:会期中無休
https://ginza-nichinichi.co.jp/
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『森本仁 作品展』開催中
会期:2020年6/5(金)〜6/10(水)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

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