うつわディクショナリー#78 安らぎの白、角田淳さんのうつわ

おおらかな白のバリエーション

「白ってこんなにあたたかいの?」 角田さんのうつわを前にして気づくのは、白という色彩が持つ、これまで知らなかったあたたかさ。焼物ならではのさまざまな白を身近に置いて、安らぎの時間を過ごしてみませんか?
 
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—真っ白からベージュがかったものまで、角田さんが生む白のグラデーションにひかれます。
角田:焼物には陶器と磁器がありますが、私が作るのはおもに白がベースの磁器です。色味は、使う土やその調合、合わせる釉薬によって変わるのですが、頭に思い浮かんだ作りたいイメージから「この土にしよう、この釉薬を合わせてみよう、焼き方はこんな感じがいいかな」というように最終的なかたちが決まっていくことが多いですね。組み合わせが大事なので、自然とバリエーションが増えてしまうんです。釉薬には庭のクヌギの木の灰を用いることもあります。
 
—作りたいかたちに合わせていくんですね。
角田:作りたいかたちは、美術館や博物館で観たものや、展覧会の図録にあるもの、古道具屋さんで見たものなどを元に浮かんでくるので、見たものを忘れないように工房の壁に描きとめています。そうして描きとめたイメージをもとに自分の手を動かしながら、思っていたイメージとかたちがつながって新しいものができていくという感じでしょうか。今回の個展に出品している高台付きカップソーサーは、古いものを見た時の感覚を描きとめたスケッチから拾い上げて作りました。 
 
—角田さんの小サイズの角皿を愛用しているのですが、盛り付けた時にちょうどよく余白が残る縦横の長さのバランス、ほんの少し深さがあって汁気のある献立の取り分けにも向いているなど、使ってみると細かな工夫があることに気づくんです。
角田:うつわのかたちは、有田、伊万里の焼物、古いものや外国のものに影響されて生まれることが多いですが「使うならもう少し小さい方がいいな」とか「サイズ違いであってもいいな」とか食卓の風景を想像して作りますね。中学生と小学生の息子がいることもあり、料理は毎日しています。ケーキや焼菓子を作ることも多いですね。手をかけるというよりはシンプルに。同じ献立なのに毎回味がちょっと違ったりしますけど、家庭料理は、家族が喜んで食べてくれる美味しさであればいいですよね。 
 
—焼物も、毎回焼き上がりが違うものだったりしますね。
角田:私が作るものは、クグロフ型のボウルや輪花皿など定番のかたちも多いので、同じ色をもとめて買いに来てくださる方も多いのですが、自分自身が窯を焚くたびにさまざまな白の表情が生まれていくことを楽しんでいるので、どうしても以前のものとは違ってしまう。でもその振り幅がないと面白くないなとも思っています。
 
—角田さんが陶芸をはじめたきっかけを教えてください。
角田:絵を描いたり、手を動かして作ることは子供の頃から好きでしたね。長崎に波佐見焼という焼物があるのですが、有田の窯業大学校時代にその職人さんに習う機会があって。磁器の土を触ってみたらとても気持ちが良かったんです。それに先生は80歳を超えていて普段はゆっくりと歩いているのに、ろくろに座ったとたん、ピシッとかっこいい。できるものもきりっと美しくて。職人としての先生のそういう姿に心から憧れてしまってしまったんです。
 
—そこから、どのようにして陶芸家に?
角田:焼物の世界でやっていくなら30歳までに独立して生計が立てられるようになろうと決心しました。すでに夫の松原(竜馬さん)に出会っていたので、一緒に常滑に移住し、アルバイトをしながらうつわを作っていました。経験の少ないなかでも自分で技術を高めて独立できたのは、同世代の陶芸家がまわりに多かったという環境も大きいですね。クラフトフェアまつもとなどに出品するうちに、すこしずつお店やギャラリーで取り扱っていただくようになりました。
 
—磁器の土は触っていて気持ちがいいとおっしゃっていましたが、ろくろで成形する工程は、きっととても楽しい時間なのですね。
角田:そうですね。手触りが滑らかというのもありますし、ろくろをひきながら、のべべらという道具を使って広げるように引っ張る作業がこの上なく気持ちがいい。リラックスしながら仕事をしている感じです。
 
—工房は、とてものどかな自然溢れる場所ですね。
角田:自宅から工房までほんのすこしの距離を歩くだけでも、草木の芽吹きや日の光の移り変わりに気づいたり。朝、霧がかった空を見てゆったりできたり。環境のおかげでなんでもない普通の生活の中で贅沢ができているかもしれませんが、きっとどこにいても、同じような感覚を持つことはできるのではないかと思います。
 
—その感覚は、角田さんが窯出しした焼物の中に、新たな白の美しさを見つけて提案していくことに通じていますね。いま新たに見てみたいと思っている色はありますか?
角田:今回、初めて銀彩に挑戦したんですが、金属のエレガントな美しさに気付かされました。歳を重ねて身につけるアクセサリーは、シルバーよりもゴールドが素敵だなと思うようにもなって。自分の感覚にあう、絢爛豪華とは違ったエレガントな金彩のうつわを、いつか作れたらと思っています。
 
*12月14日(月)まで、KOHORO二子玉川にて「松原竜馬 角田淳展」を開催中です。
 
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うつわ用語【磁器・じき】
おもな原料に陶石を粉砕した石粉を使い1200度以上の高温で焼成した焼物。素地は白色で耐水性はほとんどないためシミがつくことが少なく、一般的に陶器より取り扱いがしやすいとされる。
【PROFILE】
角田淳/JUN TSUNODA
工房:大分県宇佐市
素材:磁器
経歴:有田窯業大学校卒業後、夫で陶芸家の松原竜馬氏とともに愛知県常滑市に築窯、独立。2014年、夫の故郷大分県宇佐市に移住し窯を築く。1975年熊本県生まれ。https://www.instagram.com/matsubara.ryoma_tsunoda.jun/?hl=ja


KOHORO二子玉川
東京都世田谷区玉川3-12-11 1F
Tel. 03-5717-9401
営業時間:11時〜19時
定休日:水曜(展示会中無休)
http://www.kohoro.jp
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

「松原竜馬 角田淳展」開催中
会期:2020年12/4(金)〜12/14(月)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

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