うつわディクショナリー#69 涼を呼ぶ、新道工房の染付&色絵のうつわ

絵柄を楽しみながら使いたい、夏向きのうつわ

夏を感じさせるうつわといえば、さわやかな青が綺麗な染付。そんな染付の他、色絵、白磁など磁器を制作する新道工房は、愛知県瀬戸市の新道町で、陶芸家の宮本茂利さん、智子さんが営む工房です。開催中の個展には、ストーリー性のある絵柄が楽しい新作から買い足しのできる定番までわくわくする作品が並んでいます。宮本茂利さんにお話を聞きました。
 
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—宮本茂利さんと智子さんご夫婦が陶芸を始めたきっかけは?
宮本茂利:自分は、父が転勤の多い仕事についていたので子供の頃から日本各地を転々としてきました。焼物好きな両親なので窯元を訪ねることも多く、引越しの度にその土地に根ざした陶磁器が食卓に加わっていくような家庭でしたね。一方、妻の家では、普段から骨董のうつわに親しんでいたようです。そういうことが影響しているのか、ふたりとも陶芸の道を選び、瀬戸の窯業訓練校で出会うことになるんですが、卒業後もお互い石川県の九谷焼の産地で下積み時代を送るなど、自然と磁器の道に進むようになりました。おもに自分が企画、デザイン、成形を、妻が絵付けを担当しています。
 
—染付、色絵の磁器を作るにあたっては、中国陶磁など骨董を写したり、インスピレーションを受けることが多いのではないですか?
宮本:中国ひとつとっても時代ごとに趣向の違う焼物が生まれてきた背景には、その土地の生活文化や政治体制など、土着的なものが影響を与えているのがいいなと思うんです。自分たちが作るものも、いまを反映しながら時代を超えていくとしたらやりがいがある仕事だなと思うようになって、絵付け磁器を追求していくようになりました。中国のものに限らず、古九谷や古伊万里を写すこともあります。
 
—とくに好きな時代や様式はありますか? 
宮本:中国の宋(960〜1279年頃)と明の時代(1368〜1644年頃)でしょうか。時代が離れていて作風も違いますが、どちらも好きなんです。
 
ー宋の焼物は、薄くてすっきりとした造形の青磁や白磁で単色。明の焼物は、華やかな造形と藍色の染付や色鮮やかな色絵。確かに趣きが違うふたつです。
宮本:絵付けをするにしても、キャンバスとなる白が美しくかたちがよくなければ映えないですし、食卓を考えても、色ものとシンプルなものが混在してこそ豊かになる。このふたつの時代が、現代の自分たちから見て魅力的な理由はそこにあるのかなと思います。
 
—新道工房といえば、唐子人形(中国風の髪型や服装をした子供)をあしらったうつわや唐子が寝ころんでいる箸置きが人気ですが、これも中国の焼物の影響ですね。
宮本:陶枕(とうちん)といって唐〜宋時代の陶磁器製の枕に、唐子が寝転んでいるかたちのものを見つけて、箸置きとしてかたちを写したのがはじまりです。その後、小さな唐子人形をお皿やレンゲの上で自由に遊ばせてみたらストーリーが生まれて。お客様も喜んでくださるのでバリエーションが増えていきました。新作の細長いお皿は船に見立てて、水面を覗き込んだり、船から落ちそうになっている唐子をあしらっています。
 
—向付のかたちや絵柄のバリエーションも魅力的です。
宮本:向付とは、懐石料理の折敷の上で飯碗と汁椀の「向こう側」に置かれることからその名がつきました。料理が進むと同時に焼物など大皿から取り分けた料理をのせるための皿でもあることから、折敷の上に長く置かれます。その分、先人たちは、想像力をかきたてる絵柄や縁起のよいモチーフ、5枚揃いのうち一部だけ絵が異なるなど、趣向を凝らした楽しい仕掛けを施してきたんです。懐石料理では、最後に高台や裏を鑑賞しますので、それも含めてどんな仕掛けをしようかと、作っていて楽しいうつわでもあります。
 
—染付、色絵というとハレのイメージもありますが、新道工房のものは唐子の動きが可愛らしく、そのおかげでリラックスして使えるところが親しまれる理由なのではないかと。
宮本:自分たちが作るのは磁器ですが、食卓では、土ものも絵付けも混ぜこぜで自由にゆったりと楽しんでいただきたい。懐石料理のうつわ使いを見ても、色絵と焼締め、現代ものと骨董など、極端に異なるものを組み合わせるのは日本のうつわ文化の特徴のひとつです。そのなかで絵付けの食器は「この絵は何を意味するのだろう」とか「これはどんなシーンなんだろう」というように、想像が膨らむものでもある。料理を引き立てるだけでなく、うつわが会話をうながすような、食卓を楽しくするものを作っていきたいと思っています。
 
※2020年8月2日まで「千鳥 UTSUWA GALLERY」にて「新道工房展」を開催中です。
 
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今日のうつわ用語【向付・むこうづけ】
日本料理で膳(飯碗と汁椀)の向こう側につける料理や、それを盛り付けるうつわのこと。子宝を意味する虎をかたどったものや、山水画を施したものなど、かたちや絵柄に趣向を凝らしたものが多い。
【PROFILE】
新道工房/SHINDOU KOUBOU
工房:愛知県瀬戸市新道町
素材:磁器
経歴:宮本茂利(みやもと・もり)さん、智子さん夫妻が営む工房。おふたりとも瀬戸の窯業訓練校で焼物を学んだのち、茂利さんは九谷と瀬戸の工房、智子さんは九谷の窯元で働く。2002年新道工房を設立。 https://www.instagram.com/shindoukoubou/?hl=ja

千鳥 UTSUWA GALLERY
東京都千代田区三崎町3-10-5原島第二ビル201A
Tel. 03-6906-8631
営業時間:12時〜17時(月〜金)、12時〜19時(土、日、祝)
定休日:不定休(定休日はHPで確認のこと)
http://www.chidori.info
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『新道工房展』開催中
会期:2020年7/23(木・祝)〜8/2(日)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

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